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ファーマ君の気ままな異世界生活  作者: 幸村
第3章 農場建設
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第7話 ファーマ君、襲撃される

 翌日。今日は採取ではなくランカに狩りを教える為に町を出た。


 とは言っても直ぐに弓が使えるわけではないので先ずは木に向かって弓を射る練習だ。流石に町中で弓を射る訳にはいかないので、町から近い森で近くに人がいない事を確認して練習を始める。弓はランカでも引ける以前エミルが使っていた弓を改良したものを使わせる。


「良いですか? 弓を持つ手には力を入れずこのように親指の付け根に当てて添えるように軽く握り、羽の部分を親指の付け根で握りこむようにして矢を番え、真っすぐ左腕を伸ばし、胸を張って構えます」


「こ、こうですか?」


「いえ、こう弓を持つ手と矢を持つ腕の肘が真っ直ぐ肩の高さで揃うように構えるのです。あぁ、それでは左肘が下がりすぎです」


 弓を構えるのは中々難しく最初の一射が放てない。弓が引けたかと思えば矢が外れたり上手く構えられたと思ったら弦に矢が掛かっていなくて足元に矢が落ちたり、悪戦苦闘する事30分、やっと矢が前に飛んだ。


 まあ、目標の木には当たらず大きく外れて地面に刺さったんだけど、とりあえず1歩前進だ。


「弓って難しいですね。なんでエミル様はあんなに素早く正確に撃てるんですか?」


「誰でも最初はこんなものですよ。私も初めて弓を握った時は似たようなものでした。ひたすら訓練あるのみです」


 エミルの励ましに押されランカは更にやる気を増したようだ。結局、このあと2時間ほど練習をして1射も狙っていた木には当たらなかったけど、なんとか失敗せず前に飛ばせるようにはなった。良い感じになってきたところなので、もう少し練習をさせたかったらしいのだけど、ランカが疲れて弓を引けなくなったので今日の弓の練習は終了だ。


「ありがとうございました」


「いえ、お疲れさまでした」


「じゃあ、そろそろお昼にしようか?」


「「はい」」「うん」


 今日のお昼はサンドイッチだ。とは言っても食パンはないので丸パンを半分に割って焼いたお肉と野菜の酢漬けを挟んだだけの物だ。酢は前世でいうところの果実酢のようなもので、グルーフィというスモモのような甘酸っぱい果物から作ったグルビーというお酢。このグルーフィからはグッフィというお酒も造れるらしい。


 お酢と卵と油があるのでマヨネーズが作れるかな? と、思ってチャレンジしてみたのだけど、残念なことに上手く結合してくれなくてマヨネーズは作れなかった。グルビーが前世で使っていたお酢と別物だからかと思ったけど、日那国のお酢や他のお酢でも無理だったので前の世界とは作り方が違うのだろう。


 前世で残り汁も何もない時によく食べていたマヨご飯を久しぶりに食べたかったんだけど、食べられる日はまだ遠そうだ。


 昼食が終わると今度は索敵訓練が始まる。森の中に移動し、教えるのはレオナの番だ。


「んとね。魔物を探すのは音と匂いで探すんだよ。こう耳で聞いて、ほら向こうで足音がしたでしょ?」


 と、説明しながら耳をピクピクさせて音のする方を指さすレオナ。最近レオナは僕達にでも分かりやすく説明出来るようになったのは良いのだけど、風で枝が揺れて葉がカサカサする音は聞こえるけど足音なんて僕達には聞こえない。


「音がした方の匂いを嗅いだら魔物がいるか人がいるかわかるんだよ」


 匂いも僕達には草や木の匂い以外まったく分からない。因みにレオナは本気で集中すると1㎞先の草むらに硬貨が落ちた音が聞こえるらしい。匂いも風下にいれば2㎞先にいる魔物の匂いも分かるというのだから凄いよね。最近、僕の広域視の出番が無いんだよね。


「レオナ? 今見つけた魔物はどれくらい離れた場所に居るの?」


「えっとねぇ、たぶん500mくらい向こう?」


 500mってほぼ森の反対側だよね? まあ、僕達に聞こえるわけないし匂いも分からないよ? 遠視でレオナの指さす方を見てみるとダチョウくらいの大きさの鳥の魔物がいた。


