第十九話:夜の焚き火と、踏み出す決戦
鬼教官リサの容赦ないメニューに悲鳴を上げつつも、全員で挑む新技の開発。
煤まみれで囲む温かいシチューと、夜の焚き火に誓ったそれぞれの覚悟が描かれます。
音速を超える多段加速の一撃は完成するのか――!?
そして迎える決戦当日、特務結界の重い扉が開きます!
宿泊ロッジ前、冷え込む早朝の山間演習場。
リサが羊皮紙の巻物を広げると、地面に垂れ下がるほどの長さの訓練工程がびっしりと書かれている。
「これより第一段階、魔力循環の極限負荷トレーニングを開始します。目標値に達しない場合、本日の夕食はセリアの栄養抽出ペーストのみです」
「それ実質的な毒物刑罰ですよね!?」
と、タクトがツッコミを入れる。
ノアが周囲に観測ドローンを展開し、生体データと魔力消費をリアルタイムでモニタリング。
「タクトさん、脈拍140魔力残量42%。まだ限界値の6割です。休む暇はありません」
倒れ込みそうになるメンバーの口へ、セリアが紫色に発光する特製栄養アンプルを直接流し込む。
「うわぁぁまずい! 喉がカッて熱くなって強制的に魔力が湧いてくるぅ……!」
タクトが大暴れするがセリアは微笑んで次のアンプルを用意する。
私は両腕に魔力負荷の重石を巻いた状態で、岩肌へ向かって打撃の型を何百本と打ち込み続けている。
「ぜぇ……はぁ……っ! まだ、まだ足りない……! レオン以上の相手を一発で沈める威力を……!」
泥だらけで広場に倒れ込む一同。
基礎能力の底上げは見られるものの、タクトの障壁の持続力と、私の踏み込みの瞬間火力という「個人の限界」の壁にぶち当たってしまう。
「はぁ……はぁ……やっぱり、俺の魔力じゃアイラ会長の打撃を支えきれないし、長期戦の防御も持たない……」
息を切らすタクトの呟きを聞き、私はじっと自分の泥だらけの拳を見つめる。
夕日に照らされる演習場。私は岩壁に向かって何度も拳を叩き込むが、分厚い岩盤の表面を砕くだけで、奥深くまで魔力が通らない。
「くっ……拳だけじゃ、どれだけ魔力を込めても『自分の腕のリーチと質量』が限界になる……!」
鷲宮生徒会長のような規格外の魔力障壁を貫くには、拳単体以上の「初速」と「質量」が必要だと痛感する。
一方でタクトも、自身の『三重偏向障壁』の燃費と強度に頭を抱えて座り込んでいる。
「俺の障壁は、敵の攻撃を逸らすのが精一杯で……会長の盾になって前に出るには、強度が足りなさすぎます……」
悔しさからタクトが無意識に空中に薄い偏向障壁を展開した瞬間、バランスを崩してよろけた私がその障壁をとっさに足で蹴りつける。
バシュゥンッ!
