第6話 ファーマ君、採取をする
ランカと契約をした翌日。
今日はエミルの住民登録と納税の為に役所に行った。登録地は本人の希望で僕と同じステイール領グラダの町。国外にいた間の滞納分と今期の住民税、アインスに滞在する為の滞在税、レオナとランカの奴隷所有税、まとめて納められる税金は全て払い終えた。
その後、ジョブギルドでエミルの登録を行い、ランカの衣類や日用品を購入し、昼過ぎごろに帰宅しようと家に向かって歩いていると、レオナの様子がおかしい。何故か辺りを不思議そうにキョロキョロしている。
「どうしたの? レオナ」
「うーん、なんか変」
レオナは考え込むように首を傾げてそういった。
「何がどう変なのか分かる?」
「ううん、わかんない。でも、なんか変な感じがする」
変な感じ? レオナが違和感を覚えるという事は何かあるんだろう。レオナはキャッツ族、感覚派は野生的な本能が強いから、僕達より周りの変化に敏感に気が付く。
念のため広域視を使って辺りを探ってみたけどこれと言っておかしなところは無い。
「でも、たぶん気のせいだよ。変な感じ無くなったから」
ふむ、レオナがそういうなら信じて大丈夫だろう。でも、暫くは僕も気を付けておくとしよう。
翌々日。結局、レオナが違和感を覚えたのは、あの時だけだった。僕も広域視で注意して見ていたけどこれと言っておかしな物や人は見当たらなかったので本当に勘違いだったのだろう。
「さて、エミルがジョブギルドの登録をした事だし、今日は採取のクエストでも受けようか?」
不安も解消されたので、今日は採取に出かける事にした。折角、採取ポイントに詳しい人を雇ったのに行かない手はないよね。
「良いですね。実は、この辺りでどのような薬草が採れるのか気になっていたのです」
「レオナは狩りがやりたいな」
「そうだね。採取のついでに狩りもやろうか。ランカ、薬草が採れる採取ポイントまで案内してもらってもいい?」
「勿論です。やっとお役に立てますね。ファーマ様に引き取ってもらってから殆ど何も仕事が出来ていなかったので不安だったんです。今日は頑張ってお役に立ちますね」
今のところ家事と言っても半日も掛からない量しか無い。料理はエミルを先生にして和食の勉強中なので殆どエミルが中心になってやっている。僕としては変に気負ってほしくないのだけど、本人からすれば仕事がないのは不安なんだろう。
ランカはとても良い笑顔になった。
家から一番近い東門を通って町の外に出る。ランカがよく採取をしていた場所のうち1つが、ここから南に15㎞ほどの場所らしい。
「あの? 本当に冒険者は雇わなくても良いのですか? この辺りでは盗賊には滅多に襲われることはないですけど、魔物は襲ってきますよ?」
滅多にという事は、盗賊も出る事はあるんだな。でも、怪しい人が近づいてくればレオナが気付くし、万が一戦闘になったとしても普通の人にやられることは無い。まあ、ランカは戦えるタイプではないので戦闘中に怪我でもされたらご家族に申し訳が立たない。出来る限り戦闘は回避しよう。
「大丈夫だよ。僕達こう見えても結構強いからね。エミルは弓の名手だし、レオナは索敵能力に長けているから不意打ちの心配はないよ。ドラゴンでも襲って来たらちょっと危ないけどね」
特に天雷竜は飛んでくるし、飛ぶ速度が速いのでレオナが気が付いてからでは追い付かれてしまう。
「ど、ドラゴンなんて襲ってきたら冒険者がいようが一瞬で全滅しますよ? ちょっと危険なんてもんじゃないです。ファーマ様はそんな冗談も言うんですね」
冗談で言ったわけではないんだけどね。日那国近辺で狩りをしていると極たまにだけど、野生の天雷竜が山向こうからやってきて襲ってくる事があった。まあ、リミッター1つ外したら大抵は引き返していくけど。1度だけ引き返してくれなくて3人で戦ったことがある。
