第8話 襲撃の裏側
今回はファーマ達を襲った悪者のお話です。
章のおまけに書いても良かったのですが
ここで書いた方が面白いかなと思って書かせてもらいました。
時間は少し遡り、ファーマがランカとの契約を済ませ家で食事の支度をしている頃。とある貴族の屋敷の一室で
「チッ! ガキが舐めた態度をとりおって」
男は歯ぎしりしながら部屋の中を行ったり来たり落ち着きなく歩いている。
「1年以上前から目を付けていたランカを俺様から横取りするとは生意気だ。それにあのエミルとかいう女。何が『仕える気はありません』だ。俺様が雇ってやると言っているのだから素直に〝はい〟と返すのが礼儀だと分からんのか? これだからものを知らぬ平民は……まあいい、それならそれでやりようはある。あの場で強引な手段に打って出ると流石に目立つ。正面から侯爵家の人間に手を出すほど俺様も馬鹿ではない。ガキは諦めたと思っているようだが、貴族が平民に舐められたままでは示しがつかんからな。死ぬほど後悔させてやる。なぁに、証拠が残らなければいいのだ」
小声でぶつぶつと呟きながら暫く部屋を歩き回りながら思案し、その後使用人を1人呼びつけ何かの指示を出し、使用人が出て行くと男はソファーにドカッと座り怪しげな笑みを浮かべた。
その日の夜半過ぎ。
闇夜に紛れてどこかの廃屋が立ち並ぶ場所に、フードで顔を隠しマントに身を包んだ男性が入り、中に居た人相の悪い男が怪しげに眉をしかめる。
「依頼をしにきた。ベレッタに取り次げ」
「なんだ客か会員証は持っているか?」
フードの男はスッと服の内ポケットからカードのような物を取り出し、人相の悪い男に見せる。
「ついてきな」
フードの男が人相の悪い男に連れられ、廃墟の下水道を通り辿り着いたのは、廃屋立ち並ぶ場所には似つかわしくない豪邸の地下にある一室。部屋の中は椅子と机があるだけで薄暗く他には何もない。
「ん? ゲルダじゃねぇか。あんたが直接来るなんて珍しいな」
フードの男が部屋に入りフードを取ると、それを見た垂れ細目の男が線のような目を開いて眉をしかめる。
「仕方なかろう、主の勅命だ」
「デカい仕事か?」
「今回の仕事は平民の女2人の捕獲だ」
「あんたが直接依頼に来た割にショボい仕事だな」
「そうでもない。相手は侯爵家の臣下と側仕えだ。万が一にも面が割れるとかなり不味い事になる」
「ひゅー、侯爵家の人間に手を出してまで手に入れたいとは、余程の上物なのか? にしても正気を疑うね」
「俺も正直気は進まんが主の命令だ。仕方なかろう」
「ひゃははっ、好色主人にも困ったもんだねぇ。ま、こっちは金さえ貰えれば文句はねぇけどな。どんな奴だ?」
「わかっているのは簡単な容姿と今はアインスにいるという事だけだ。ターゲットは白髪の女みたいな顔をしたファーマという名の平民の男児、こいつが公爵家の家臣だ。それと魔人が1匹、翠色の髪をしたエミルという女と、銅色の髪をしたランカという名の奴隷のグループだ。こちらが把握しているのはこの4人だが他にも仲間がいるかも知れん。捕獲を頼みたいのはエミルとランカという女、他は何人いようと足が付かないように残さず全員始末してくれ」
「それだけ情報があれば探すのは直ぐだな。どこに依頼するかはこっちが決めて良いんだよな?」
「それは任せるが最悪失敗してもこちらに目が向くなんて事にはならんような者に依頼しろよ?」
「まあ、それは当然だな。で? 報酬はどれくらいだせるんだ?」
「捕獲と始末料合わせて10万」
「馬鹿なのか? お前の主人は。平民のガキと言っても侯爵家の家臣だ。しかもその捕獲対象のエミルという奴はガキの護衛だろう? 平民といっても侯爵家の家臣の護衛なら、普通はそれなりに腕が立つ。そいつを殺さずに捕獲するのはかなり骨だろう。最低でも50万は出さねぇと、こんな依頼まともなクランは受けてくれねぇぞ?」
呆れたようにベレッタは大きなため息を吐く。
「バカな事を言うな! いくら何でも50万なんて大金が用意出来る訳ないだろう?」
値段を聞いたゲルダは思わず声を荒げてしまった。
「もう少し出して貰えりゃ交渉ぐらいは出来るが、その金額じゃどうにもならねぇな。下手すりゃ俺の首が飛んじまう」
「……分かったなんとか15万で主人に話をつける。どうにかしろ」
「まあ、話は通してみるが、その値段じゃ一流には話も持っていけねぇ。良くて二流、最悪非正規のクランに依頼する事になるが構わないな」
