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夢幻の星刻騎士〈スター・ナイト〉  作者: 夢愛
第一章 死して戦う者達
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相棒

 炎神の大地を揺らす雄叫びに、僕だけが怯んで脚を止める。先輩は、自身の周囲が崩壊しないか不安気に見回す。

 対してルカは、微塵も臆していない様に炎神に槍を突き立てた。

 巨大な槍の先は、炎神の腹部を貫き風穴を開けた。風のセンスも纏われていて、弾け飛ぶ四股。

 やっぱりルカは強い。


 リーダーというだけあって、敵に対する恐怖心も受け入れない様な堂々とした佇まいに、惹かれるものがあった。

 その上強いんだもん。ルカは天才小学生だね。

 ん? 中学生くらいかな。身長的に。あと十年前から戦ってるって言ってたし。


 当然、というべきなのかは曖昧だけど、炎神は跳ねる様に後退し徐々に弾けた脚を再生していく。中々厳しい相手だとは思う。

 その炎神に追い討ちをかけることはなく、ルカは鼻息を出すと振り返った。


「あの炎神、全身粉々に粉砕しなくては消えないらしいな。地味に面倒だ。私の風が全身を吹き飛ばす直前で回避される」


 膨れた顔で溜め息を零すルカ。

 僕は炎神に警戒しつつ彼女に接近し、自分なりの意見を述べた。自分なりのだよ。


「なら、一度でさっきみたいに脚全部吹き飛ばして、残りも出来ないかな」


「誘い込みに乗る程致命的なものは無い。奴がもし、他に攻撃手段を隠していたらどうする」


 哀れむ様な視線を向けられ、僕から表情が消えた。

 僕なりに考えたんだよ、これでも。そうしたら、一気に片付くかと思って。

 ──残念なことに、炎神にはまだ攻撃手段があるんだった。

 口から吐き出される炎の蜘蛛の巣。それに警戒しなきゃ。


 多分ルカはそれまで踏まえての突撃だったんだろうけど、僕は既に忘れてた。ちょっと前に受けたのに。

 自分自身の無能さに呆れる。哀しい。

 ルカに手を引かれ、炎神が再生を終えそうなことに気がついた。漸く。


「夢奏、戦えるのか? 脚は情けなく震えたりしていないか? それだけで命取りの様なものだぞ」


 ルカは蔑む様な笑みを浮かべ、炎神を見据えて質問してきた。勿論、腹が立つ。

 だけど現状、脚は震えていないものの、恐怖心は残ってる。先程まで脚が震えて、ビビって判断力を欠いてた為にやられかけたからね。

 今度こそ、ルカ一人に戦わせる訳にはいかない。僕も隣で戦うんだ。


「大丈夫。やろう、ルカ」


 僕は炎神を睨みつけ、大剣を握り締めた。


「ふん、気圧されるなよ。死にたくなければな!」


「大丈夫だよ!」


 楽しそうで、嬉しそうなルカの横顔を確認し、僕も笑った。決して楽しんでる訳じゃないんだけど。

 僕とルカ、二人の片足が揃って地面を蹴り、跳び上がる。未だに慣れないこの跳躍力……未だにって言ってもまだ二度目なんだけど。


 宙を下向きで蹴り上げたルカは弾丸の様な速度で炎神に突っ込んで行く。多分、風を使っての動きだと思う。

 何も使用せずに出来る攻撃法じゃない。

 ところで僕は空中で浮遊し、同時に星の球を剣先に集合させるイメージを作る。センスの同時発動、難しいかな? 出来るかな?


「ごがあっ!」


「まだ続けるぞ! ふんっ!!」


「あおおおお!!」


 ルカはまだ攻撃は止めず、太い槍で炎神の身体を一部、また一部と破壊していく。そのまま倒してくれても構わないんですけど。

 でも、ルカは僕に気を遣って炎神を仕留めてないんだと思う。僕に経験値を与える為に、炎神をわざと生かして弱らせてるんだと。

 生かさなくていいです。時間がかかるし。


 炎神に悟られない様に冷静に、静かに集中していく。この作業とても退屈だ。

 だけど絶対に集中を切らせちゃダメだ。ルカが居なくても勝てる様にする練習でもあるんだから。


 大剣を構えつつも、ふと切断されて落ちた炎神の脚の一本に違和感を覚えた。

 何で、一本だけしか残っていないのだろう。飛ばされた脚は八本の筈なのに。


「夢奏! まだか!? まだチャージは完了しないのか!?」


 流石に厳しい、というようにルカはこちらを横目で見る。僕は反射的に集中力を高め始めた。

 それでも、ルカはまだ余裕あり気に激しく攻撃してるけど。それ炎神まだ倒せないの?


