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第3ミッション 部屋を大掃除してみよう 中編

 パソコンのモニターには”神様からのミッション3”と表示されている。

 セミの大きな鳴き声と、遮光カーテンでも漏れる日差し。今日も外は暑いんだろうなと予想を立てるが、引きこもりの自分にはエアコンの効いた部屋でのんびり寝て、ゲームをして過ごす予定しかないので、関係ないと思っていたが、モニターに次に表示された内容を見て、”げぇ”と声が漏れる。

 

 ”部屋を大掃除し、布団をベランダに干せ”

 

 過去2回”神様からのミッション”を行ってきた。

 その内容は、2回ともに”掃除”。だが今回と前回のミッションの違いは、曖昧さにある。

 1回目は”PCが置かれた机の上を片付けなさい”というもので、机の上さえ綺麗に片付ければよかった。

 2回目は、”周りの本を片付けなさい”で床に置かれた本を、棚になおせばいいだけだった。

 2つともに、モニターに表示されている内容に沿って、行動すればできる。

 しかし、今回の布団をベランダに干すのは判るが、部屋の大掃除ってどこまでやらせるつもりなんだろうか?部屋の片付けをほとんどやらない自分が5時間で解決できるものなのか?

 ネガティブな思考で頭でっかちに考えすぎて、動こうとしない僕をよそに、どんどん進んでいくカウントダウンを見て、頭を振り意識を切り替える。

 

 「やらないと、パソコン爆発されそうだし、はぁ」

 

 母はすでに仕事に向かったようで、多少音を出しても大丈夫だろう。

 まずは、部屋の中央に置かれた布団をミッションの通り干さないと、片付けるのに邪魔になる。

 ベランダには自分の部屋から行き来できるので、ほかの部屋に移動して布団を運び込むとか、そういう面倒はないのだが、ベランダといっても一年ほど外に出ていないので恐怖心がある。

 

 誰かに見られているのではないかと・・・。

 

 視線恐怖症というのだろうか、人に見られるという事がたまらなく怖い。そう考えていると記憶の一部が蘇る。顔も知らない、見ず知らずの複数人からスマホを向けられ、カメラのシャッター音が頭の中にフラッシュバックする。

 気がつけば、脚がガクガクと震えて、床に手を着いていた。

 1年たっても消えない心の傷。こうなってしまった原因を母が心配してくれて、病院へ行こうとか言ってくれたのだが、いまだに行っていない。

 カウンセラーと話しをするのが嫌だ。今の僕にとって、自分の惨めな過去を語る事自体苦痛でしかない。ちょっとずつでもいいから話をしてみてはどうだろう?と他人は言うだろう。

 

 「自分じゃないからそんな事が言えるんだ!」

 

 頭の言葉が叫びに変わる。きっと話をした後で、そのカウンセラーは知人に、僕のことを話しをして、酒の肴にするに違いない。

 そんな誰かのネタにされるのはまっぴらごめんだ。

 誰でもない、あくまでも自分が生み出した想像のカウンセラーにやり場のない怒りを吐き散らす。

 本物はそうじゃないかもしれない。

 ちゃんと話を聞いてくれて、何か”この気だるい世界”から抜け出るきっかけになるアドバイスをくれるかもしれない。

 僕もこのままではダメなのはわかっている。毎日ゲームをし、インスタントラーメンや、冷凍食品を口にして、惰眠を貪る。

 初めの数ヶ月は良かった。何をやってもやる気がなければ、次の日でいいやって何でも先送りに出来る。しかし1年も続ければ判る。生活していけるのかという恐怖が生まれ始める。

 株をやって、貯蓄残高を増やす錬金術なんて持ち合わせていない。

 じゃあ、外に出ずにどうやって稼ぐのか?何度も調べてみたが、結局僕にできる事はなかった。よく見かける、あなただけにお金を稼ぐ商材を教えますとか君だけに教えるFXで稼ぐ方法とか、ありえない。

 例えば年収1億稼げる人がいたとして、その錬金方法をたった1人に教えたらどうなるのか?今年の年収は9千万円でした。となった場合、教えた1人が1千万を持っていったかもしれない。それを機に教えた1人がまた1人、別の誰かがまた1人と教えていった場合、1億稼げていた市場がだんだん崩れていき、1番始めに稼げていた人物はどうなるのだろうか?きっと市場から吸い上げることができなくなり、手取は少なくなっているはずだ。じゃあ新しいビジネスを探すのだろうか?