「仕方ないだろうな。最悪、うちが怪しまれさえしなければ失敗しても構わん。主人も依頼した結果、失敗したという事なら諦めもつくだろう」
「こっちの情報を漏らすような奴は非正規の中にもいないから安心しろ。だが、失敗の可能性は高くなる。料金は半金前払い、失敗しても返金はなしだぜ?」
「ああ、わかっている。1度戻って主人に確認を取ってくるから、先に奴らの身辺調査だけしておいてくれ、正式に依頼を出すのは主人の確約が取れてからだ」
「身辺調査は構わねぇが、依頼料とは別料金だぜ?」
話し合いが終わり、ゲルダは静かに貧民街を出て行った。ターゲットの名前と4人の特徴が分かっていた為、ベレッタ達は直ぐにファーマ達を見つけ、情報収集の為暫く尾行と張り込みを続けた。
情報取集を始めると同時に、ベレッタ達は幾つかのクランに話を通し、後日、依頼人の確約が取れたところで眼帯男の一団との取引が成立する。
「──って事でザック、今回の仕事はリスクもたけぇし実入りも少ねぇが、成功すれば〝双頭の毒竜〟は正式に闇ギルドに加入できる。ショボい人攫い業ともおさらばだ」
「悪くねぇな。それにしても、報酬はもう少し何とかならなかったのか? ジーム」
ベレッタの部下から持ってこられた依頼を受けたジームが報告をするとリーダーのザックは悪くないと言いながらもその報酬の安さに顔をしかめる。
「まあ、確かにリスクを考えりゃショボい報酬だけどよぉ、俺達みたいな新参者に回ってくる仕事なんてこんなもんだろう? だが、相手はガキと女、しかも魔人を含めて4人だけって話だ。そんなんでも侯爵家の家臣。成功すりゃ、もっと割のいい仕事が回ってくるようになる。何より正式に闇ギルドに加入できるのがでけぇ」
「まあ、そうだな。正式なメンバーになれりゃでけぇバックも付くし違法奴隷を捌くのもかなり楽になる。やるしかねぇよな。ったくよぉ、楽に稼げると思って闇ギルドに入ったってぇのに、これじゃあ、冒険者やってた頃の方が楽だったよな」
「ああ、そうだな。万が一これで失敗して捕まった日にゃ、二度とお日様を拝めねぇ生活に転落だ。でもよぉ、今更真っ当な生活にゃ戻れねぇんだ。やるしかねぇんだ俺達ぁ」
愚痴りながら昔を思い浮かべ表情を曇らせるザックとジーム。
「そうだな、やるしかねぇ。これからビッグになりゃいいんだ」
「ああ、そうだな。これを成功させてビッグになるんだ」
ザックとジームが気を取り直し立ち上がる。部屋を出た2人は子分達を集め作戦会議をして、先ずは仲介屋から貰った情報を基に検問にかからないメンバーを町に派遣し情報収集を始めた。
「仲介屋の話通りターゲットの翠髪の女と魔人はただ者じゃねぇな」
「ああ、伊達に侯爵家の臣下の護衛をやってないって事だ。隠形魔法道具を装備して気付かれそうになるなんて相当な手練れだぞ?」
ファーマ達がクエストで町の外に出る事が多かった為、情報はあっという間に集まった。そして、狩りの様子を目のあたりにした双頭の毒竜の面々は少し重い表情を浮かべている。
「戦力はだいたい把握できた。魔法士はいなさそうだし隠形魔法道具さえ付けてりゃ、ある程度の距離までは魔人に気取られる事もねぇから、森の中で囲んじまえば何とかなるだろう」
「出来たら白髪のガキかデカ乳女のどちらかを人質にして楽に捕まえてぇところだな」
「それが出来りゃ楽だろうが、奴らは町の外で離れて行動する事はねぇから難しいだろうな」
「20人ぐれぇでいっぺんに攻めりゃやれねぇ事はねぇだろうが、それだと隠形魔法道具を使っても魔人に気が付かれる可能性が高い。取り逃がして町に籠られた手の出しようがなくなる。不意を打つなら連れて行けるのは10人までだな」
集めた情報を基に作戦を練り対策を考えザックが口を開く。
「今回はジームとボノのパーティーでやれ。指揮はジーム、慎重にやれよ。絶対に失敗は許されねぇぞ?」
「おう」
「任せとけ」
クランリーダーザックの指示でメンバーを決定。直ぐに準備に取り掛かる。
作戦決行の日。
「さっき入った情報では今日はアインスの南東10㎞にあるレイッフ草が採れる森に行くらしい。奴らが町を出て1時間半ぐらいになるから、あと1時間ほどで森につくはずだ」
「適度にアジトと近い場所とは好都合だ。よし、行ってこい。油断するなよ」
「ああ、任せろ」
