第379話〜ブートキャンプ再び〜
「ということで今日から三ヶ月、私たちが君たちを指導することになりました! ビシビシいきますから、しっかりついてきてください!」
三月半ばの冒険者学校の教室の一室。
ムキッとダブルバイセップスでマシューが言うと、両隣に控えたオルフェンとガインも同じポーズをとる。三人とも、見事な笑顔、そして上腕二頭筋と三角筋だ。
というか、なんで三人とも黒いビキニパンツオンリーなんだよ? 寒くないの? 黒い三連◯なの?
インパクト十分の三人に、受講生一同は目を丸くしている。掴みはオッケーみたいだけどさ、それ、芸人の理論だから。
「暑苦しいですわ」
「なんや、この部屋だけ気温高ない?」
「……息苦しい」
教室の後ろの端に立って見ている俺たちだけど、女性陣からの評価はイマイチ。ちょっとキャラが濃すぎたらしい。
今回の事件は、外部冒険者の実力不足が原因だ。ドルトン近辺で活動できるだけの基礎的な力が足りていないのが問題。
であれば、実力を上げてやればいい。簡単な話だ。
そして、うちの騎士団にはその手本になる連中がいる。土下座ブラザーズ改め、筋肉ブラザーズの三人だ。
マシュー、オルフェン、ガインの三人も、元は貧弱くんだった。それを俺が肉体改造して(更にジャスミン姉ちゃんが魔改造して)ゴリマッチョに仕立て上げた。仕立て上げられた。
お陰であっという間に中級冒険者になり、今ではドルトン騎士団の騎士見習いになっている。勤務態度は真面目だし、そろそろ正騎士に取り立ててもいいかもしれない。
そんなブートキャンプ体験者というか被検体? だから、今回の『冒険者強化計画』の教官役に抜擢されたわけだ。今はジャスミン姉ちゃんが外出を控えてるから、魔改造されることはないはず。多分。
このブートキャンプは、冒険者学校で以前から行っている一般冒険者向け講習の一環として開催している。特別編ってことだな。
講習期間は三ヶ月で、費用は受講後に分割払い可。その間の食事や宿泊費用込みで金貨二枚、約二十万円くらい。受講者が二十人以上であれば、講師代なんかの必要経費を引いて、ギリギリ赤字にならない計算だ。勉強させてもらってます。
ちなみに、途中解約しても返金はされない。この世界にクーリングオフはない。
悪どい? いえいえ、非常に良心的ですよ。ええ。定員を超えた分は丸儲けなだけで。今回は二十五人集まったから、五人分、金貨十枚が純利益だ。ぐふふ。
「おっ、久しぶりに坊っちゃんが悪い笑顔してるぜ?」
「うみゃ。黒ネズミだみゃ」
「あらあら、楽しそうね。うふふ」
おっと、喜びが表に出てしまった。子供は顔に出やすくていけない。
「実力向上への近道は筋肉です! 荷重運動をして筋肉を鍛えましょう!」
喋りながら、滑らかにアブドミナルアンドサイへポーズを変えるマシュー。それに追従するオルフェンとガインのふたり。いちいち腕を大きく振りかぶるのはナニユエ?
「特に足腰と体幹の筋肉です! ここを鍛えれば構えが安定し、ブレることなく武器を振るえます!」
腹筋と大腿筋に力を込めたり緩めたりしてアピールしている。腿と腹筋のカットが深い。
剃ったのか、それとも栄養を筋肉に取られて生えなくなったのかは分からないけど、すね毛は生えていない。ツルツルだ。
ついでに全身テカテカだ。オイルは競技会じゃ禁止だよ?
「次は背中です! ここの筋肉を増やすと、攻撃の威力が上がると同時に攻撃の回転も上がります! 鍛えてお得な筋肉です!」
ポーズをラットスプレッドに変えながらマシューが言う。他のふたりは後ろを向いてバックラットスプレッドだ。背中に平家蟹の怨霊が取り憑いている。壇ノ浦産かな?
