第4.2ミッション ミッションこんぷりーと! 後編
誘拐レイプなどの不快な言葉が多々あります。
気になさる方はご遠慮ください。
夜の月の美しさを感じるそんな事も考える暇さえないと男が、都会のビルのジャングルを駆け回る。
必死な顔からは、鼻水を垂らし呼吸が浅いのか何度も息を吸い込む口からは涎も見られる。
衣服もボロボロで身体は汗と垢でかゆくて仕方ない。
しかし、ここで足を止めれば確実に追ってに捕まる。
「いたぞ!!あそこだ!」
追ってのスーツを着た数人の男たちが、こっちに向かってくる。
(ふざけんな!こんな所で捕まってたまるか!!こうなったもあいつらのせいだ。全部あいつらの・・・。絶対ぶっ殺してやる!!)
スーツを着た男たちは警官。そして逃げている俺は早瀬哲哉。
自分に複数の容疑が持ち上がり、警官たちの動きが活発になったと”裏”の情報屋から情報が来る前に、そうなるであろう事は予想済みだった。
そうあれは”あいつら”が楽しいパーティに乱入して来たからだ。
数日前。
映画研究サークルの冴えない女カメラっ娘の”鵜飼千尋”が昔、俺に興味がないとか言いやがったんで、ちょっと気持ちよく飛ばして(この間買った薬物を使用して)ヒーヒー言わせてやろうと、仕掛けをして今、キモオタどもと居酒屋に来ている。
この飲み会は次回の映画鑑賞で撮影に関する根回しとして、俺の子飼いのダサ男を使って、こっちのおごりで誘った事になっている。
だが資金の出どころは、この周りにいるキモオタどもを嵌めて撮った動画から出てるから笑えるぜ。またこいつら使って面白い動画撮って、さらにもうけりゃ俺の懐はウハウハだしな。
キモオタどもは、全く面白くもないバカ話ばっかりやりやがって。
俺の前に座る鵜飼千尋も、つまんねー顔してこっちを全く見やがらねーし。
せっかくイケメンが前に座ってやっているんだぞ。
俺の隣にいる仕掛け人のギャル娘に視線で合図を送る。
「鵜飼さん。もっと飲んでよ~。こっちのおごりだしさ」
「いえ。明日新作映画を見に行くつもりなんで。あんまりお酒は」
このギャル娘名前は・・・忘れたわ。バカなのか?”おごり”だって協調すれば警戒されるに決まってんだろ。
後でダサ男の相手させてやる。
面倒だが俺が攻めるか。
「千尋。お前さ。あのキモオタの事まだ思ってるんだろ?知ってんだぜ俺さ。去年のあの時、ずっとお前があいつを追いかけるように視線送ってたのをさ。けど、バカだよな。あいつって星山を送って行って、何をとち狂ったのかホテルに連れ込んで暴行しようとしたんだからな。あんとき俺らが気が付いて助けてやらなかったら、今頃は星山は大変な事になってたかもな」
「・・・・」
1年前の話を聞いて、千尋の手に持っているコップがプルプルと震える。
この1年こいつは俺を避けてきたので、なかなかこの手の話を持ち出す事が出来なかった。
ようやく使えたこいつを煽る言葉に少し興奮を覚える。
泣きそうないい顔で震えてやがんの。やべーこの情けない顔そそられるわ。
しかし、ちょっとこいつを刺激する危ない会話だったが、あいつをかばうような動きを見せて店を出て行く勇気なんてねーのを俺は知ってんだよ。
今日だって本気で”俺”の事が嫌なら、ここに来なきゃいいんだよ。
俺が来るってわざわざ匂わせるように、ダサ男に伝えてあったからな。
それをわかって来たって事は、こいつはグループの輪を乱すタイプじゃないってこった。
それだけじゃない。本当はいやだいやだと言いながら、まぁ俺のようなイケメンを見たいって気持ちはわかる。わかるわ~。
だけど本当にバカな女だよな。
それなら最初から俺になびいて、ひぃーひぃー言わせて可愛がってやったのによ。
しかし、自分でもなんでこんな冴えない女に興味があるのかわからない。
化粧も薄いし、存在も薄い。地味だ。