 思った以上に難しいセンスの同時発動。中々上手くいかない。

 ところで、僕場所バレてるとしたら浮いてる意味なくない? 降りて一つに集中した方が絶対確率あるって。

 何事も無かったように着地し、更に集中する。

 球を飛ばすのだと避けられちゃうかも知れないから、そのまま切りに行ってみよう。


「よし、このままなら行ける! ルカ、僕が突っ込んでみるよ!」


「ギリギリまで引きつける! 来い!」


「うん!」


 ルカが僕の突進を直前で躱し、剣先が炎神を貫いた。

 確実に倒す為、更に深く、もっともっと深くまで押し込んで行く。


「吹っ飛べぇええええ!!」


 九つの水色球が剣先に集中し、青い閃光と共に弾けた。立つのがやっとな爆風が、ここら一帯を突き抜ける。

 発動した僕まで浮きそうになったよ。そこは自分に害無しがよかったなぁ、漫画みたいに。


 腕で眼にかかる砂埃をガードしたルカが、周囲を見回して浅い息を吐いた。


「終わったようだな、よかった。よくやったぞ夢奏。夜耶もこれを機に特訓を始めてみようか」


「うん、お願いルカちゃん」


 先輩はやっぱり足手纏いにはなりたくないようで、真剣に頷いた。

 何にしても、これであの炎神との戦いは終わったんだよね? 今回はこれで終わりだよね。

 汗を拭うルカを不意に見て、僕は彼女が言っていた言葉を思い出した。炎神を倒す、ちょっと前のことだよ確か。


「ねぇルカ、この町のこと調べてたんだよね? 結局何が分かったの?」


 僕が問いかけると、それに続くように先輩も口を開いた。


「そうそう、言ってたね。私達は『SanKen town』って文字を見かけたけど」


「『沈んだ町』か、なるほどな。私が見つけたのは、図書館の様な場所だった。数え切れない程の本が幾つもの部屋に分けられて並べられていた」


「そん中からこの町についての本を探し出したの!?」


「いや──」


 だよね。数え切れない程本があるなら、探すのに時間がかかるのは当然のことだけど、まず途中で飽きる気がする。

 だけど、そうしたらどんな風に見つけたんだろう。そして何が記されていたんだろう。

 ルカはこの町についての、何を知ったんだろう。


 先程の台詞に繋げるように、ルカは言葉を発した。

 自分が常識を知らない能無しなのか、またはルカの脳が優れているのかまたは偶然なのか不明だけど、その答えは予想外のものだった。


「図書館には大抵、町の地図や情報などが纏められたノートや資料が置かれている筈だ。本棚ではなく、受付けか関係者以外立ち入り禁止などの普段入れない部屋にな」


 本当に予想外だよ。そんなこと知らなかった。

 偶々ルカが知ってる図書館がそうだっただけで、違かったらどうしてたんだろう。

 もしかしたら全部の本棚漁ってたかも?


「じゃあ、ルカちゃんは侵入したんだ?」


「誰も居ないのに侵入も何も無いだろう。バカめ」


 憮然とした顔でルカは溜め息を吐いた。

 先輩、貴女今日この戦いの最中、僕達と炎神以外誰か見ました? 人影でもあったんですか? どこに?

 不法侵入だとしても、誰も住んでないなら法律なんて無意味だと思いませんか?

 で、僕はルカの横に立ち、もう一度質問した。


「何を知ったの? 僕達も気になってたんだ。『沈んだ町』が、どういう意味なのか」


 ルカは面倒臭そうに眉を寄せると、「仕方ない」と腕を組んだ。面倒臭がらないでよ。


「『SanKen town』というのは、この町の正式名称ではない。ここはルーベストと呼ばれる、私達とは縁遠い国のものだった町だ。ルーベストは、当時の長の名前から取られた様だ」


「ルーベスト……」


 ルーベストって、何だっけ。どっかで聞いたことある様なない様な……いや勘違いかな。

 町の長って、そのまま町長って意味だよね? それがいつくらいなんだろう。


 僕の表情を窺うルカは、人差し指を立てて片目を伏せながら続けた。


「結局、地盤が緩んだか何かして海に沈みそうになっている──ここまでは記されていた。つまりはそうだな。第三者、無関係のダイバーか考古学者などが沈んだこの町を発見し、記念にでも刻んだんだろう」


 それが『沈んだ町』の正体だ──とルカは締めくくった。

 誰かが勝手にって感じだったのか。それって、住民達はどう思うんだろう。そもそも、住民ってどこに行ったんだろう。

 それにしても曖昧な情報だったなぁ。もっとちゃんと調査するべきだよ、この町の人。


 地盤が緩んだからと沈んだのは驚いたけど、自分の住処が水の底なんて悲しいだろうなぁ。恐ろしいし。

 遥か上空の水面を見上げていると、先輩が疑問符満載の口調になった。


「じゃあ、何でここに水が無いんだろう。私達が何らかの理由で守られてるとしても、炎神は太陽のエネルギーでしょ? 届かないじゃん。しかもこの町も濡れてたりしないし、魚とかも見当たらないし」