ドラゴンを倒すのは結構骨で、僕のナイフやエミルの矢は一応通じるのだけど、ナイフは刃渡りが足りず致命傷を与える事が出来ないし、矢は刺さるには刺さったけどこれも深くまでは刺さらず殆どダメージにならなかった。最終的にエミルとレオナが怪我をしてしまったから、慌ててディグランザで倒したんだよね。
出来るならあまり戦いたくない相手だな。いろんな意味で。
「まあ、それくらいは安全だって事だよ。だから、安心して大丈夫だよ」
「わ、わかりました。では案内しますね」
ランカの案内で3時間ほど歩き、小高い丘を下った先の川沿いの森にやってきた。道中、何度か魔物と遭遇したのだけど、素早くレオナが気付きエミルが射貫く、もしくはレオナが蹴り倒してサクサク血抜き、を繰り返していると、ランカは僕の言った事が本当だったと安心したようだ。
「ファーマ様、誰か近づいてくる人がいるよ」
「どっちの方?」
「森の中。3人いる」
「見えないのに人数までわかるんですね?」
「うん、キャッツなら誰でも同じ事できるよ」
ランカは「はへー」と間抜けな声を漏らしている。僕も最初は驚かされたけど最近は慣れてしまって驚くこともなくなったんだよね。
「僕達以外にも採取に来ている人がいるのかもね。3人とも一応警戒はしておいて」
「「はい」」「うん」
採取ポイントなのだから僕達以外に人がいるのはおかしな話ではない。でも、そういう人に扮した盗賊という可能性も捨てきれないので警戒は必要だ。
森の入り口に差し掛かり向こうから歩いてくる3人組の姿を目視した。一般的な布の服の男性が2人と魔物素材の武具を身に着けた冒険者風の男性が1人、全員が背中に登山用のバックパックのような大きな袋を背負っている。
冒険者は兎も角、護衛されている2人の体格が冒険者と同じくらいいい体格をしている。
「こんにちは、採取のクエストですか? 早くから来ているんですね」
「そちらもですか? おや? 護衛を雇わずに来ているんですか? 勇気がありますねぇ」
ランカが声を掛けると男性2人がこちらに視線を向け笑顔で返してきた。こういうところで会った人に普通に挨拶できるランカは凄いな。採取場所が被るのって結構あるのかな?
「いえ、こちらのお2人がとても強いので、護衛がいなくても大丈夫なんですよ」
と、ランカがエミルとレオナに手を向け笑顔で返した。すると、冒険者以外の2人はにこりと笑って会釈をする。ふむ、どうやら悪い人ではなさそうだ。疑心暗鬼になりすぎるのもよくないね。
因みに、ここに来るまで遭遇した魔物はエミルとレオナだけでサクッと狩ったからランカはまだ、僕が1番強いという事を知らない。
「そうですか。それは心強いですね。では、頑張ってください」
「ありがとうございます」
挨拶を交わすと男達は通り過ぎて行った。
「たまたま採取場所が被っただけみたいだね」
「ですね。先客がいたという事は収穫があまり望めないかも知れないですね」
「それならそれでしょうがないよ。まあ、折角来たんだから少しここで採取しようか」
それから3時間ほど、ランカに先導されながら採取をした。薬草や木の実など本当に詳しく、予想に反して結構な収穫があった。
「ランカのおかげで沢山採れたね。これなら結構な収益になるんじゃない?」
「さっきの人はあまり採取には慣れていなかったんでしょうね。群生している所とは少しずれた場所に採取跡がありましたよ。お蔭で沢山採れましたし、やっとファーマ様のお役に立てて嬉しいです」
採取した物はアインスのジョブギルドのクエストボードに貼ってあった物の中でも結構高く買ってくれる物が殆どだった。たぶん300デニールぐらいになるんじゃないだろうか? グラダの農場での日給が33デニールだったから4人でこの収穫なら普通の人の倍の収入になる。上等、上等。