眼鏡で、どっから見てもオタクに見える。
隣にいる仕掛け人の女は完全にギャルで、香水がくせー。
俺の見かけからこんな奴らが回りに集まるが、正直ケバイ女は好きじゃないな。
まぁ食うだけなら隣のギャル娘でもいいんだが、金を見せるとすぐに股を開いてなびいてくるからうっとおしい事を考えなくていい。
だけど、あれだわ。征服感が足りない。
金で解決するより、純情そうな女を、俺好みに変えてから孕ませて捨てて、泣きっ面を拝んだ時の快感は想像するだけでマジたまんねーな。
しかし千尋から、はっきり俺に興味ないのでと言われた日には呆然としたものだ。
このイケメンの俺が直々に声をかけたのによ。
だが、こいつを見ていると最近どこかで頭の片隅にチラチラとうっとおしく見えるものがある。
「ほら。鵜飼さん嫌な事忘れて今日は飲も~よ~」
千尋は仕掛け人の女に、進められてどんどん酒を飲んでいく。
そう。この”流れ”を作るためにわざわざ会話を危ない方向に振ったのだ。居酒屋を選んだのも”一般人が酒を飲んでストレスを解消”できる場所だからだ。
オシャンな所に連れていってりゃ、こんな展開は作れなかったはず。俺の経験上、慣れた場所は誰でも気を抜く。
サークルって場所は結構飲み会が多くて居酒屋を利用するから、ホームグランドだと勝手に勘違いしやすくなる。
このバカ女も例外じゃなかったってこった。
ただ千尋が俺以外の奴らと飲み会に行っていたと思うとかなりイラつく。
「ちょっと席をはずします」
千尋が席を立つと仕掛け人の女とアイコンタクトして、千尋のグラスに薬を仕込む。
もちろんキモオタには気づかれないように巧妙に仕込んだ。
これでお持ち帰りして、もう俺から離れられなくしてやる。
戻ってきた千尋は何も知らずに口にグラスを付ける。
「あれ、鵜飼さん大丈夫?」
「千尋大丈夫か?」
ギャル娘と一緒に心配するフリを装う。
俺は思わず笑みが漏れそうで必死で顔を作る。
絶対俺、名役者になれるわ。
千尋の奴は今猛烈に眠気に襲われているはずだ。
「ちょっと飲みすぎたんだよ。家まで送って行くから」
「い、いえ・・。だいじょ・・・ぶ・・・」
「うん?よく聞こえない。あ、やっぱり家まで行くよ」
ギャル娘の演技もド素人臭いが、まあなんとか回りをだませている感じがある。
「鵜飼さん。大丈夫?僕家近いから着いて行こうか?」
最近、千尋のそばに何かといるコバエが何か言っている。
俺がダメ男に合図すると、コバエの肩を掴んで別の場所に消えていく。
それを見ていたキモオタ達は何かを察したのか、もう目をこちらに向けていない。
わかってんじゃん。そうそう察しのいい奴は俺は好きだよ。
ここの会計をサークルの部長に持たせる。
少し多めに手渡しておいた。
ふらふらの千尋の腕を俺の肩に回して、店の外へ出る。
さっLINEしておいたから、黒いワゴンが店の前に止まる。
横開きのドアが開いて、人相の悪い大柄の男アッチーがニヤニヤして降りてくる。
「おいおい大丈夫かよ。そのお嬢ちゃん」
「俺が今から極上の介抱してやるから大丈夫だ」
「ぎゃははは。逆に壊れちまうって」
ワゴンに連れ込んで、いつものホテルではなく俺の家の別邸に向かう。
千尋は俺の膝の上に頭を乗せて寝ている。
ほかの奴らにも触らせるのが嫌で俺が一人で千尋の体を引っ張って車に連れ込んだ。なぜかこいつがほかの男に触られると思うと無性にイラつく。
こいつらともかなり長くつるんでいるし、いい思いはさせてやりたいが、後から合流するギャル娘で我慢しろと言っている。
千尋のおでこにかかる前髪をそっとなぞる。ダメだ。今からこいつを食えると思うと興奮が抑えれらねー。
久々に純情女を食う楽しみに俺の胸が躍る。
別邸の門前の近くで車が急に止まる。
「おい。中まで入れろよ」
