第385話〜勝利は鰻のように掴みどころがない〜
戦いは準備の段階でほぼ勝敗が確定しているらしい。誰が言ったのかは知らないけど、中々に的を射た言葉だと思う。
ということで、皆が休憩している間に、俺も勝利のための準備だ。この場合の勝利は、戦いじゃなくてツアーの成功だけど。
何を準備するかというと、まずはドラゴンの居場所調査だな。闇雲に登っても、この広い山脈の中で想い人に出会える確率はゼロに等しいだろう。なので、ドラゴンの巣の位置を確認しておかなければならない。
まぁ、大雑把な位置は分かってるんだけどね。いつもそこで高度を下げていく場所があるから、多分その近辺だ。
……鳥の中には、捕食者に見つからないように、わざわざ少し離れたところに降りてから歩いて巣へ戻るやつもいるらしいけど、まさか食物連鎖の頂点にいるドラゴンがそんなことやらないよな? な?
いや、どうせ確認するんだから、そういうトリックを使われても問題ないか。準備するとはそういうことだからな。
もうひとつ考えなきゃいけないことが、巣までの登山ルートの確保だ。
俺は空を飛べるし、うちの女性陣も身体強化があるから、大抵の悪路は踏破できる。
けど、普通の冒険者はそうじゃない。空は飛べないし、体力も常人よりほんの少し高いくらいだ。切り立った崖を命綱無しで登れる人は少ない。
なので、あらかじめ普通の人でも登れるルートを開拓しておかなければならない。観光地じゃないから、登山道なんて無いもんな。
いや、登山道どころか、獣道すらないかもしれない。人跡未踏の、正真正銘の秘境だから。必要であれば、ルートを作り出さなきゃならない。
「というわけだから、ちょっと登ってくるね」
夕食を終えてマッタリしている皆に一声掛けて、今度は山へ向かうことにする。
「お待ち下さいビート様! デイジーさん、お願い致しますわ!」
「……承知。見張っておく」
「ええ。くれぐれもドラゴンを捕まえてこないように気をつけてくださいまし」
ふむ。今回はデイジーが同行者か。というか監視役だな。
うーん。確かに、ドラゴンと接触したら勢いで捕まえてきてしまうかもしれない。
だってドラゴンだよ? ファンタジーの主役級だよ? 捕まえたくなるよね? 捕まえちゃってもしょうがないよね?
でもなぁ。
「いやぁ、さすがにドラゴンは捕まえないと思うよ? あんな大きな生き物、食費も住処も用意するのが大変だろうからね」
この竜哭山脈に棲んでいるドラゴンは、推定全長が百メートルを超える巨体だ。その寝床には、下手をすると日本武道館レベルの広さが必要だろう。東京ドームは必要ないと思う。
その巨体を維持するための餌も大量に必要なはず。肉食だとしたら、一日に大角牛を二頭くらい食べそうだ。
……あれ? 飼えなくもない、かも?
さすがにドルトンでは無理だろうけど、ジョンの拠点の街であればイケそうな気がする。
寝床はジョンに頼んで拠点を拡張してもらえばいいし、餌は朝晩のウーちゃんとの散歩で狩れなくもない。ドラゴン自体の散歩は、勝手に飛んで行くだろうしな。
ドラゴンは賢いって言うから、拠点の人を襲わないようにだけ躾けておけば、意外となんとかなりそう?
「……ダメ」
「あ、はい」
やっぱりダメらしい。残念。
◇
「あー、これはちょっと良くないかも?」
巣はすぐに見つかった。山の中腹にあるデッカイ洞窟の奥だ。高速道路の六車線トンネルくらいある。
多分ドラゴンが掘ったんだろう。自然にできるような大きさじゃない。
いや、大きさはどうでもいいんだよ。問題は洞窟の位置だ。
「……山越えは厳しい」
「だよねぇ」
そう、この洞窟、山脈の南斜面にあるんだよ。標高二千メートルくらいのところ。
キャンプ地からは、直線距離で二十キロ、高低差千五百メートルくらい? 距離的にはそう遠くないんだけどな。
しかも、結構険しい断崖絶壁の真ん中にある。上も下も百メートルくらい。これをフリークライミングするのは、うちの女性陣でも厳しそうだ。今も、俺の平面に乗って飛んでるから来れている。
これ、飛ばなきゃ辿り着けなくない? 俺じゃなきゃ無理くない?
山の反対側からトンネルを掘るのも、今からじゃ時間的に難しいし。
うーん……どうしよう? やっぱ捕まえるしか?
「……ダメ」
ですよねー。