「あ……」


「そうだな。私にも分からないことは幾つもある。謎めいたこの世界がいつどうなるかなんて、誰にも予知出来ないんだ」


「そっかぁ」


「まあいい。とにかく帰ろう」


「うん」


 光のワープゲートが出現し、僕達は中へ進む。

 だけど何となく、この町の景色を焼き付けておきたいななんて思って、振り返った。


「あれ? あれって……」


 狭まるゲートの先で、ぷるぷると振動する蜘蛛型炎神の足の一本が視認出来た。

 倒したと思い込んでいた炎神は、生きているのかも知れない。まだ、動くかも知れない。

 だけど、再生はしなさそうだったから放っておいた。間違いだったら、迷惑がかかるかもだけど。



 ──幽霊騎士。僕らゴーストナイツの世界へと帰還した。騒めく町の中心部に、僕達三人は不安気になった。

 もしかしたら、また誰かが送られて来たのかも知れない。そうだとしたら、さっきの炎神を倒せていないことになるからだ。

 恐る恐る、といった感じで人集りに接近して行く。


「だから、夢奏君だって! 心臓握り合って骨までしゃぶり尽くされるまで一緒に居るべきなのは彼だよ!」


 恐ろしいことを平常運転で叫ぶナナミさんと、反対側には、


「喩えが気持ち悪いんだよ! それに、あんなヘタレ役に立つか! 俺達の苦労を何とも思わない様な奴に、ルカの相棒が務まるかよ!」


 いちいち癇に障るアイジ。何やら啀み合っている。

 完璧にナナミさんの方を応援するけど、僕達も関係がありそうだから声をかけてみることにした。

 それよりこの人達、こんな人集り作ってても何とも思わないで言い合いが出来るんだね。


 ルカが右手を軽く上げて二人の間に入った。


「お前達何をしているんだ? 私と夢奏が何だか何だかチョメチョメしてただか言ってたが」


「いや言ってねぇわ」


 全く場違いな内容を出したルカに、アイジが邪気を削がれた様にお地蔵様みたいな顔になる。というより、真顔になった。

 ナナミさんは楽しそうに微笑すると、僕の右腕を引っぱった。結構軽かった為痛くはない。


「私はこの夢奏君と、ルカがパートナーになればグッドじゃないかなぁって提案したの! そしたらアイジがさぁ」


「んな間抜けな奴と、俺達をずっと引っ張ってくれたルカが釣り合うわけがねぇ。そう言ったんだよ」


 ナナミさんが左頬を膨らませながら説明を始めると、アイジがクソみたいに失礼な台詞を吐いた。ことを説明した。

 確かにリーダーであるルカと新米でビビりな僕は全く釣り合わないだろうけど、流石にかなり腹が立った。

 アイジと笹野辺さんは合うよね。チャラチャラしててさどっちも。


 クソか優しいかの違いじゃないかな? 勿論アイジは前者だけど。

 二人の意見を聞き、ルカは「ふむ」と頷いた。

 そして僕に視線を向け、柔らかな微笑みを見せた。こんな顔するんだなぁって、ちょっとドキッとした。


「いい機会だと思うぞ、私も。そこそこ、相性も良いと思って来たところだ」


「へ?」


 ルカは勿体つけず、ストレートに要望を告げた。


「私の相棒(パートナー)になってくれるか? 夢奏。私もそろそろ一人で戦うのが厳しくなってきたところだ。夜耶はまだ戦力外だから、出来ればお前に頼みたい。ダメか?」


「えっと……」


 ルカのパートナーになるってことは、死ぬ時まで恐らく一緒に居るんだろう。だとしても、一番気兼ね無く話せるのもルカだし……。

 ここまで考えたなら、答えは一つに絞れた。

 僕にとってもルカにとっても、有り難いことなんだ。損は無い。


 僕は一度ズボンで手汗を拭い、その手をルカに向けて差し出した。


「よろしく、ルカ。これからも。今度は隣に立って、二人で炎神を倒そうね」


「……ああ、有難う。夢奏、よろしくな!」


 照れ臭そうに手を握られ、こっちまで恥ずかしくなった。

 アイジは舌打ちをしてどっかに歩いてったし、ナナミさんはめちゃくちゃ楽しそうに跳ねてるし、先輩は何故か木殴ってる。

 先輩何してんの怖い。


 これから先、ルカと今度こそ対等になって、炎神を倒すんだ。

 負けない。絶対負けない。全部倒したら太陽が死んじゃうんだけど、その前に何か対策を考える。考えても見つからないなら、がむしゃらにでも突き進むだけだ。



 繋がれた手は家に着くまで解かれることはなくて、その間背後からの殺気が恐ろしかったです。




中々定期的にとはいかないものですな……。時間が、無い。訳じゃないんだけど。

もっと頑張ります。

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