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夢幻の星刻騎士〈スター・ナイト〉  作者: 夢愛
第一章 死して戦う者達
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幼馴染み

 ルカ達の許可を得て、僕は水ノ輪町に帰って来た。

 相変わらずの大雨で、視界は最悪。誰か事故に遭いそうだよ本当。

 僕は事故に遭うこと、無くなったんだけどね。


 冷たさも感じず、地面を踏んでいる感覚も無い。バランスをとるのが結構難しい。

 それでも歩き続け、僕は見慣れたハンバーガーチェーンに足を留めた。

 中には入らないけど、僕と網走先輩の二人が突如バイトに来なくなって、どんな反応をしているのか気になったんだ。


 ほんの少しだけしか覗かなかったけど、店長達も皆元気そうだった。何か安心したよ。

 でも、僕達のこと気にも留めてないってことなのかな。いや、営業中だからだって信じたい。

 踵を返し、一瞬心臓が停止するかと思うくらい驚いた。


「銀杏……? 何でこんなとこに。ハンバーガー欲しいなら入ればいいのにな」


 駐輪場には幼馴染みの銀杏が傘を差して佇んでいた。じっと、店の中をガン見している。

 ハンバーガーチェーン、来たこと無いのかな? どうだろ。それはないかな。

 だとしたら、何でだ?