「そして食事です! 芋やパンは控えめに、肉や魚、野菜を多く摂りましょう! 特に筋肉を作る肉と魚! これで貴方も中級冒険者になれる、かも!」
最後に三人でサイドチェストのポーズをとる。『かも!』の後に見せた笑顔が暑苦しい。
言ってることは間違いないんだけどなー。どうにも笑顔が胡散臭い。
「さぁ、では早速訓練開始です! 皆さん、屋内訓練場へ移動してください!」
まぁ、ひとまず任せてみるか。結果は三ヶ月後に分かるだろう。
◇
さて、肉体改造だけで強くなれるのなら世話はない。ボディビルダーがスーパーヘヴィ級のタイトルを総なめだ。
でも現実はそんなに甘くない。そんな都合のいい話は転がっていない。やはり専門の戦闘訓練は必要だ。
筋肉は毎日鍛えれば良いというものではない。鍛えたら一〜二日休ませたほうがいい。
なので今回のブートキャンプでは一日毎に、筋トレ、座学、実戦、完全休養日というカリキュラムを繰り返すことにしている。
今日はその実践トレーニングの日だ。
「うおぉおぉっ!」
「一匹抜けた、任せた!」
冒険者たちがホブゴブリンの群れと大乱闘中だ。ブラザーズがスマッシュしてる。筋肉ブラザーズのことではない。
場所は大森林の浅いところ。引率は俺とウーちゃんだ。
訓練に丁度良さそうなホブゴブリンの集落を見つけたから、全員の腕前を確認するために襲撃してもらった。っていうか、無理矢理襲わせた。ごめんねホブゴブリン共。
へぇ。即席パーティーだろうに、意外と連携がとれてるな。前衛の隙間を抜けた一匹を、弓から短剣に持ち替えたふたりの冒険者が牽制して足止めしている。
「すまん、待たせた!」
「グギャアァッ!?」
そこへ、対峙していた一匹を始末した前衛のひとりが背後から斬りつけた。いい連携だ。
けど……
「後ろっ!」
「なっ、くぅっ!!」
前衛がひとり抜けた穴を突いて、ホブゴブリンがその前衛の後ろから襲いかかった。即席パーティー故の粗が出たな。これは避けられない。
ガンッ!!
「くぅっ! ……うん?」
「ダメダメ、全体の状況を把握してから次の行動に移らないと。まだ前に敵が残ってるのに穴を空けたら駄目だよ? はい、仕切り直しね。構えて」
「は、はい!」
ホブゴブリンが見えない壁に棍棒を叩きつけている。俺が【平面魔法】で作った壁だ。ガンガン叩いてるけど、その程度じゃ壊れない。
今回の俺はサポートだ。最後方に下がって、危なそうなところをフォローする役割。普段はクリステラがやってくれているポジションだな。
俺は普段は最前線で戦ってるから、こういう役割は新鮮だ。全体を俯瞰しなきゃいけないし、意外と忙しいもんなんだな。クリステラの優秀さを再確認だ。
前衛の人が構え直したのを確認してから壁を解除する。自由になったホブゴブリンは、急に壁がなくなってタタラを踏む。
その隙を逃さず前衛の人が斬りつけ、あっさり始末する。このあたりはちゃんと経験を積んだ冒険者だな。躊躇いがない。
やがて全てのホブゴブリンが討伐され、濃い血臭とホブゴブリンの死骸、そして荒い息の冒険者たちだけが残された。
たった二十七匹のホブゴブリンの集落襲撃なのに、かなり消耗している。確かに、こちらは俺を抜いて二十五人だから、人数的には多少不利だったけど……。
あ、いや、そうじゃない。俺や周囲の人たちには簡単なことでも、普通の人には難しいことだってある。それを忘れたら駄目だ。多分、この人たちが普通。
「うーん、多少危ない場面もあったけど、そこそこ出来てたんじゃないかな? まぁまぁだね」
「「「あ、ありがとうございます!」」」
手放しで褒められる出来ではなかったけど、少しは持ち上げておかないとね。モチベーションが落ちちゃうからね。
まだ実力的には同数以下じゃないと厳しいかな? でもちょっと厳しいくらいじゃないと訓練にならないしなぁ。
「さて、それじゃ手早く魔石を取り出してね。それが終わったら、次は猪人の集落を探して襲撃するよ」
「うえぇ〜、ちょっと休ませてほしいよなぁ〜」
「マジそれ。教官厳しすぎぃ〜」
文句は甘んじて受けよう。これは愛の鞭だ。
大丈夫、ちゃんと飴も用意してあるから。
「この実戦訓練で稼いだ魔石や素材の売上は、訓練終了後に分配されるからねー。頑張って稼いでねー」
「「「はい、教官!」」」
うむ、現金だな。でも冒険者はそのくらいでいい。








