第38章 胸が高鳴る、とりとめもない会話
トリアは、その場に凍りついた。全身の筋肉が瞬時に硬直し、指先まで流れる血が止まってしまったかのようだった。
彼女はゆっくりとした動作で、耳元からスマートフォンを遠ざけた。見開かれた瞳が、画面に表示された見覚えのない番号と、刻一刻と進んでいく通話時間を凝視する。
(ユダさん!!!)
心の中で、悲鳴に近い叫びが上がった。
「トリアさん? まだ、そこにいますか?」
受話器の向こうから、再びユダの声が聞こえてきた。その声は少し掠れており、どこか戸惑っているようにも感じられた。
トリアは慌てて手のひらで口を覆った。今すぐこの世から消えてしまいたい、せめて枕の山の下に深く潜り込んでしまいたいという衝動に駆られる。
「は、はい、ユダさん。ごめんなさい……あの……ミラからの電話だと思い込んでいて」
トリアは、できる限り平静を装った声で答えた。
電話の向こうで、ユダが小さく咳払いをする。
「ああ、なるほど。……ということは、さっきのはミラさんに向けた言葉だったんですね」
彼の言葉が途切れ、二人の間に気まずくも、胸を締め付けるような沈黙が流れた。
トリアは下唇を強く噛みしめた。
(バカ、私のバカ! どうして誰からの電話か確認しなかったのよ!)
着信画面も見ずに電話を取り、あろうことか自分の本音をぶちまけてしまった自分の不注意を、彼女は激しく呪った。
「いえ、その……今の言葉は忘れてください、ユダさん。仕事が終わってから、ミラにずっとからかわれていたので、つい口が滑ってしまっただけで……」
パニックを隠せない口調で、彼女は必死に言い訳を並べた。
トリアはぎゅっと目を閉じた。先ほど自分がユダに対して、あんなにもはっきりとした声で何を口走ったのか、未だに信じられなかった。
「そうですか……」
ユダはそう言うと、しばらく沈黙した。そして、重苦しい静寂を破るように言葉を継いだ。
「これは僕の個人の番号です、トリアさん。……登録しておいてくれますか」
トリアは、彼に自分の姿が見えていないと分かっていながらも、素早く頷いた。急に掠れてしまった喉を整えるために、小さく咳払いをする。
「は、はい、ユダさん」
短く答えるのが精一杯だった。
その後、言葉は続かなかった。再び静寂が訪れ、スピーカー越しにかすかな呼吸の音だけが響く。
トリアは枕の端を力任せに握りしめた。あんな恥ずかしい失態を演じた後、次に何を話せばいいのか分からず、自分の愚かさに打ちひしがれていた。
「トリアさん?」
ユダが静かに彼女の名を呼んだ。
「はい、ユダさん」
「あの……もう、お風呂は済ませましたか?」
ユダの声は、ひどくぎこちなかった。
「えっ?」
トリアは眉を寄せた。あまりにも唐突で、脈絡のない質問に戸惑いを隠せない。
「はい、ちょうど今。髪を乾かしているところです」
正直に答えた後、彼女は緊張と混乱のあまり、自分でも驚くほど突拍子もない問いを返してしまった。
「ユダさんは……もう入りましたか?」
言い終えた瞬間、彼女は目を見開いた。なんて馬鹿げた質問を返してしまったのかと、心の中で絶叫する。
(なんで聞き返したりするのよ、トリア!)