「いや。てっちゃん。どうも怪しそうな警察っぽい奴らが門にいるんだが?」
「はぁ?」
車内のスモークガラスから、別邸の門前にはかなり大人数の警察が見える。
「マジか?!なんで?!」
「ど、どうする?!ダッシュで逃げるか?」
「はぁ?お前バカか?何もないようにゆっくり車を門前を通りすぎるように移動させろ。そんでそのまま通りすぎるんだ」
「わ、わかった」
道幅が狭い道路なので徐行運転を装いながら、ゆっくりと車が門前を通り過ぎる。
そこで見たのは、別邸で若い女を楽しんでいたと思われるうちの大学の校長だった。
親父は、捕まっていなさそうだが、確実にこの件に関わっているな。
親父は無類の若い女好きだからな。
そのまま、門を通り過ぎるといつものラブホテルに向かう。
あそこまでは警察の手にかかってないはずだ。
「てっちゃん。そいつどっかで降ろしたほうが・・・」
「ますぅ。次それ言ったらぶっ殺すから」
「哲いいのか?こいつの言う事も」
「アッチー。どの道どっかに雲隠れしても警察に捕まればうるさい事になるんだ。それだったらこいつを”調教”して何もなかった事にすればおいいんじゃねーか。それか楽しんだ後で海に捨てればいい」
「さすが哲だわ。それいいな」
俺の意見に、アッチーが賛同した事で、ほかの奴らも黙ってついてくる気になったようだった。
しかし、この流れだと千尋をみんなで回して、ヤク漬けにして精神をつぶさねーとやばそうだな。
俺の中で、今後の算段が出来上がっていくがあまり面白いものではない。
思案していた所に、親父からLINEでメッセージが入る。
”どこかに身を隠すように”
言われるまでもねーよ。と返事しておく。
親父もどこかで、校長の話を耳にしたんだろう。まぁ議員だから捕まる事はねーだろうが、最近世間のバッシングが激しいから、ほとぼりが冷めるまで若い女遊びはできねーだろうな。
ラブホに着いてガレージから千尋を運びだし、ほぼいつもの部屋にチェックインする。
「なんか落ち着くわ~」
千尋をキングのベットに置きながら、スマホで状況を確認してみる。
まだ、校長の件は公にはなっていないらしい。
マスコミが好きそうなネタなんだがな。
「ぐはーー」
ベットに腰かけてスマホをいじっていた俺はアッチーが吹っ飛んでくるのをスローモーションのように、驚きの顔で見ていた。
全く状況がつかめていない。
アッチーは元ボクサーで上半身ムキムキの武闘派だ。
その巨体が簡単に宙を舞う事が常識の範囲で捉えきれない。
部屋の扉の方には数人の気配を感じる。
そして、足音が部屋まで入ってくると、女?男?中世的な顔細い腕の野郎と後4人の男が入ってきた。
「なんだ?!てめーら?!」
「う~ん。オフ会で集まった楽しい仲間達?」
「かぉるぅ~~。そこは恋人とかあるんじゃないのか?」
わけのわからない事を中世的な野郎が答える。声も女っぽくて性別が掴めない。
隣にいる男が抗議しているがどうでもいい。
アッチーが立ち上がり、眉間に青筋を立てて中世的な野郎の前に立つ。
「さっきはよくもやってくれたな」
「もぅ~臭い。もう少し歯を磨いてミントの香りをさせないと」
鼻を摘まみながら、アッチーを挑発する中世野郎に俺らはニヤニヤが止まらない。
(こいつ死んだな)
ミドル級で8回戦まで行ったアッチーが、こんなひ弱そうな奴を殺すのに、時間がかかる事は想定できない。
「かおるぅ~。待てよ。お前がやる事は・・・」
「黙ってて。私、今日は今まで溜めたストレスを発散するって決めてるの。こいつなら少々やっても死ななそうだし」
「何言ってやがる!!死ぬのはてめーだ!!」
殴りかかるアッチーに、あ~野郎の顔面が陥没だわと思った瞬間、アッチーはまた宙に浮いていた。
中世野郎がアッパーでアッチーの顎を見事に撃ち抜いたのだ。
しかし、そんな事でボクサー時代より体重が増えたアッチーが宙を舞う事はない。
