一章 十一話 特産品 (計画)
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テーブルには村長さんとレイラとメリアドールが座っている。おばさんは皆の前にあるお皿にお鍋の中身を注いでいく。
並べられるのは硬いパンと少々の肉とジャガイモと人参のスープ。
ごく一般的な──というメリアドールの過去の知識からの推測である──農村での食事である。
おばさんのお母さん替わり発言によって村長さんのお宅で過ごすことになった。あとで精霊達と今後のことを話し合わないとなぁと予定を考える……ものの、目の前の貧相な食事が消えるわけではない。
前世は現代日本という、ある種食に対するこだわりと追求に特化した世界に住んでいただけに目の前のナニカを美味しく食べれる気がしない。
それに食べずとも夜の民の生存には問題がなかったする。
夜の民は血液を燃料として活動する存在であり、それ以外の経口摂取(つまり食べたり飲んだり)したモノは全てそれ相応の熱量に等しい魔法力に即時還元される体質を有している。
なので目の前の食事を楽しむことはできても栄養にならないのだ。分解対象は毒等も含む為に大抵の飲むタイプの毒は夜の民には通じない。酒精も毒物扱いなので酔いも無縁だ。
その体質を省みてメリアドールは夜の民について思う所があるのだが、それはさておき。
とりあえず食べても無駄になるのがわかっているので、お肉をレイラのお皿にちょいちょいといれてあげようと思うメリアドールであった。
精霊使いの女の子を演じる以上、全く食べないのは不自然だからある程度は食べるつもりだったが。
育ち盛りだしねといいつつパンも三分の一程度をついでにあげようとしたらレイラから可愛く睨まれる。おばさんからは怒りよりも悲しみの視線がメリアドールを貫いた。
「なんで食べないのかい、舌に合わない?」
「おばさんの料理、美味しいよ?」
「あの、僕、少食だから……これぐらいでいいんだよ」
「まぁ、もっと食べないと大きくなれないよ?」
「どうかなぁ。前はもっと食べてたけど全然だったし。僕の育つ時期は終わっちゃったと思う。それにレイラはもっといろいろ増やしてほしいしね?」
その一言で口を紡ぐんで小さく頬を朱に染めたレイラのほっぺをツンツンとつついてみる。やはり質素な生活をしているだけあって余分なお肉が少ないと感じる。
是非とも体重を増やして──勿論デブになれという意味ではない──その分血液を増やしてもらいたいのだ。レイラとの愛しいお時間がそれだけ長くじっくり楽しめるのだから。
量を少しだけ自主的に減らしたスープにちぎったパンをつけて食する。やや味の薄めの塩味のスープが固いパンをそこそこの柔らかさに仕立てたところでもしゃもしゃ。
ちょっと行儀が悪かったかな?と思ったら皆もやっていたのを確認するメリアドール。
味付けに関しては予想以上に良い。レイラらが保証するだけのことはある。良いのだがそれだけに惜しいと思う。
──味が薄いなぁ。今度ペリドットにこの地の気候に合う香辛料や調味料の元になる植物を育ててもらおうか。
きっと豊富な食材とその道具があれば、もっとおいしいものになるに違いない。
ちなみにパンが固いのは日持ちをさせるためとわかっているので減点対象ではない。
都市部にいけば変わってくるかもしれないが、都市部から離れた農村ではいつ食料不足になるかわかったものではない。このスープのお肉もオーヴォさんが作った燻製肉じゃないだろうか?
今度村の皆においしい食事を振る舞えたらいいなぁとメリアドールはパンを咀嚼しながら考えた。
「食べてる様子もどこか品があるねぇ」
「そう?手づかみだと思うけど」
それに品があるのはこの肉体であって精神じゃないよ!と心の中だけで叫んだ。
結局レイラはメリアドールの目論見通り、譲った分も含めて綺麗に完食した。やはり育ち盛りの子はしっかりと食べてくれる方が嬉しい。
皆で食後のまったりとした時間を過ごしていた時、メリアドールは訪ねた。
「ところで村長さん、村ってどんな特産品があるんですか?」
「特産品?」
「あ、えーと……行商人さんに買ってもらうような商品とか」
「となるとレイラの作ってた薬ぐらいだねぇ」
ふむ、と顎に手を当てて質問者は思考を巡らす。
村全体が豊かになれば、生活の質が向上する。転じて食事の質も上がってレイラが綺麗に可愛く育つ!
前半だけ綺麗で後半は欲望丸出しの、下衆の考えであった。
だが富の蓄えがあるというのは損ではないはずだ。……いつ何時、大金が必要になるかわからないからだ。
「それなら僕が、精霊魔法を使って行商人さんに都会で売ってもらえるようなものを作ってみましょうか」
「次に来るのは3日後じゃな」
「間に合うの?」
「最初はそんなに数はいらないよ」
当初は回復薬を売ろうと考えてた計画の修正案。
軽量で都市部で重宝しそうな商品があれば、行商人経由で広がりやすいだろう。
ふと、レイラの作った薬の入れていた容器を思い出した。
「ねえ、レイラ。作ったお薬って中身変質したりしない?」
「え、うん……すぐには変わらないけど、時々効果がなくなってしまってる状態になってたりするかなぁ」
「あー、そりゃそうだよね。じゃあ透明で中身に影響に影響を与えづらい容器って需要ある?」
「え、そんなのあるの!?」
「わ、近いってば。……ちょっと待ってね」
テーブルに手をついて、ぐいっと顔を近づけて来るレイラにドキドキしつつ。メリアドールは傍に控えているシトリンを念話で呼ぶ。
──お呼びでしょうか
──うん、ここに硝子の器と小瓶。前に作ったのと同じデザインで。
そっとテーブルにモヤモヤしたものが漂ったかと思えば、コロンっと音を立ててテーブルの上に二つの物体が生じた。メリアドールが洞穴の中で作った硝子制の瓶と器だ。
透き通った小瓶を掴んだレイラは宝石をみるかのように目を輝かせてみている。
夫婦のほうはお椀のような物体に目を奪われていた。透明な瓶とは違って、ほんのりと青が含まれたそれは木製食器を主に使う彼らには新鮮に見えた。村長がこんこん、と叩いてみる。
「きれいだねぇ……貴族さんとかに需要がありそうだよ」
「そんなに重たいものじゃないしのう。……にしてもいいデザインじゃ」
「とりあえず、試しにレイラちゃんのお薬をその瓶にいれて売ってみればいいんじゃないかな」
こうして出来上がったアイデアを元に、三日後にやって来るだろう行商人さんに宣伝をしてもらおうという話になった。