「そんなに遠くの音が聞こえるんですね……それってレオナ様だけなんじゃ?」


「まあ、この中じゃレオナにしか分からないよね。でも、同じことが出来なくても周りの音に気を付けるのは大事な事だよ。風で枝が揺れる音と魔物や人が草むらをかき分けて移動している音は違うから、10mや20m離れた場所の音に気が付くだけで不意打ちされる確率は減るからね。僕もエミルもレオナほど凄い聞き分けは出来ないけど、狩りの時はそういう訓練もしてるよ」


 広域視は森の中では遮蔽物に邪魔されて遠くの索敵にはあまり使えない(近距離なら充分役に立つけど)。遠視は遠くまで見ることが出来るけど僕が向いている方向じゃないと見えないし、視野も普通に見るのと変わらないので索敵向けではない。だから、レオナと一緒ではない時を想定して音頼りの索敵は練習している。音を気にするって結構大事な技能だよね。


 因みに探知や感知神術を使った索敵方法もあるのだけど、ランカは神術が使えないのでこの方法は教えられない。教えても良いのだけど、前にディアスキンさんが言っていた法律の問題があるから下手に教えられないんだよね。


 と、いう事で、今日はレオナには余程不測の事態がない限り、索敵で魔物に気が付いても僕達に教えないように指示して、森の中で索敵の訓練をする事にした。


 僕とエミルも危険がない限りはランカに魔物が近いという事は教えない。レオナの役目は魔物に遭遇する場所に僕達を誘導する事だ。


 故意に魔物に後ろを取らせるようにレオナが移動するので突然後ろから魔物が飛び出してきてランカは少し森に恐怖心が芽生えたようだ。


 まあ、実際に魔物に噛みつかれるようなへまはしないので、驚いてランカが尻もちをつくか転んで木に頭をぶつけるか程度で、怪我という怪我はしていない。


 ある程度は狩りの危険性というのも頭にないと、万が一という事もあるのでこれは良い訓練になるだろう。



 ──ランカがうちに来て2週間が経った。


 ここのところ毎日採取と狩りをしている。ランカはまだ魔物に矢を当てる事は出来ないけど、3回に1回は20m先の木に命中させる事が出来るようになり、魔物の解体を覚え、ウマシッカというカピバラによく似た魔物の解体なら1人で出来るようになった。


 ウマシッカは前歯が鋭く突進力が強い魔物で草食なんだけど、縄張り意識が強く木陰から突然飛び出して体当たりをしてくる。立木がへこむほどの頭突きは普通の人がくらうと骨折くらいはするだろう。


 10日ほど採取をしていて分かった事だけど、この辺り(アインス近郊)には草食系の魔物が多い。巨大な昆虫系の魔物は今のところ見かけないのでいないのだろう。狼、熊などの肉食系の魔物は比較的少なく、グラダ近郊に比べると安全な地域だ。毒をもっている魔物や食べられない魔物もいないので狩りをして稼ぐには向いている地域だ。


 ただし、採取や狩りはそれなりに稼げる仕事なのだけど、比較的安全だというだけで野生の魔物が危険な生き物だという事に変わりは無い。普通の人は護衛もなしに外に出るのは危険だ。当然、護衛費は自腹なので安定収入を目指すなら街中で仕事をした方が確実だろうな。


 余談だけど、アインスには冒険者が多い。理由は町の南に位置する僕達が生活している一般平民の居住地区と商業地区の間、冒険者ギルドの裏手にデザリア国王国最古の迷宮(ダンジョン)があるからだ。元々、ダンジョンはデザリア建国以前からあった、ただの遺跡だったらしいのだけど、そこがダンジョンに変化し、デザリアの学問ギルドが調査、研究をし始めたのをきっかけに、人が集まり学問の町へと発展したのだと、以前タンハの町の商業ギルドマスターのポクリさんに教わった。


 閑話休題。


「解体上手くなったね」


「はい、おかげさまで。でも、やっぱり血抜きの時が少し気持ち悪いですね。これがお金になると思えば我慢できますけど」


「何百、何千と解体していればいずれなんとも思わなくなりますよ」


「そうだね。でも、もし僕達以外と狩りに出た時は町の外で血抜きや解体はしない方が良いよ。血の匂いで肉食の魔物が寄ってくる事もあるから」


「はい、解っています。でも、直ぐに血抜きしておいた方が高く売れると思うとどうしてもやりたくなりますよね。勿体ないなぁ」


 確かにそうだろうけど、命の方が大切だ。今は僕達が一緒だし解体の練習の為にやっているけど、普通は街の外で血抜きをする事はあっても解体まではやらない。


 解体が終わった肉を水神術で軽く洗い、異空間冷蔵魔法道具に入れて残った内臓などは軽く土を掘って埋めておく。こうする事で後にやってくる肉食の魔物や地中の虫達が食べてくれ、その魔物達の糞が肥料になり森が育つ。