そのままアッチーは床に倒れてピクリともしない。
「あー本気でやり過ぎちゃった。もう少し楽しむつもりだったのに。これじゃあストレスの10分の1も解消できないじゃない」
そういうと中世野郎は俺の顔を見る。
奴の視線を見た瞬間、恐怖で動けなくなった。
「僕は悲しい。こんなチン○ス野郎に、僕の大事な人の人生を少し歪められたなんて」
「かおるぅ~。あいつがそんなに大事なのかーーー!!?」
俺達を放置して5人が何やらわけのわからん話を始めたおかげで、野郎の呪縛から解放された俺は言ってやった。
「お、お前ら!!こんな事をしてタダで済むと思っているのか?!誰を敵に・・・」
「あぁもううるさい。あんたの顔見てたら我慢できないじゃない!!お前みたいな腐った奴が僕の大切なロディの中に残るな!!」
言葉を続けようとした所で、俺の首が180度曲がったような衝撃を受けた。
そこからの記憶がない。
気が付いたら、どこかのマンションのごみ置き場に寝かされていた。
臭い匂いに飛び起きて回りを確認したが、ここがどこかわからない。
「くそ。顎がいてー。なんだよマジくせーな。・・・はぁ?ここはどこだ?」
大量のゴミ袋の上にいたのでとりあえず起き上がり、においが移った上着を捨てる。
とりあえず、ケツのポケットに入っていた財布を確認できた事でほっとする。
まずは金で解決できる事をしねーと。
匂いを落とす為に銭湯に行こうと、場所を調べる為にスマホを入れているもう片方のケツのポケットを調べるが何も入っていない。
「くそ。マジか」
とりあえず、不審にこっちを見てくる主婦達に威嚇の視線を送りながら移動を開始する。
銭湯は見つからなかったが、コンビニで消臭スプレーを買って全部使い切る。
それでも残るニオイにイライラが溜まって仕方ない。
「くそー!」
どう考えても、最後の記憶にあるあいつらのせいだ。
顔は思いっきり見えていたので、捕まえて生まれてきた事を後悔させてやる。
タクシーを捕まえて、そこから最近の隠れ家にしているマンションに向かう。
ドライバーの親父が嫌な顔が時折こっちをルームミラーで見ていたが、威嚇して黙らせる。
「こっち見んな!禿げは前だけ向いて運転していろ!!」
禿げたタクシードライバーはそれからこちらを見る事無く、出来るだけ最速でマンション前にタクシーを着ける。
指紋認証でドアロックを外して、玄関からすぐにエレベータに飛び乗る。
「ふぅ」
仲間達がどうなったか気になったが、とりあえず全部忘れてシャワーを浴びたい。
部屋の鍵も指紋認証でロックを外して中に入る。
自動感知システムが作動して、室内温度を適温にするためにエアコンが作動する。
そのまま、玄関、廊下を歩いて脱衣所に服を投げ捨てて、シャワーを浴びる。
3回体を洗って、風呂から上がり冷蔵庫からビールを取り出す。
蓋を開けるとカシュと言う音と共に炭酸の抜けていく心地よい音が聞こえる。
リビングに向かい、まずテレビで情報確認をする。
「な、なんだと?!」
そこに映っていたのは、親父が刺されたという情報だった。
まるで、映画かドラマの間違いじゃないかと思うような目でテレビを呆然と見ていた。
犯人はまだわかっていない。
一瞬俺をこんな目に合わせた奴らの顔が浮かぶが、それは違う気がする。
俺に隙があって、こんな目にあったが、親父の奴はあんなんでも議員だ。
秘書も何人もついている。
俺とはかなり状況が違いすぎる。
じゃあ刺したのは通り魔かと言えばそうじゃないだろう。
校長が捕まった件で、親父はLINEしてきたって事はそれまでの時間は大丈夫だったってこった。
「あのバカ親父。女に刺されたかもな」
親父がヤク漬けにして飼っていた女がいた。
星山志帆。