 それはナンセンスだ。まず初めに、そんな1億も稼げる頭のいい人間が、自分が教えた事で崩れだす市場を想像できないはずがない。

 じゃあどうするのか?増やす方向で考えるはずだ。どうやって?簡単だ。市場を肥やせばいい。

 1億稼げるということを武器に、宣伝を打ち、自分の市場、もしくは別の市場に嘘をリークして市場を肥やし、それを回収すればどうだろうか?

 回収する方法は1億を稼げる事でノウハウは掴んでいる。そんな人間にうその情報をつかまされて、投資をするのは、馬鹿げている。

 しかし、これはかなり巧妙に情報が流れており、僕も始めは信じかけた。なぜってお金がほしいと思う人間は、心の隙間がぽっかり開いていてちょっとしたキーワードに反応してしまう。”簡単”、”100%”、”絶対稼げる”、”違法性がない”などのうたい文句を簡単に信じてしまうのだ。

 初めは、ありえないとどこかで思うのだが、何度も同じ事を言われ続けると暗示のようなものにかかってしまうらしい。これは掲示板で書かれていたことなので信憑性はどうかわからないが、”言われ続けると信じる”という部分は、僕もきっと騙されてしまうんだろうなと肯定している。

 外に出れない事で騙してくる人間とのコミュニケーションを取れない事や、ネガティブな性格が良かったのか、そういった情報や、詐欺商法をどんどん検索していき、”ありえない”とわかったのである。

 自宅でできるネットビジネスなんて限られているし、僕にはビジネスセンスがない。

 ちょっとできそうな手元0円のネットビジネスがあったので、やってみたが3日と立たずに飽きてしまい、すぐにやめてしまった。

 やめた理由は、今すぐに目に見えて結果がほしい。

 ゲームというのは、そういう意味ではよく出来ている。モンスターを倒してがんばれば、がんばるだけ強くなっていく。今日強くならなくても、装備を変えるだけでも強くなれるし、敵を倒して手に入れたお金が自分の強化に繋がる。日々何をしても自分の強化に繋がるのだ。

 ゲーム内マネーがリアルマネーと直結していれば、僕は今頃大金持ちになっているだろう。画面に表示される金額を見て、いつもため息をついている。

 RMTリアルマネートレードというゲーム内のお金を、業者が買い取り、それをまた別のプレイヤーに売るというものがあるが、違法性のあるものには手を出したくない。

 ばれれば、アカウントが、ゲーム運営者に消されてしまうし、IPアドレスで自分のパソコンを特定されるのもいやだ。ネットカフェでやればいいじゃないかという人もいるかもしれないが、外に出る事のできない僕は、そんな事そもそも無理だ。

 じゃあ、ずっと母が支援してくれて助けてくれるのか?答えはNOだ。

 母に重荷を背負わせたくない。

 僕自身も、根底には女性と付き合ってエッチな事もしてみたい!という野心がある。

 

 あれだけのことをされたのに・・・。

 

 気を取り直し、野心をかなえるにはまず、この”居心地のいい”自分の部屋から出ないといけない。布団を干すと言う事は、僕にとっては、外に出る為の第一歩なのだ。

 しかし、その第一歩を踏み出すのにどれだけの勇気を振り絞らなければならないのだろうか?

 さっきも言ったけど、視線恐怖症みたいな所があって、布団を干している間に誰かに見られたらどうしようかと思う。

 うちの前は、学生、主婦などさまざまな方々が通る私道があり、通勤通学が落ち着く朝の9時という時間でも人通りは結構多いほうだ。その人通りが多い道路に面してベランダがある。

 裏手なら空き地があるだけでよかったんだが、これはかなりやっかいだ。

 布団を干すなんて簡単な事だ。干して、ハタキでダニを追い出し、後は紫外線を十分に伝えるために、5時間ほど放置すればいいはず。

 その簡単な事ができない。本当に怖いんです。

 もう部屋をうろうろして、1時間経つ。後4時間。

 布団を一旦端にどけて、片付ける方向で作業を進めていけばいいのだが、布団を畳んで置く場所がない。

 6畳の部屋に漫画本が棚にびっしりあり、パソコンが置かれた机もある。

 押入れも、モノで散乱している。

 どうする僕・・・。

 もう覚悟を決めるしかない。

 

 「布団を干そう!」

 

 ベランダに繋がる窓に手をかける。ガクガクガクと脚が震える。

 

 「誰も僕を見ていない。誰も僕を見ていない」

 

 呪文のように何度もつぶやき、どうにか窓を開ける。吹き抜ける風。久しぶりに日を浴びた外のにおいを感じる。

 気持ちがいい。

 両手を伸ばし、風を感じる。

 

 「あ、こんなことをしてる場合じゃない」

 