 これぞ食物連鎖。


 解体が終わり、少し場所を移動してお昼ご飯を摂っていると


「ファーマ様、変だよ。周りに何かいる」


 レオナが急に真剣な表情で声を掛けて来た。


 変? レオナが索敵でこういう表現をしたのは初めて……いや、アインスの町中で1度だけあったな。


「何か? 魔物じゃないの?」


「うん、なんか変。よく分からないけど周りに何かいる」


 レオナが警戒しているなら間違いなく何か居る。


 僕は直ぐに【透視】を展開させ周囲を見回した。すると、僕達から30mほど距離を置いて中腰で木陰に隠れながら歩いてくる人達を発見。人数は10人、全員が手に剣やナイフを持っている。


 おかしい、レオナに気付かれずこんな近くまでどうやって来たんだろう? 何かの神術? それとも魔法道具? どちらにしても偶然採取に来ている人ではない。ランカもいるし安全を考えて逃げよう。


「逃げるよ」


 そう声を掛け、森の外に向かって走り出そうとした時──


「動くんじゃねぇ!」


 ──大声とともに飛んできたナイフが進行方向にあった木に突き刺さり、その直後、僕達を取り囲むように8人の男が木陰から出てきた。


「死にたくなければ大人しくしろ」


 出てきた男達は迷彩のように服に木の葉や草を巻き付けている。持っている武器も術式が刻まれた魔鉄鉱製の魔法武器だ。ただの盗賊って感じではないな。


「どちら様ですか?」


 出てきた男達のリーダーらしき眼帯の男に尋ねながら僕達はランカを守るように位置取りする。


「誰だと聞かれて素直に答えると思うか?」


「思いませんけど、只の盗賊でない事は分かります」


「ほぅ、なんでそう思うんだ?」


「只の盗賊がキャッツの耳と鼻に気付かれずに僕達を囲むなんて出来ませんからね。それに統率が取れているし動きも素人って感じには見えません」


 ただの盗賊はもっと動きが雑だし、そもそも行き当たりばったりで人を襲うから、こんな念入りに用意してきましたなんて格好はしていない。


「なるほどな、中々良い読みだが知る必要はねぇ。お前達には2つ選択肢をやろう。差し出すか、奪われるかだ」


「どちらもごめんですね。大人しく帰らせてください」


 見下ろすように見つめる男に僕は笑顔でそう答えた。帰らせてくれる事はないと分かっているけど、とりあえず会話を続けて状況確認をしないと何があるか分からないからね。


「余裕の顔だな。まあ、てめぇらの事は調べたから、その魔人と緑の髪の嬢ちゃんが強いのは知っている。かなり良い腕をしているが、足手まとい2人も抱えてどこまで戦えるかな?」


 じっくり調べた? レオナに全く気付かれずに僕達の事を調べていたのか? 僕も平原では広域視で辺りを確認していたけど、見える範囲に怪しい人は見かけなかったぞ? でも、この人達は1つ大きな勘違いをしている。


「因みに、見逃してもらえる条件とかありますか?」


「無いな。俺としてもガキを殺すのは気が進まねぇがこれも仕事だ、諦めな。そっちの女2人が大人しく捕まってくれるならお前は苦しめずに殺してやるよ」


 僕は? という事はレオナは?


「用事があるのがこの2人ですよね? この子をどうするつもりですか?」


「その魔人はあとでたっぷり可愛がってやるよ」


「幼女に欲情するタイプに人なんですね……」


 引くわー……


「ふざけんな! 誰が魔人なんかに欲情するか気持ちわりぃ!」


 幼女のところは否定しないんだな。この変態め。さて、状況把握は終わったから捕まえるとしようか。


「エミル!」


 くだらない会話をしている間に僕達は通信魔法道具で情報の共有と作戦会議を済ませている。僕が名前を呼ぶと、エミルは会話中に神力を練り上げ発動準備をしていた天属性雷神術の範囲攻撃を無詠唱で発動させ、囲っていた8人に放つ。ちゃんと殺さないように手加減をしているので誰も死んではいない。


 それと同時にレオナは素早く僕の後方、レオナの正面の木陰に隠れている1人のところに飛び込み、僕は前方に隠れているもう1人の前に移動。


 上手く隠れているつもりだろうけど、透視眼で丸見えだよ。


 突然目の前に現れた僕に驚いて動きが止まっている男の腹部に拳を叩き込み昏倒させた。吐いてのたうち回っている男の顎に軽く蹴りを入れて意識を奪い、襟首を掴み引きずって元の場所に戻ると、レオナも後方で隠れていた男をKOして戻ってきていた。