バカな女だ。俺達とつるんでいる時は、意気揚々と俺らに指示を出して悪い事させていたのに、親父に気に入られて、ちょっとずつヤクに手を出すようになってぶっ壊された。
この間会った時には目の焦点があってなかったからな。
別れ話でもして刺されたんだろう。
「ちょっと、待て?!なんでコレが報道されてんだ??!」
親父が刺された流れで、息子の俺の話に切り替わった。
そこには、昨日俺が鵜飼千尋に一服盛った所でホテルに連れていく所、無事千尋が救出された話、それ以前に俺がキモオタどもを罠に嵌めて動画をアップして金を稼いでいた事。最後に薬物を売人から購入しているシーンまで映っていた。
ソファに深く座り込む俺。
暗視カメラで撮影された内容のようで、俺が緑色で映っていたが顔ははっきりとわかる。
20歳を超えている俺は未成年法が適応されない。
しかし、普通はこの年代は顔が出ないのが当たり前なはず。
スマホが手元にない状況では誰に何を確認していいのかわからない。
「と、とりあえずここに入れば大丈夫だ。警察もここには来ないはず」
ここのマンション名義は赤の他人の名前を借りたものだ。
そうそうバレるはずがない。
ピーンポーン。
ドキッ!!として心臓の音がバクバクと跳ね上がる。
そぉっとカメラに映る人物を見る。
全く知らないおっさんだ。当然のように居留守を使う。
それからの俺は気が動転していたと思う。
鳴り響く電話を手に取る。
≪もしもし。私はお父様から情報提供を頼まれているもので≫
<要件はなんだ?>
≪テレビを見てご存じかと思いますが、警察からあなたに複数の嫌疑がかけられており、そのアパートもあぶのうございます。こちらでどうにか手引きさせて頂きますのでご準備を≫
電話を置き、隠し金庫から金を取り出して、服を着て国外に高跳び出来ないかとパスポートとか探すが全く見つからない。
部屋に備え付けられているタブレットからネットアクセスして、偽造パスポートの値段などを調べる。
電話で話をした相手が提示した、意外と手間がかかる高跳びは現実的ではなかった。
必要な物が多い上に、そういう身元証明はすべて実家に置いている。
(だがこのマンションから早く出ないと)
警察に捕まるという恐怖観念から、とにかく逃げたかった。
怪しいおっさんの手引きでどうにか、県内を逃げ切った俺は、正直逃げ切れると思っていた。
蛇の道は蛇。
初めの金があった頃はおっさんが上手く匿ってくれる場所を提供してくれていたの、高額ですぐに手持ちの金がどんどん減っていった。
減っていく金と、テレビに映る過激な報道。追い込まれる恐怖に居ても立っても居られない。
おっさんを置いて俺は一人で逃げる事にした。おっさんの分まで俺が金を出す余裕がなくなったのもあるが、うさん臭さが気に食わなかった。
だがそれが裏目に出たのか現在、真夜中街中を警察から逃げ回っている。
ずいぶん走った。着いたのは街灯がチカチカするボロ公園。そこにあった臭い汚い公衆便所に隠れてやり過ごす。
(あいつらぶっ殺す。あいつらぶっ殺す。あいつらぶっ殺す。あいつらぶっ殺す。あいつらぶっ殺す・・・)
便器に座りながら脳内では、それ以外考えられない。
まだ、何とかまだ金には余裕がある。
2時間はここにいたと思う。
時間は時計になるモノがないのではっきりわからない。
臭い便所から出て、今からいく所はカプセルホテル。
マンションを出る前に、おっさんの手引きがなくなった事を考えて色々調べて九州に向かって、沖縄で身を潜める計画がある。
むしろそれしかないと思えた。
「恋の色は黒色だって知ってた?」
後ろを振り向くと、黒いワンピースを着た女が立っていた。誰かは身長、雰囲気からわかった。その姿を見て俺は動けなくなる。
”恋は黒色”
1年前、あのクソオタ上杉の野郎が撮った映画で使われた言葉だ。