「でも、今日は出来すぎですね。以前、家族と来た時はこの半分ぐらいでしたよ? 冒険者への報酬を払ったら殆ど残りませんでした」
なるほど、護衛料を考えると美味しくない仕事になってしまうのか。ランカの話では護衛の冒険者は星2ランクの冒険者で1人1日あたり80デニール払わなければいけないらしい。つまりこの半分の収穫だと残るのは70デニール。4人でその稼ぎだったら農場で働いた方がお金になるな。
初めて会った時、リリとミミが危険を顧みずに2人だけで採取に出ていた理由がわかった。
因みに星1ランク冒険者なら護衛料はその半分で済むらしいのだけど見習い冒険者なのであまり役には立たないらしい。ランカではないけどお金を惜しんで星1ランク冒険者を雇った人が居たのだけど、魔物の接近に気が付かず不意打ちを食らって大怪我をした人がいるらしい。星2ランク冒険者が絶対に安全とも星1ランク冒険者がみんな役に立たないとも言えないけど、星1ランク冒険者にはなりたての人が多いので、どうせ護衛を付けるなら星2ランク以上の冒険者を雇った方が安心できるという事だ。
得た利益はきっちり4等分してそれぞれのお小遣いにした。案の定3人全員が受け取り拒否しようとしてきたので無理やり受け取らせた。
この日から5日ほど続けて採取に出かけた。同じ場所で続けて採取をすると収穫は減るし採り尽くしてしまうと次から採取出来なくなるので毎回違う場所に行って採取をしている。ランカは言っていた通り採取ポイントに詳しく、まだ行っていない採取場所が20か所ほどあるそうだ。それくらい押さえておかないと採取で稼ぐのが難しいらしい。
因みに収益は日によってまちまちで、少ない日は100デニール程度、多い日は350デニール程度の収益になった。
平均するとこの6日間の収益は1日当たり180デニールぐらい、今のところ農場で働くよりは良い収入になっている。因みにこれは採取だけの収入なので期間中に狩った魔物の素材(肉や皮や神結晶等)を売却したお金を足すと3倍ほどになる。
「魔物って凄くお金になるんですねー」
「そうだね。全部が高く売れる訳じゃないけど、危険に向かっていく分、採取や農場での仕事より収益が多くなるんだろうね。良かったらランカも狩りを覚えてみる? 直接対峙するのは怖いだろうけど弓なんかで遠距離から狩る分には危険は少ないと思うよ?」
狩った魔物にもよるけど、珍しい神結晶や美味しく食べられる魔物、武具の素材になる魔物は良い値段になる。そういった魔物以外は持って帰っても売れないので出来るだけ殺さず追い払うようにしている。
ランカも狩りが出来るようになれば、奴隷から解放された後に採取クエストついでに狩りも出来るから稼ぎやすくなるだろうな。
「わ、私にも出来るでしょうか?」
「前衛をやってくれる人がいればだけど、弓とか遠距離の武器で攻撃すれば比較的安全に狩りが出来ると思うよ」
「私で良ければ、弓の使い方を教えますよ」
「じゃあ、レオナは魔物の見つけ方教えてあげる」
「本当ですか? じゃあ、ちょっとやってみようかな? エミル様、レオナ様宜しくお願いします」
因みにランカはエミルとレオナに対しても様という敬称を付けて呼ぶ。最初に僕がエミルとレオナは家族に等しいと言ったから、ただの奴隷の自分が同等に話してはいけないと思ったらしい。
エミルもレオナも敬称や敬語はいらないといったのだけど『奴隷がご主人様の家族に敬語も使わないのは不敬に当たりますから』とランカが固辞した。
こういうところを見ているとランカはギルドランクの評価以上に真面目な性格であるという事がわかる。良い人を雇えて良かった。
次回更新は5/15になります。