 全員を後ろ手に縛りあげ1か所に集め、2人が収納魔法道具を腕に付けていたので回収、服のポケットの中も調べて持ち物は全部取り上げた。


「どうしたの? ランカ」


「はっ、すいません。突然の事に頭が付いていきませんでした。今、何が起こったのですか?」


「見ての通り、悪者を捕まえたんだよ」


「突然の事で何が起こったのか今一つ理解できていないんですが、ひょっとして魔法が使えるのですか?」


 そういえばランカの前では1度も使った事なかったな。まあ、突然悪者に襲われたら恐怖で状況把握も出来なくなるよね。町の外で活動するならこういう経験はしておいた方が次からパニックにならなくて済むし、ランカには良い経験になったな。


「僕達3人とも、それなりに魔法は使えるんだよ。今回は相手が油断していたから、楽に捕まえることが出来て良かったよ」


「ふぇー、魔法って凄いんですねぇ。あっという間に8人もやっつける……あれ? 2人増えてる?」


 パニックになっていた割にちゃんと把握していたんだな。意外と冷静。さて、そろそろ気絶している人達を起こそうか。色々と知りたい事もあるしね。


「おはようございます。状況わかります?」


 水神術で頭から水を浴びせ、目を覚ました男達に声を掛けると眼帯の男が僕達を見上げ口を開いた。


「チッ! 油断したぜ。まさか高位の魔法士がいやがるとはな……」


 女子供だけだからと舐めてもらっては困る。エミルもレオナも、そこら辺の冒険者より遥かに優秀なのだ。


「さて、あなた方に2つの選択肢をあげます。素直に話すか、強制的に言わされるか、どちらが良いです?」


 相手の言ったセリフをブーメランしてみた。まあ、後者を選ばれると正直困るんだけどね。拷問とかやりたくないし。


「わかった。なんでも聞いてくれ」


 やけに素直だな。まあ、こっちとしては助かるけどね。


「やけに素直ですね」


「俺だって命は惜しい。ここで死ぬくらいなら素直に話して逃がしてもらえないか交渉した方がましだ。どうだ? 聞かれたことは何でも話すから俺達を逃がしてくれないか? 逃がしてくれるなら2度とお前らの前に顔を見せねぇからよ」