確かストーリーは、可憐なイメージの少女が恋を知ってしまった為に、苦しみ、葛藤を経て前に進むという話だった気がする。全く反吐が出る内容だ。
しかしあいつが作った映画はセリフだけ切り取ると、恋とは嫌なイメージを受けるかもしれないが、このセリフの後に続くシナリオでしっかりとその答えは出していた。
”恋は確かに嫉妬や自分だけを見てほしいという負の気持ちが強くなってしまいがちだけど、その中に生まれる愛や情は本物なんだよ。愛とか幻想だっていうやつはいるかもしれないけど、そこからしか前に進む事はできない”
そしてこの黒のワンピースは”恋は黒色”この言葉を使ったシーンで星山が着ていたものだ。
なぜ覚えているかって?俺の中にこの言葉は響くモノがあったからだ。
親父とおふくろは、5年前に離婚している。
派手好きな親父に対しては、かなり地味で薄い印象のするおふくろだった。
親父は当然のように”議員”を隠れ蓑に派手な女遊び、さらには隠し子が出来たりとやりたい放題だったが、それにずっと耐えていたおふくろ。
じゃあなんで離婚したかって?おふくろが病気をしたからだ。
それだけ。
使えない女はいらないと、親父はおふくろを切り捨てた。
親父がずっとほかの議員の秘書をやっていた下積み時代から支え続けてきたおふくろを簡単に捨てた。
泣きすがるおふくろを、まるでゴミのような顔で親父が言った言葉が俺の中で残っている。
”今までおいてやっていただけ、ありがたく思え”
そんな言葉を吐いた親父に捨てられても必死で、体を治そうと努力し何とか振り向いてもらおうと必死なおふくろが、映画を見ていて思い出した。
去年、無理が祟っておふくろは死んだ。
俺が親父に捨てられない理由は、派手な若い女を紹介する”紹介人”だからだ。
母親を捨てて、俺にお前の女友達を家に連れてこいと言った時から、俺の中で親父は”親父”ではなくなった。
生活費を出してくれるただの財布でしかない。
これはそんな事をしていた俺に対する罪なのか。
ワンピースの女は服装に似つかわしくない包丁を右手に持っていた。
「星山・・・・」
「あなたが、私を捨てるっていうから刺しちゃったじゃない。もう壊れた私はいらないっていうから刺しちゃったじゃない」
こいつ俺と親父を間違えてやがる。
星山が手にした包丁を胸の前で、俺に向けて構える。
「ひ、ひぃ。ほ、星山」
ほそっこい腕で構えているが目が完全にイッてしまっている星山を見ていると”常識”が感じられない。
マジで殺される恐怖に声が震え情けない声しか出てこない。
「大丈夫。すぐに一緒に行くからね」
目はイッてるが、しっかり走ってこっちに向かってくる星山に、警察から逃げ回って体力がない俺にはどうにもできない。
「し、死にたくね~よ!!」
俺が声を出した時と同時に、星山が後ろから羽交い絞めされる。
「だめだ!星山さん!!!しっかり意識を持つんだ!!」
星山を羽交い絞めしてるのは、上杉だった。
「なん、なんでおま、お前が・・・」
俺はパクパクと口を開けて唇が震える。
遠くからサイレンの音が近づいてくる。
こうして俺の逃亡生活は終わりを迎えた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
2年後。
「あ、暑い。映画撮影マジで大変・・・。」
「おい。AD!!演者さんに飲み物!」
「はいぃ!ただいま」
僕、上杉則道は今、映像関係の仕事に就こうと、大学を卒業した先輩が業界で助監督としてやっているのでADとして仕事を手伝っている。
あの事件(早瀬親子事件)で、大学の学長が捕まりそこから早瀬親子とのつながり、不正な金の流れ、学内で女子大生を買春していた事などが世間に広がり、僕の潔白が証明され、大学に復学。
夏休みの間、ADとして先輩からアルバイトをしないかと話が来た事で、この猛暑の中、ADとして駆けまわっている。