偏向障壁の「魔力を弾く反発力」によって、私の身体が砲弾のような初速で斜め上方へ射出される。
木の幹を蹴って着地した私の目が、パッと見開かれる。
________これだ!
「……タクト、今の!!」
「えっ!? す、すみません、変なところに障壁を出して……!」
「謝るどころか大正解だよ! タクトの障壁、敵の攻撃を受け止めるんじゃなくて……私を加速させる『トランポリン』にすればいいんだ!」
さらに私は思いつく。
腰に差していた生徒会長の『魔導指揮杖(普段は事務用・儀礼用)』を引き抜いた。
「拳だけだと反動で身体が持たない。でも、タクトの障壁で空中を多段加速して、この杖の先端に全魔力を集めて叩き落とせば……!」
守りの弱点だったタクトの反発障壁が、アイラの破壊力を何倍にも跳ね上げる「超加速カタパルト」へと反転する瞬間だった。
宿泊ロッジの前、満天の星空の下でパチパチと音を立てる焚き火。
鍋の中でグツグツと音を立てているのは、セリアとセナが演習場の山菜や携帯肉を放り込んで作った豪快な特製シチューだ。
「できたー! 昼間のお薬シチューと違って、今度はちゃんと美味しいやつだよ!」
「頼むから変な魔導ポーションは混ぜてないって保証してくれ……」
恐る恐る口に運んだタクトが「うまっ!」と声を上げ、全員に安堵の笑みが広がる。
お椀を両手に抱え、ハフハフとシチューを頬張る私。鼻の頭には昼間の煤がついたままだけど気にしない。
リサが呆れたようにハンカチを取り出し、アイラの顔を拭う。
「会長、顔くらい洗ってから食べなさい。……まったく、泥だらけの生徒会長なんて前代未聞です」
「いいの! 泥臭いのがウチの生徒会の持ち味でしょ!」
昼間の過酷な特訓の疲れが、温かい食事と仲間の笑い声でじんわりと溶けていく。
火を見つめながら、ノアが静かに口を開く。
「……鷲宮のエリートたちから見れば、僕たちのやっていることは非効率で無意味に見えるんでしょうね」
タクトも続けて言う。
「かもね。でもさ、あんな冷たい連中にこの学園を渡したくないよ。俺、この生徒会に入って初めて自分の魔法が役に立つって思えたから」
セリアも微笑んで言う。
「私もよ。私の調合を『危ない』じゃなくて『頼もしい』って言ってくれたの、アイラが初めてだったしね」
落ちこぼれや変わり者扱いされていたメンバーそれぞれが、この生徒会に救われ、ここを大切な居場所だと感じている想いを語り合う。
________みんな……!!
私はお椀を置いて立ち上がる。
「みんなの居場所は、私が絶対に守る。……ううん、みんなで守るんだ。明日、絶対にあの新技を完成させよう!」
焚き火の温かい光に照らされ、全員が力強く頷き合う。
澄み切った朝の空気の中、演習場の巨大な断崖絶壁の前に立つ6人。
ノアが計測ドローンをスタンバイさせ、セリアがアイラとタクトへ魔力安定の支援薬を注ぎ込む。
ノアがパネルを展開しながら告げる。
「タイミングの猶予は0.2秒。タクトさんの障壁展開と、アイラ会長の踏み込みが完全に一致すれば理論上は最高速度に達します」
「合図と同時に行きます。……信じて飛びなさい、アイラ」
リサの氷の閃光を合図に、私は魔導指揮杖を構えて猛ダッシュする。
「展開――『空中多段偏向障壁』!!」
タクトが空間を切り裂くように、空中に3枚の偏向障壁を角度をつけて連続展開。
私が1枚目、2枚目と障壁を足場にして跳躍するたび、反発魔力によって速度が倍々ゲームで跳ね上がっていく。
________これだ!!
ドォン! ドォン! バシュゥゥッ――!!
3段目の加速で音速の壁を突破して、超高密度魔力を纏わせた指揮杖を頭上から振り下ろす。
「いっけぇぇぇぇぇッ!!!」
指揮杖の先端から放たれた衝撃波が、巨大な岩壁を芯からブチ抜き、轟音と共に山肌を丸ごと吹き飛ばす。
巻き上がる土煙の中、息を呑む一同。
「う、嘘だろ……山が削れた……!?」
「やったぁぁ! 大成功!!」
着地した私は煤まみれの顔でニッと笑い、タクトと力強くハイタッチを交わす。
場面は切り替わり、親善交流戦当日。
一般の喧騒から完全に隔離された学園都市の地下・特務結界の巨大な重鉄扉の前に、揃いの生徒会腕章をつけた6人が立つ。
扉の向こうからは、鷲宮高等学院が放つ冷徹で圧倒的なプレッシャーが漏れ出している。
「みんな、準備はいい? ……ウチの生徒会の力、アイツらに見せつけてやるよ!」
堂々と扉を押し開き、特務結界の決戦場へ乗り込む6人だった。
アイラがさ、拳ばっかりでわからせるからさ、なんか男っぽく見えてきちゃって。
いやアンタ女の子やろ!もうちょっと道具とか使わん!?と思ってちょっと路線変更しました。
いかがでしたでしょうか。
次回、鷲宮高等学院との決戦です!
あ、ちなみにアイラたちの学園は私立桐花学園といいます(今更)