 この人達が正直に話すとは思えないけど、それでも問題は無い。とりあええず、さっきの裏会議で1度逃がす事は決定しているので幾つかの質問をしたら解放はするつもりだ。


「……考えておきます」


「ああ、頼む」


 眼帯さんは安堵の表情を浮かべた。


「じゃあ、聞きますね。このベルトみたいなのって亜人の索敵を妨害する魔法道具?」


 襲ってきた男達全員が天属性と邪属性の小さな神結晶が嵌め込まれたベルト型の魔法道具を身に着けていた。まず間違いなく索敵妨害の魔法道具だろう。


「ああ」


「事前調査をしていたという事は誰かに頼まれて僕達を襲ったんですか?」


「ああ、依頼人が誰かは知らねぇが、俺達のところにある筋から依頼が来たんだ」


「ある筋?」


「ああ、普段はどこにいるのかは分からねぇが、どこからか依頼を持ってくる奴がいるんだよ」


 と、質問を続け情報を引き出し、聞きたいことは全部聞いたので質問を終える。


「さてと、聞きたい事は聞けたので逃がしても良いですけど、こっちも命を狙われたんだから持ち物くらいは慰謝料代わりに貰って良いですよね」


 解放したとたんに襲ってこられると困るし。


「命を助けてもらうんだ。そのくらいは当然だろう」


「また、後日に襲ってきたりしませんか?」


「襲わねぇよ。強力な魔法士が護衛しているような奴を何度も襲うほど俺達も命知らずじゃねぇ。どんなに金を積まれても、今回みたいな目に遭うのはもうこりごりだぜ」


「わかりました。この人達を解放してあげて」


 僕がそういうと、エミルとレオナはササッとロープと拘束具を解き全員を解放した。ランカは何も言わないけど逃がす事に戸惑っているようだ。


「助かったぜ、2度と会わないことを願うよ」


 男達はいそいそとその場を立ち去り、僕達は男達とは逆の方向にしばらく歩く。


「エミルとランカは先に帰って食事の用意をしてくれる? 僕とレオナはもう少し狩りをして帰るから」


「かしこまりました」


 ランカには裏会議やこの後の行動を教えるつもりは無いので、エミルを護衛に付けて先に帰ってもらう事にする。


「え? 大丈夫ですか? さっきの人達に襲われたりしませんか?」


「大丈夫だよ。あれくらいの実力ならエミル1人でもランカを危険にさらしたりしないから」


 ランカは不安に思うかもしれないけど、不意打ちを受けたとしても今のエミルの敵ではない。まあ、武器も取り上げているし引き返してくる事は無いだろう。


「いえ、私が言っているのはファーマ様達の事です」


「それならもっと大丈夫。あの5倍来ても問題ないよ」


 自分が狙われていたのに僕達の心配をしてくれるなんて本当にいい子だな。ランカには無理やり納得してもらって僕達は悪者の追跡だ。


「レオナ、さっきの人達が今どこにいるかわかる?」


「うん、向こうの方走ってる」


 立ち去った方向とは別の方に向かっているようだ。あっちも尾行を警戒しているんだろうな。それにしても、気絶するほどのダメージを受けたというのに、もう走れるとは元気な人達だ。


「行こうか?」


「うん」


 僕は自分とレオナに邪属性の認識阻害神術を使い、男達の後を追った。


 因みに、さっきの眼帯の人の質問への答えは殆どが嘘だ。僕は日那国にいる時に練習して使えるようになった神眼の能力【思考視】を使って確認している。


 思考視は本来、見た相手の記憶や考えている事を見通す能力。今の僕では、相手が嘘をついているかどうか程度しか分からないけど、それでも充分に役に立つ。眼帯の人が本当の事を言ったのは魔法道具に関する事と、誰の依頼なのか分からないという事だけ、あとは全部嘘。


 でも質問は殆ど〝はい〟か〝いいえ〟で答えられる質問にしていたので嘘をつかれても問題は無いのだ。それにしても誰に依頼されたんだろう? まあ、心当たりはあるな、1人だけ。



 尾行の道中、何度か眼帯達が後ろを振り返り、何かの道具を見ている。持ち物は全部取り上げたと思っていたのだけど、どこに隠していたんだろうか? ひょっとしてこういう場合を想定してどこかに隠していたのかな?


 相手とは距離を500mほど置いて、レオナ頼りで尾行を続ける。もっと近づけば楽に尾行できるのだけど、認識阻害は完全に気付かれなくする神術ではない。存在を希薄にして気付かれにくくする神術なので、向こうが警戒している場合や、こちらが目立つ行動を取っている場合には気付かれる事がある。


 これも相手との力量差やからめ手によって、より見つかり難くは出来るのだけど、今は普段の服装だし近距離で尾行すると、キャッツ族ぐらい索敵に優れた相手の場合は見つかる事もあるのだ。因みにレオナには認識阻害を使って不意に近づこうとしても音と匂いで直ぐに気付かれてしまう。


 尾行する事およそ1時間半、到着したのはさっきの森から南西に10㎞ぐらいの岩場。


 アインスからだと南南西に20㎞ちょっとぐらいの場所だ。街道からも大きく外れているし近くに森や川もない荒れ地というか岩場なので、あまり人が近づきそうもない場所なので隠れ家には丁度よさそうだ。


 眼帯の男達が入っていったのは、浅い谷の陰に隠れるようにして建てられている小さな砦のような建物。周りの岩場と似たような色のレンガで防壁を作っていて出入口は1つ、金属製の丈夫そうな格子状の吊り扉で守られている。


 谷に埋もれているのである程度近づかないとあそこに建物があるなんて気付く人はいないだろうけど、向こうから見ても正面の道以外の場所は見えにくいだろう。


 僕達は岩影の1つに隠れて砦の様子を窺う。防壁の高さは約5m、格子扉の隙間から見た限りでは中に2階建ての建物があり、結構人が多い。


 防壁は人が上がれるような設計になっているようで、扉の前に見張りは立っていないけど、防壁の上には巡回している人が数人いる。


「たぶんあれがアジトだね」


「このままやっつけるの?」


「いや、流石にこのまま行ったら目立つから一旦帰って準備するよ」


 仲介屋というのがいるらしいので、僕達がアジトを潰した事がその仲介屋を通じて悪者の間で広まったら面倒だ。一度家に帰って僕達のアリバイ作りはしておかないとね。


 今回は簡単な下調べをして夜にでも僕1人で戻ってこよう。

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