大顎-3
水の中は、暗かった。
光が届かない。
上下も、距離も分からない。
だが――
いる。
目の前に。
大顎のドラゴン。
翼のような構造で水を切り、
音もなく動く。
速い。
龍は姿勢を整える。
息は、もたない。
長くは戦えない。
なら――
「短く決める」
大顎が動く。
一直線。
龍へ。
避ける。
すれ違う。
だが、水の抵抗で遅い。
完全には避けきれない。
肩をかすめる。
衝撃。
だが、止まらない。
振り向く。
大顎が再び旋回する。
その瞬間――
上から、何かが落ちてきた。
矢だ。
幸人。
水を突き破り、
まっすぐ沈んでくる。
龍はそれを見た。
「……見てるな」
位置を合わせる。
大顎の軌道に、自分を置く。
来る。
速い。
だが、読める。
龍は、動かない。
引きつける。
限界まで。
そして――
直前で、わずかに身体をずらす。
大顎の口が開く。
その中へ――
矢が入る。
貫く。
内側。
確かな手応え。
水が揺れる。
大顎が暴れる。
だが、まだ止まらない。
その瞬間。
水面が、再び割れる。
上。
かんたが、跳んでいた。
「いけぇぇ!!」
落ちてくる。
まっすぐ。
龍の横へ。
水に突っ込む。
衝撃。
泡が広がる。
かんたは、そのまま拳を振る。
狙いは、同じ場所。
口の中。
すでに傷がある。
そこへ。
叩き込む。
鈍い感触。
だが、通る。
大顎が、大きく身体を揺らす。
動きが乱れる。
その一瞬。
龍は踏み込む。
水の中で、全力。
剣を振り下ろす。
顎の付け根。
硬い。
だが――
入る。
わずかに。
確実に。
水が、揺れる。
大顎のドラゴンが、後退する。
距離を取る。
逃げる。
深く。
暗い方へ。
消える。
水面が、静かになる。
龍は上を見る。
光が、ある。
浮かぶ。
息が限界に近い。
上へ。
手を伸ばす。
掴む。
引き上げられる。
「はっ……!」
空気。
肺が焼ける。
だが、生きている。
かんたも、這い上がる。
「……死ぬかと思った」
幸人は何も言わない。
ただ、水面を見ている。
「……倒してねえな」
龍が言う。
「逃げた」
幸人が答える。
水は、また静かだ。
だが、いないわけじゃない。
確実にいる。
下に。
「……次で決める」
龍が言う。
誰も否定しなかった。