 僕は、触れられないし視えないのも承知の上で、銀杏の眼の前に移動した。

 虚ろな瞳に見つめられ、かなり悲しい気分に染まる。

 友人に気付かれないって、凄い嫌だね。


「……銀杏、あのさ? 僕は今、死んでるんだ。幽霊騎士(ゴーストナイツ)として、炎神って怪物と戦ってるんだよ」


 まるで自分を無視している様な幼馴染みに、小さな声で現状を知らせる。僕は多分、色々混乱してるのかな。

 だけど、悲しいよ。唯一友達と呼べる銀杏と、言葉を交わせないなんて。笑い合えないなんて。


 幼馴染みの、こんな顔見たくなかった。


 僕が銀杏に手を伸ばそうと動かした途端、銀杏の口が開いた。

 びっくりして思わず赤面する。僕、何で触ろうとしてるんだよ。


「夢奏、お前今何してるんだよ」


「え……」


 不意に名前を呼ばれ、視えているのかと勘違いしそうになった。

 銀杏の視線の先は店内の一点に集中していて、僕なんか見ていない。そこで漸く、銀杏が何の為にここに立っているのか理解した。


 突然姿を消した僕を、探しに来たのかも知れない。

 それは友人としての心配や不安からなのか、行方不明なことに疑問を抱いているのか、どっちか。

 でも、銀杏なら多分前者だ。真っ先に僕の心配をしてくれる様な人間だから。


 俯いた銀杏は、誰でもないずぶ濡れのコンクリートに言葉を吐き続けた。


「急に居なくなんなよ、何なんだよ。行方不明って、誘拐された訳じゃないだろうな。それとも、誰にも知られないどこかで──」


 ──死んだ訳じゃないよな。


 銀杏の振り絞る様な声に、涙が溢れそうになった。

 僕のことを大切に思ってくれている人間が、身近にいたことに感激している。多分。

 どうしても、最後の予想が合ってるなんて言いたくないよね。


 いつか、僕が視えてくれたらなんて淡い希望に縋り付く心。

 まだ弱いんだなぁ、て嘆く。

 その嘆息すら、銀杏には見えない。それが胸を裂く程痛かった。


「銀杏」


 ゆっくりと歩を進めて銀杏の手を、触れられもしない両手で握った。


「絶対守るよ。だから安心してね」


 手を放し、微笑んでからその場を去った。

 銀杏と父さんは絶対に死なせない。ついでに母さんも。

 自分を大切にしてくれた人間への恩は仇で返したくない。炎神が全滅するその瞬間まで、三人を守り続けるよ。

 僕一人じゃ無理だけど、仲間達もいるから。大丈夫。



 僕が幽霊騎士となる十数分前くらいに通った道を辿る。当然、あの浸水していたバス停も見えて来た。

 死ぬ前と同様、小屋の中はベンチまで湿っている。


「こんなバス停いつか無くなるぞ。殆ど毎日雨降ってるのに屋根は木だし、乾く訳ないじゃん」


 呆れて腰に右手をかける。

 ふと、座れるか試してみたくなったから、恐る恐る屈んでみる。

 座れなかった。

 実際だったら尻餅ついて溜まった水に着水しちゃうんだけど、それもない。まあ、実体があれば尻餅すらつかないんだけどね。


 小屋を出てバイトの帰路を進んで行くと、勿論()()()()に着く。

 恐らく僕が死んだ、新築工事が中断中の建物がある路地だ。


 そもそも工事してる人達に質問したいんだけど、雨天工事って成功率高いと思ってんの? 骨組みがまた崩れて僕みたいに死者が出るよ。

 一日で完成不可能なんだから、やめとけばいいのに──じゃあ今まで各家はどう造られたんだろう。


「あ、ここまた緩んでる。誰か気付いて直さなきゃ崩れるぞ。崩れたら大事故にも繋がるよ。夜中は特に」


 まっ暗闇で骨組みが散らばっていて、道路まで飛び出していたら事故は必然。雨中のライトはあまり役に立たないし、街頭すらないんだもん。当然のことだよ。

 それに気づかないのがビックリ。


 この町は雨ばかりなのに、人間達はその対策をしようとしない。

 毎年毎年、小さな子供や老人達は何十人も亡くなってるっていうのに。自分達さえ助かればいいとでも考えてるのかな。

 まずはせめて街頭造りなよ。家じゃなくて。

 家も必要だけど。


 あまり徒歩の人間は見ないけど、車が優れているとも言い切れない。洪水の中タイヤが確実に機能するとは思えないからね。

 それに、水嵩がかなり増えてくると水圧でドアが開かなくなる。その対策として窓を破るってのがあるけど、それも確実じゃない。

 出遅れれば更に沈んでゲームオーバーだ。



 悲しい程の知恵の少なさだけど、それでこれまで長生きした人間は尊敬出来る。本当に凄い。

 その強かさを、この町の人間に分け与えてくれないかな。


 工事現場を暫く進むと、大きなダムが現れる。このダムは排水溝から流れて来た雨水で溜まる。

 プラスチックで造られたドーム状の屋根があるから、降ってる雨じゃ溜まらない。その代わり溢れたりもほぼ無い。

 ダムの水は清潔なものにされ、僕達人間が使用する。

 用済みの水は徐々に海に放出されてまあ、お別れします。



 余談なんだけど、このダムは僕と銀杏の思い出の場所でもあるんだ。


 ──今から九年前程、つまり小学一年生の夏のこと。僕と銀杏はダムの前で出逢った。

 複数人の上級生に暴力を振るわれていた時、銀杏が助けてくれた。暴力で割り込んだ訳じゃなくて、ペットの大型犬をわざわざ連れて来たんだ。

 その時、『この子バカだ!』って印象がついた。


 手を差し伸べてくれて、心を救われた気持ちだったけど、犬が怖かった。

 普通、人助けする為家まで行って犬連れて来る? 家ここからかなり遠い筈だけど。

 まあ、そんな銀杏だったから、いい奴だって直ぐ分かったんだけど。



 夏の終わり頃、僕と銀杏はバス停の小屋で水ノ輪町についてを語り合った。

 今日みたいな大雨で、浸水していたあのバス停だ。


「いつかこの町を雨から守れるようになりたいよなぁ。な? お前も思うだろ夢奏」


 この頃から銀杏は他人の為を想い、そんなことを目標にしていた。今はもう変わってるかもだけど。

 だけど、僕にそんなことを言われたところで、人嫌いな僕は適当に相槌を打った。