 まずは掛け布団を手に取る。そしてなぜか自衛隊の人たちが、体を地面につけゆっくりとはいずって前に進む匍匐ほふく前進で進む。

 気持ちは、戦場で敵に見つからないように進む兵士だ。

 ベランダはコンクリートで作られており這いずって移動しても、壊れる心配はない。

 道路側の人たちからは、僕が布団を干す為に立ち上がるまで、こちらの姿は捕捉されないだろう。

 ベランダに掛け布団を運びいれ、腰をかがめた状態で干せないか試してみる。何度もベランダのフチに投げかけてみるが、うまくいかない。

 2つ目の作戦で、もう立ち上がらなければならない。自分のボキャブラリーのなさに嘆く。掛け布団を大きく広げ頭の上まで持ち上げる。アニメで忍者が布を使って自分の体を隠す方法と同じだ。

 そうこれなら、僕の姿は見えないはず。

 上手くベランダに掛け布団をかけると、そのままダッシュで部屋に戻る。

 敷布団も同じように、匍匐全身からの、姿隠しからベランダに布団をかける。

 

 「おっしゃーーーーー!!」

 

 ガッツポーズを作る。よくやった僕。自分で自分をほめてあげたい。

 布団がなくなった事で、部屋がずいぶん広く感じる。部屋には散乱された衣類。まずはこれを洗濯室にもっていく。

 戻るついでに大きなゴミ袋と掃除機を持って自室に戻る。とにかく大きく邪魔なものは廊下に出して、一気に掃除機をかける。

 その際にGの死骸などに驚きの声を上げたりしたが、とくに大きなイベントもなく掃除機をかけ終わる。

 後は、押入れの雑多な物を片付けるだけなのだが、これはこれでかなり時間をとられた。

 気がつくと、ごみ袋が3つ。押入れの要らないものを整理するだけで大分袋を使った。

 後は布団を引き上げるだけだ。

 パソコンの画面を見る。30分を切っている。5時間あって(うだうだしていたせいで実質4時間だけど)4時間半も使った事になる。

 そんなに、片付いていなかったのかと、反省する。

 最後の一仕事が一番厄介だ。

 布団を取り入れる間、ずっと僕の姿をさらしてしまうわけだ。

 もしここで、何らかの理由で僕に張り付いている探偵がいたとして、布団を干している事に、取り入れる為に、僕が次に姿を現す事が確定しているわけだ。

 

 そんな所を写真に取られてしまったらどうしよう。

 

 しかし、一度吹っ切れると行動は、意外と早かった。またベランダに繋がる窓を開けて匍匐前進で移動。そこから隠れながら布団を下に引きおろす。

 これなら僕の姿は見えないはず。その場の対応力、すばらしい考えに思わず笑みが漏れる。

 掛け布団も、敷布団も引きおろし作戦でうまく回収できた事で、これでミッションクリアーだ。

 

 パソコンの画面にも”ミッションこんぷりーと!”の文字。

 

 今までにない大規模なミッションに肩から力が抜ける。今回のご褒美は今まで以上のものでないと、わりに合わないなと思いつつ、しかし何かご褒美の予兆のようなものは感じない。

 現在の時刻は14時。

 疲れきった体は睡眠を求めている。

 

 「眠い」

 

 ぽかぽかする日の暖かさを感じる布団に包まると、暑いんだけどなんだかうれしくなる。

 

 これがご褒美なのかな?

 

 神様がくれた今回のご褒美。暖かい陽だまりの優しさ。

 ちょっとがんばったにしては、しょぼい気もするけど、こんなにも気持ちがいいならそれでもいいやって思えた。

 起きればもう21時。

 あれ?寝付いた記憶がない。いつもは寝つきが非常悪く寝るのに苦労する。それに夢見も悪い。

 けど夢を見た記憶がない。

 エアコンが効いた部屋に、ぼぉーと座り込んで自分に起きている現象が変な気分になる。

 すごい体の中に充実感がある。体が軽い。

 

 「よし!今日の狩りは本気だしちゃおうかな~」

 

 こんなすがすがしい気分でパソコンの前に座るのは久々だな。

 ゲームを起動。

 朝ログアウトしたギルドホームにマイキャラ、ダームエルフのロディが出現する。

 

 『ロディすぐに集合!!』

 

 ログインしてすぐに、ギルドマスターハゲマゲさんの声がヘッドホンから流れてくるが、どこか必死さがあった。

 チャット欄を開いて挨拶はせず、ギルドメンバーがログインしているかがわかる一覧画面を開く。

 そこには、メンバーがどの地域にいるのか表示されていた。ハゲマゲさんがいる場所は、朝戦っていた蟹とはさらに10レベル上の地域にいるらしい。

 

 「何があったんだ?」

 

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