電話の向こうから、衣類が擦れるような音が聞こえた。ユダが居心地の悪さに姿勢を変えたかのようだった。
「いえ、まだです。これから入るところで……。帰宅してすぐに、あなたに電話をしたので」
ユダのその言葉に、トリアは動きを止めた。彼の何気ない一言が、温かいお湯を浴びた時のように彼女の心を解きほぐし、同時にくすぐったいような感覚を呼び起こした。
渋滞を抜けて帰宅した後、自分の身を清めるよりも先に、彼女に連絡することを優先してくれた。その事実に、恥ずかしさの隙間から、じわりとした感動が込み上げてくる。
抑えきれない笑みがトリアの頬に広がった。しかし、次の瞬間、彼女はぶんぶんと首を振って、浮き足立つ心を鎮めようとした。
「どうしてこんなに嬉しいの? しっかりして、トリア! あなた、どうしちゃったのよ!」
自分自身に苛立ち、枕の端をぎゅっと絞る。体の反応が自分の意志に従ってくれない。お腹のあたりで、妙な高揚感がさらに激しさを増していく。
電話の向こうが再び静かになった。だが、今度の沈黙は、先ほどよりもずっと甘く、鼓動を速めるものだった。
「それじゃあ、僕はそろそろお風呂に入りますね。トリアさん、夕食が遅くならないように」
ようやくユダの声が、トリアの妄想を打ち消した。
トリアは下唇を噛み、彼の小さな気遣いに声を上げそうになるのを必死で堪えた。大きく深呼吸をしてから、答える。
「は、はい、ユダさん。あなたも」
それ以上の言葉は付け加えなかった。頭の中には伝えたい言葉が溢れていたが、また口が滑って恥ずかしい思いをするのが、心底怖かったのだ。
通話が切れた瞬間、トリアは反射的にスマートフォンをベッドの端へ放り投げた。
枕に顔を埋め、胸の内に溜まった熱を吐き出すように、力いっぱい叫んだ。
「あああああああ!!」
声は枕に遮られてこもっていたが、彼女の羞恥心は部屋の隅々まで溢れ出さんばかりだった。ぐちゃぐちゃになった感情をぶつけるように、ベッドの上で足をバタバタと動かす。
彼女はきつく目を閉じ、先ほどの自分のあまりにも正直な叫びを聞いたユダが、どんな表情をしていたかを想像した。
「明日、どんな顔をして会えばいいの……。合わせる顔がないわ!」
掠れた声で嘆き、彼女は拳を握ってドアの方を睨みつけた。
「全部ミラのせいよ! 覚えてなさい、ミラ!」
のたうち回るように右へ左へと転がり、この耐え難い恥ずかしさを追い払おうとする。しかし、苛立ちの中にあっても、彼女の唇には隠しきれない笑みが浮かんでいた。
一方、整然とした自室で、ユダはクローゼットの大きな鏡の前で立ち尽くしていた。
口をわずかに開き、信じられないという思いと、溢れんばかりの喜びが混ざり合った瞳で、鏡に映る自分を見つめている。
心臓が、不規則で激しいリズムを刻んでいた。まるで恋に落ちた映画のワンシーンで流れる、高鳴る音楽のようだ。
胸の中で、何千もの花の蕾が一斉に開いたかのような、言いようのない温かさが広がっていく。
トリアの言葉が、心地よい音色を奏でるレコードのように、頭の中で何度も何度も繰り返される。
「好きだって……トリアさんは、僕のしたことを好きだと言ってくれたんだ!」
弾んだ声で独り言を漏らすと、ユダは突然両拳を握りしめ、力強く宙に突き上げた。
「よしっ! 好きだって言ってくれた!」
部屋の外に漏れないよう、声を押し殺して叫ぶ。
彼はまるで、何十億という価値のある宝くじに当選したかのような明るい表情で、カーペットの上を軽く飛び跳ねた。
ふと、アルデンの顔が脳裏をよぎった。今のユダの目には、親友の姿が白い翼を広げた天使のように輝いて見えた。
昼食の時にアルデンが授けてくれた、あの「強引」で大胆なアドバイスこそが、トリアの心の扉を開く鍵だったのだ。
「アルデン、お前は本当に僕の救世主だよ!」
天井を見上げ、ユダは声を上げて笑った。
「神様が僕のこの堅苦しい人生を救うために遣わしてくれた、最高の恋愛コンサルタントだ」
ユダの自信は、今や空高く舞い上がっていた。これまで彼女に近づくことを躊躇させていた、あらゆる迷いの境界線を越えて。
彼は深く息を吸い込み、鏡の中の自分を、以前よりもずっと鋭く、確信に満ちた眼差しで見つめ返した。
トリアの辛い過去への恐怖や、拒絶されることへの不安は、どこかへ消え去っていた。代わりに、鋼のような決意が彼の中に宿る。
心は決まった。
もう迷わない。より積極的に。彼女の心を射止めるために、どんな壁が立ちはだかろうとも、突き進むだけだ。
第38章、お読みいただきありがとうございます。
トリアさんの大パニックと、ユダさんの密かな歓喜……どちらも可愛すぎましたね。
「二人とも純情すぎて尊い」「早く付き合って!」など、温かいコメントをいただけると嬉しいです。
この勢いで、二人の関係はどう進展するのか? お楽しみに。
ブックマークもよろしくお願いいたします。