「大船に乗ったつもりでいてくれ」
ジーム率いる2パーティーが意気揚々と砦を後にした。
「歩きだと、ちっと遠いな。魔人さえいなきゃクワクが使えるんだがな」
「クワクの匂いは魔法道具でも消せねぇっすからね。仕方ないっすよ」
「まったく、とんでもねぇ嗅覚してやがるよな。知能が低い分、鼻や耳が強化されんのかねぇ?」
「言っても仕方ねぇ。奴らが森から出ねぇうちに囲んじまうぞ」
「「「「おう」」」」
愚痴りながら小走りで目的の森まで移動する双頭の毒竜の面々。遠目で森が見える辺りまで到着すると隠形魔法道具を起動させ、草や木の枝を体に巻き付け森の中を探索する。暫くすると斥候役の男が広い森でファーマ達を見つけた。
「いたぜ、ここから向こうに400mぐらいの場所だ。今は飯を食ってやがる」
「さて、バラけるのを待つか、飯食って油断しているところを襲うかだな」
「これまでの情報からするとバラける可能性は低いぜ? 今のうちに囲んじまおう」
「それが良いだろうな。よし、俺達が南から回り込むからボノ達は北から回り込め。斥候2人は俺達の後ろから様子を見ていろ。万が一俺達がやられたらアニキに報告してくれ。10分後に作戦開始だ」
「「「「「おう」」」」」
両パーティーが南北に分かれ定位置に着く。そろりそろりと距離を詰め、示し合わせた時間の前にレオナに察知された為、逃げようとするファーマ達の行く手を遮るようにナイフを投げ放ち、斥候の2人を残して8人がファーマ達の前に姿を現した。
──結果は作戦失敗。
その後、尋問は受けたものの、ジームの機転でその場を逃れ(ファーマの作戦で泳がされ)砦へと戻った。
「どうした? 何か不測の事態でも起こったのか?」
砦の防壁の上でジーム達の帰りを待っていたザックはターゲットを連れずに戻ってきたジーム達を見て驚きの声を上げる。
「作戦は失敗した……奴らの中に高位の魔法士がいやがったんだ。防具の耐性を貫いて全員気絶させられて危ないところだったぜ」
格子扉を上げてもらい、中に入るとジームは悔しそうに下を向きザックから顔を背けて報告した。
「マジか? なんで無事なんだ?」
「へへっ、そこは俺の機転でよ。嘘の取引で解放させたんだ。所詮はガキだな」
と、得意げに話しているジームを見てザックは微妙な表情を浮かべる。
「まさかとは思うが、泳がされてあとを付けられてないだろうな?」
「大丈夫だ。そこは警戒しながら急いで戻ってきたからな。斥候の2人が探知魔法道具で警戒していたんだ。隠形魔法道具使われたとしても看破するぜ?」
ザックの心配を他所に絶対大丈夫と断言するジーム。観察に優れた斥候役が魔法道具を使って警戒していたというのが信頼の要因になり、ザックも納得したようだ。
砦の中にあるホールに移動し、今後の対策を練る双頭の毒竜達。
「今回の依頼をどうするかだが、勿論続ける。幸いあとは付けられていなかったようだから俺達のアジトは奴らに知られていない。暫くは奴らも警戒するだろうから直ぐには動けねぇが、その間にしっかりと準備をすればいい。俺達みたいな新参クランがこの世界で生き残るにはそれしかねぇんだ」
「だな、失敗した俺が言えた話じゃねぇが奴らにも穴はある。今回は高位の魔法士がいるという可能性を想定していなかったのが失敗の原因だ。あの女が使ったのは風属性の範囲魔法。並みの魔法士が無詠唱で発動できるような魔法じゃねぇが、余程風魔法の適性が高いんだろうぜ。だが、どんなに適性が高かろうとあんな大魔法を連続で使う事は出来ねぇし風魔法対策さえしておけば耐えられるはずだ。他の属性を使ってくる可能性もあるが今回より魔法耐性の高い防具を付けておけば対応できるだろうぜ」
「それとあの白髪のガキも只者じゃなかったぜ? 隠形魔法道具を使って後方に隠れていた俺に気が付いて、目の前に飛び出してきやがった。恐らく感知か探知の魔法を使える奴だ。攻撃力も並みじゃねぇ、素手の一撃で俺が倒されたんだからな……」
子供に一撃で倒された事を話すのが屈辱だったようでファーマにやられた男は辛そうに俯いた。
「まあ、どの道今後は警戒されるだろうから暫くは様子見だな。作戦も練り直しだ。今度仲介屋が来た時にでも予定より捕獲に時間が掛かる事を伝えなきゃな」
「そうだな。万が一にも失敗したなんて事がバレねぇようにしねぇとな」
一通りの反省会を終え、男達は部屋から出て行った。




