大顎-1
水面は、静かだった。
だが、何かが動いている。
下だ。
龍は足を止める。
「……いるな」
幸人も同じ方向を見る。
波が立たない。
だが、確実に“何か”が通った。
次の瞬間。
頭の奥に、重たいものが落ちてくる。
言葉ではない。
だが、理解できる。
――大顎のドラゴン。
龍は息を吐く。
「一体だ」
短く言った。
水面が割れる。
巨大な顎が突き出る。
「跳べ!」
全員が別の陸地へ飛ぶ。
直後、元の足場が砕けて沈む。
音はない。
ただ、消える。
「……やべえなこれ」
かんたが言う。
水の中で、影が旋回している。
速い。
追えない。
次の瞬間、消える。
「来るぞ!」
龍が構える。
水面がわずかに膨らむ。
真下。
龍は踏み切る。
飛ぶ。
その瞬間、足場が砕ける。
「……っ!」
タイミングは合っている。
だが、余裕はない。
幸人が矢を放つ。
水面に向けて。
浅い。
当たらない。
「出てくる瞬間しかない!」
幸人が言う。
力嶽は動かない。
ただ、水を見る。
影が、再び動く。
今度は、かんたの方へ。
「うわっ!」
水が弾ける。
巨大な顎。
かんたは転がるように別の陸地へ飛ぶ。
間に合う。
だが、着地が不安定。
「落ち――」
足を踏み外す。
半分、空中に出る。
龍が腕を掴む。
「離すな!」
「離すかよ!」
引き戻す。
その間にも、水は動いている。
休む暇がない。
龍は息を整える。
「……タイミングは合ってる」
「でも当てきれない」
幸人が言う。
もう一度来る。
分かっている。
だが、読めない。
水面が揺れる。
どこだ。
どこから来る。
一瞬の迷い。
次の瞬間。
横から衝撃。
龍の身体が弾かれる。
「っ……!」
完全には直撃していない。
だが、軽くない。
足場に叩きつけられる。
呼吸が乱れる。
力嶽が一歩動く。
だが、踏み込まない。
「……見ろ」
低く言った。
龍は歯を食いしばる。
水を見る。
影を見る。
速い。
だが、規則がある。
回っている。
狙いを変えながら、
一定の間隔で浮上している。
「……回ってるな」
「やっと見えたか」
力嶽が言う。
だが、それでも足りない。
当てるには、近すぎる。
外せば終わる。
龍は剣を構え直す。
「……もう一回だ」
誰も止めない。
水面が揺れる。
来る。
全員が構える。
だが――
距離が、遠い。
大顎のドラゴンは、
そのまま水中へ沈んだ。
動きが、変わった。
「……逃げた?」
かんたが言う。
「違う」
幸人が言う。
「見てる」
静かな水面。
何も起きない。
だが、確実にいる。
下で、こちらを見ている。
龍は剣を下ろさない。
「……長くなるな、これ」
誰も否定しなかった。
戦いは、終わっていない。