事件後は本当に連日、早瀬親子事件がテレビで報道され、大学内でも物凄い話題だったが、2年も立てばその声を拾うほうが難しいほど、誰も話題にもしなくなった。
早瀬の父親は責任追及により議員を辞職。その後”普通の人”になった所を逮捕された。
ほかの議員にも買春の斡旋、ヤのつく自由業の方々との繋がりも発覚し、ほかの議員も巻き込んでの大騒動になった。
野党議員だった事もあり、野党に大バッシングが起こったがこれは別の話。
息子の早瀬哲哉は複数の犯罪で実刑判決、懲役8年が求刑された。
あいつの仲間たちも4~5年の実刑判決が言い渡されている。
大麻所持などでは執行猶予になっていたかもしれないが、誘拐レイプ未遂、実行、麻薬を無理やり投与させたなどで執行猶予なく実刑になったようだ。
僕はいまだに悩んでいる事が一つある。
引きこもっている時は、早瀬の事を恨んでいなかった日はなかった。
しかし、奴がやった事が腐っていた事だとしても、一人の人間の人生を狂わせた事に対するモヤっとした感情が僕の中にある。
恨みを晴らして気持ち良くなるなんて事はなく、だたただ”やってしまった”と言う虚しさがたまに心に襲ってくる時がある。
「上杉!!休憩終わりだって」
「ああ、今行くから」
ADとして呼ばれたのはカメラマン志望の鵜飼千尋もだった。
今回の撮影ではADとしてだが次はカメラマンとして呼ばれたいって気合いが入っている。
(けど見違えるほど、綺麗になったよな)
あの事件から僕が復学して、急に明るくなったイメージがある。
鵜飼もずっと何かを引きずっていたのかもしれない。
ようやく吹っ切れた感じが、前向きにさせたのだろう。それがいい方向に向いて輝いて見える。
星山志帆は、無理やり早瀬の父親に薬をやらされていた事になっており、今病院で治療を受けているとの事だった。
人間本当にどんな人生を迎えるのかわからない。
さてネット仲間たちの話をしてこの物語の最後にしようか。
かおる5人衆は僕を見る度に、拳を作りゴキゴキと鳴らす。
あ、この話はあんまり思いだしたくない。
たつにいは実は警察関係のえらいさんの長男だったらしい。長男でも警察ではなくかおる君の側で一緒に何かやりたいと言っている。
ひろにい(インテリ眼鏡)。弁護士の息子で本人も弁護士として司法試験を受ける準備で忙しい。将来かおる君が困った事があったら何を置いても一番に相談してほしいらしい。
しげっち(カレー大好き)。大手の不動産会社の社長の息子。かおる君と2人で住める高層マンションを考えているらしい。
ささの君(普通の人)。普通サラリーマンになって、普通の幸せをかおる君と過ごしたいらしい。
まさきん(子供のころから筋肉にあこがれていた武闘派)。俺の筋肉を見てくれらしい。
女性陣は、大きく変化がなく、かおる君と一緒に遊ぶのが楽しいと言っている。
あの2人を除いては。
2年前事件解決の数日後 ニャンカフェにて。
ギルドメンバー全員集合で、お疲れさん会をやることになった。
「みんなお疲れ様。今回は私の私的なお願いに付き合わせてごめんね」
かおる君が謝るとみんながそんなことないと否定する。
あそこまで屑野郎をほおっていたら、僕は一生後悔するかもしれなかった。
「さて、辛気臭くなる話はこれでおしまい。一番頑張ったで賞をいまから決めたいと思います」
「そりゃかおる君でしょ」
僕の言葉にみんな、そうだそうだと頷く。
かおる君がニヤァと意味深な笑みを浮かべる。
「う~ん。そうかじゃあそういう事で。そんな賞を取った私ご褒美がほしいんだけど」
「ご褒美?」
「ロディちょっと来て」
??マークを頭に付けた僕が、かおる君の目の前に立つ。
すぅーと伸びた腕が僕の首に巻き付、柔らかい唇の感触が・・・。
大きな目と僕の視線がぶつかる。
え??!!キスされてます?