「いや僕はどっちだっていいかな。雨が降ってると星が見えなくて悲しいけど、別にどうだっていいや」


「何だよ〜」


 父さんと共に星を見る夢は既に持ってた。筈。それでも人助けには一ミリも興味が湧かなかった。

 僕が幾ら銀杏の夢に賛同しなくても、銀杏は気を悪くした様にならなかった。むしろ常に笑顔で、まあ癒された。


 人に笑顔を振り撒いていられるんだから、大した苦労はしてない様な人間なんだろうなぁなんて、失礼なことまで思ってた。

 適当に流す僕とは違って、銀杏は僕と父さんの夢を決して笑わなかった。応援してくれていたんだ。


「見えないなぁ、星。なぁ、せいざってどんなのがあんだ? 夢奏どのくらい知ってる?」


 父さん特設の小さな展望台で、柵に伏して銀杏は訊いて来た。その日は雨が降っていない珍しい日だった。

 疑問を投げられ、僕は一度眉を曲げた。


「多分、もっともっとあるけど、十個くらいしか分からないなぁ」


 テレビで流星群などの報道が見られるけど、雨で電波も悪いし極々稀なことで知識は少なかった。今はもっと知ってるけど。

 この町には絵本や小説なども入荷されないし、知ることが可能なのはラジオやテレビくらい。かなり少ない情報だ。


「ううん、俺は乙女座なら知ってんだけどなぁ。俺の星座だから! ははっ」


「僕はうお座。三月七日だからね。でも一番好きなのはカシオペア座かな。形がWで好き」


「何で?」


「何となく」


 知ってるアルファベットだから、かも知れない。とにかく好きだったのは覚えてる。

 北極星を探すのに便利なんだっけ? そこの知識はまだ無いなぁ。


 とにかく、この展望台は現在取り壊されてないけど、望遠鏡だけは僕が隠し持ってる。

 だから毎日毎日、曇り空を覗くんだ。父さんの夢を代わりに、ね。

 でも、死んだ今はそれすら不可能なんだよね。雨に濡れないから空は見やすいけど。


「いつかこのダムも、要らなくなりゃ最高なんだけどなぁ」


「は? 無かったら不便じゃん」


「いやでもさ、邪魔じゃね? ここショートカット出来れば家に結構早く着くんだけどなぁ」


「あ、なるほどね」


 直後、銀杏は脚を滑らせてダムの隙間に落ちるんだけど、屋根のお陰で助かったからそれ以降「要らない」って言わなくなったよ。

 今思い出しても、間抜けだなぁってね。笑える。



「あ、銀杏……」


 ダムの前で思い出に笑みを零していたら、そこに銀杏も歩いて来た。

 やっぱ、初めて出逢った場所だから居るかと思ったの? 大正解今ここに居ます。


 銀杏はダムを覗き込むと、微笑した。


「いやぁ、ここで滑り落ちた記憶あるなぁ。落ちた時は焦ったし怖かったけど、今こうして思い出すと笑い話だな」


 全く同じこと振り返ってしかも笑ってるよ。似た者同士なのかな? それともやっぱり印象深いですか?

 端から見たらただのアホだからね。


 でも何か恥ずかしいなぁ。幾ら幼馴染みだからと言っても、行く場所が被り過ぎなのも。

 いや、それ程深く記憶出来てることって凄いよ。有り難いよ。本当に親友って感じするよ。


 だからこそ、尋常じゃない程辛いんだよ。笑えないのが。

 いや僕は笑えるよ。でも、二人では笑えないんだよ。

 誰かに説明してると、隣で銀杏が真剣な表情で呟いた。


「見つけるからな、夢奏。お前一人で何処にも行かせないからな!」


「銀杏…………ん?」


 ちょっと待って、僕に一人では何処にも行かせないって? 何でよ。何で僕が一人で外出するのもダメなの? 何それ。

 僕はじっと銀杏の顔を窺った。

 銀杏はポケットから防水ケースに包まれた携帯電話を取り出した。画面をスライドさせると──


「え、これ何」


「ふう、最後まで隠し撮りはバレなかったけど、よかったわ。でももっと、もっと写真欲しいなぁ。ああ夢奏マジ可愛い」


「……は」


 映し出されたのは画像フォルダで、そこの九割が僕の写真で埋め尽くされていた。

 いつ撮ったのか分からないけど、教室で窓の外に視線を向ける僕の横顔。欠伸をしてる姿。水道で水を飲む姿。背伸びする姿などなど。


 一瞬で血の気が引いた気がしたけど、銀杏が下にスライドしたことで更に凍りついた。おかしいな、寒くはないのに。


 出て来たのは、僕が着替えてる写真。笑ってる写真。寝ている写真。下着姿の写真。もうここからは公表出来ない様な過激な写真ばかり。

 羞恥心と恐怖心と寒気が同時にオーバーヒートして、僕は銀杏をポカポカ殴る。当たらないけど。


 にんまりとして画像を堪能する銀杏が本当に嫌。マジでヤバい。僕をどんな眼で見てるんだよぉぉ……。

 画像削除したい! 幽霊の力でどうにか出来ないかな。お願い消えて! 消えろ!!

 ……消えないよぉ。


「もっと親密になれば卑猥な写真くれたりしねぇかな。更に何か、出来ねぇかな……」


「あげないよ! 何言ってんのお前!? 出来ないよしないよバカじゃないの!? お前ホモだったのかよ!?」


 聞こえないのを分かってても、とにかく怒声を上げる。

 ちょっと、どころじゃなくおかしい幼馴染みに涙目で激昂する。無駄なんだけど。


「さてと、夢奏が帰って来たらのために準備でもしておくか」


「何も、準備することなんてないだろっ」


「パーティの準備だ」


「……っ!」


 嬉しい……のと、不安な心が入り混じってる。

 不安なのは、それが本当に歓迎のパーティのことなのか、という辺り。不安だよ。


 結局幽霊騎士の世界にゲートから戻り、ルカに「ただいま」と告げた。精一杯の笑顔で。


「死んでるぞ、顔。どうした夢奏」


「あれ? 出てました?」


「ああ。モロバレだ」


「あはは……」


 もう何か、銀杏に会うのが怖くなってきたよ。

幼馴染みのヤバい本性、現れました。


よ、よろしくお願いします。これからも。

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