「はぁ。おいしかったご馳走さま」
放心状態の僕を置いて5人衆からは殺す!だの、女性陣からは黄色声援とその中に約2名、もうキスだけでは済まない。子作りじゃーーーと叫んでいる声まで聞こえる気がする。
大混乱の中、僕はザンパとアリッサに外に連れ出された。
「今回一番頑張ったのは私です。だから私にもご褒美ください」
「何を言っている。お前はあの女のマネをしただけだろうが?」
「迫真の演技で、うまくいったじゃないですか?」
「本当に殺そうとしたくせに」
早瀬の前に立った黒のワンピースの女性は本当は星山志帆じゃない。
アリッサが演技で星山志帆になったのだ。
この時、星山志帆はあいつの父親を刺して逃げた後、すぐに警察に捕まっている。
「けど、おもちゃの包丁とは言え、アリッサの演技は凄くて本当に殺しそうだったよね」
「ロディの為にやったの。私があなたに本気なのわかってますぅ?」
「ふん。貴様なんぞロディに対する俺の気持ちの10分の1だ」
結局、口論でご褒美がうやむやになった。
で現在。
彼女たちは、なぜか僕の家でお嫁さん候補として、お母さんに必死にアピール合戦をしており、その勢いにお母さんも押され気味だった。
撮影が終わって帰ると出迎えてくれる彼女たちの重い愛が待っている。
溜息と、嬉しさで複雑な表情を作るしかない僕は、まだPCのデスクトップを見ていない。
神様からのミッションが終わってしまうのが寂しくて・・・。
ミッションこんぷりーと!!完
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外伝
:ありがとう。今まで協力してくれて
*気にしなくていい。依頼だからな。それに実際に行動して物事を解決したのは君たちだ。
:けど、お礼が言いたいの。無償でここまでの情報提供をしてくれる探偵なんて。
*無償では働かないさ。俺は金がないんだ。
:じゃ報酬は?
*それはもらっている。神の足跡に続く情報を
:神の足跡?
*気にしなくていい。こっちの話だ。それより、そろそろ接続が切れそうなんだ。
:そう。また連絡できる?平瀬さん。
*本来俺を頼る状況になっちゃいけないんだが、たぶん、本気で俺が必要になればまた。
:ではその時にまたね。
*お疲れさん
メーラーを切ってパソコンを閉じる。
平瀬という探偵とはメールでしかやり取りできなかった。しかし彼がくれたアプリは本当に役に立った。
「ふう。本当に終わったんだ」
長年の胸に痞えていた気持ちをひとつ整理できた。
則道とキスをして、昔抱いた感情をすべてそこに置いてきた。
これからは自分の夢、保育園を運営するために全力で向かっていこうと気合いを入れる。
子供が作れない。
この事は、心が女性と自覚してしまった時から、人生の一生の課題になってしまった。
せめて、子供達が笑っている空間に自分の身を置きたいと保育園の設立を考えた。
その為に経営を学び、株式に手を出して貯めたお金で、まずは”ニャンカフェ”を設立。
今順調に業績を伸ばしている。
ふと、パソコンの隣に置かれている写真に目を向ける。
昔取った子供の頃の写真と、今日撮ったばかりのギルド全員の写真が飾られている。
則道に固執していた理由。
子供の頃引っ越すことになり、親と喧嘩して家出をした。
遊び場だった廃屋の工場に隠れて、夜を迎えた。
何時かはわからないが、大人が探しにくるような場所ではない。
少し肌寒い夜だった。
体が震える。
友達と離れたくなかったし、この土地には思い入れがたくさんある。
親の勝手な都合で、離れたくなかった。
ゴソっと音が聞こえる。
振り向くと則道が立っていた。
「何してるのこんな時間に!!」
「う~ん。わかんない。なんか、かおる君いてる気がして」
「帰りなさい!お母さん心配させるつもり」
「よっこいしょ」
自分が怒っているのに何も聞いていないかのように則道が隣に座る。
馬鹿なのかと思うが、この子はそんな子じゃない。
1年下でよく周りを見て助けを出している。
自分自身を表現するのが少し下手なだけ。
「かおる君。震えてるよ。これ食べる?」
則道が出したのはボロボロの袋のチョコレート。
2人で割って食べて、そこから気が付くと涙が止まらなくなってあふれていた。
「おいしいね」
笑顔で言う則道が、本当に愛おしくて抱きついた。
驚いたようだったが、背中を優しくさすってくれた事を今でも覚えている。
夜が明けて家に帰ると物凄く親に怒られた。
則道も怒られたらしいが、黙ってそばにいてくれた事が本当に私の心にずっと残っていて、ようやく返せたと思う。
そして古い写真にそっとつぶやく。
さよなら。私の初恋
今回をもちまして”ミッションこんぷりーと!”を完結といたします。
ショートストーリーのつもりが長々とやってしまいまことに申し訳ございませんでした。
これまで読んで頂いた読者の方々に感謝しております。
ありがとうございました。




