第377話〜久しぶりの街歩き、からのテンプレ?〜
魔導ケータイはこれでよし。あとは任せたよ主任。
そのままの機能を再現できなくても、最低限送信と受信ができればいい。ようはトランシーバーだな。
ある程度小型化できていれば、それぞれの機器は別体でもいい。送信機と受信機が一体である必要はない。一体になっていれば若干運用が楽になるだろうけど、そこまで重要なポイントじゃない。
そういう点を主任に言い含めて、いつもの丸投げをしておいた。あとはなんとかしてくれるだろう。
これからしばらくは待ちの時間だ。自分で何もできないのは焦れったいけど、今は待つしかない。
「はぁ。すぐに戦争を終わらせられる手段(実力行使)があるのに、それを使えないっていうのは鬱憤が溜まるなぁ」
「仕方がありませんわ。十年二十年、百年先のことまで考えて動いているビート様は立派だと思いますわ」
俺のボヤキに、クリステラがフォローをいれてくれる。基本イエスマン(ウーマン)だから俺の行動は常に全肯定だけど、心が疲れているときにはありがたい。溺れないように気をつけよう。
けど、今日はいつもより若干機嫌がいいような気がするな? いや、いつも笑顔か澄まし顔であることが多いんだけど、今日は笑顔の割合が多い気がする。
……ああ、俺が魔導ケータイを主任に渡したからか。
全四台ある魔導ケータイは、俺、クリステラ、ボーダーセッツのオーガスタ、大森林の拠点のアーニャパパが持っている。いや、いた。そのうちの俺の分を、今回主任に提供しちゃったからな。
ということは、俺が各地と連絡を取ろうと思ったらクリステラに頼むしかないわけだ。
クリステラから取り上げて俺が使う、あるいはクリステラの分を主任に渡すということもできたんだけど、それをするとクリステラが泣くかもしれないからなぁ。泣かれるのは辛い。
ということは、今の俺には連絡手段がないわけで、クリステラに頼るしかないわけだ。
そして、緊急事態はいつ起きるかわからない。つまり、いざというときのためにクリステラは、公然と四六時中、俺と一緒に居られるってことだな。
だから笑顔比率が上がっているのだと思われる。愛が濃い。重くはない。もう慣れた。
なにはともあれ、指示を出したから、しばらく俺の仕事はない。いや、仕事は山のようにあるんだけど、この件についてはしばらく待ちだ。
……うーん、もう一手打っておくか?
トランシーバー的な物が出来たら、ハンググライダー的な物と組み合わせて航空偵察もアリだよな。風の魔道具と組み合わせて魔導グライダーにしてしまうのもアリ?
いやいや、それを作ってしまうと俺の手柄が大きくなってしまうな。それでは本末転倒だ。
よし、戦争に関してはここまで! もう手は出さない! そうしよう!
それじゃ、通常業務に戻りますかね。
まずは冒険者ギルドかな? 最近顔を出してないしな。支配人として、それは良くない。
まぁ、現場に顔を出しすぎるトップというのも困りものだけど。上司や幹部層が対応に追われて業務が止まっちゃうんだよな。
プロデューサー、早くその議案承認してください! 社長との懇親会の予約はどうでもいいんで! キャバクラは経費で落ちないんで!
ということで、研究所を出て冒険者ギルド新庁舎へと向かう。
冒険者ギルドは、以前は旧市街の中央部近くにあったんだけど、今は新市街の東端近くに移転している。
なんでかって言うと、俺が街を東方向に大拡張しちゃったからだ。増え続ける人口とそれを支える農地や工房用の土地を確保するには、そうするしかなかった。
となると、相対的に街の西寄りになってしまった旧冒険者ギルドでは立地がよろしくない。冒険者の主な活動場所である、街の東に広がる暗闇の森から遠すぎる。
ということで、冒険者ギルドを街の東に移転させたわけだ。
ちなみに、研究所は新市街の南東端付近にある。付近には住宅も何も無い。空き地だけだ。市街じゃねぇな。
万が一事故が起きた際、被害が周囲に及ばないようにという配慮なんだけど……主任は過去に爆発事件を起こした前科があるからなぁ。念の為に隔壁も作っておくか?
新市街の路上を平面に乗って移動する。
件の理由から南東エリアは建物が少ないんだけど、新冒険者ギルドに近づくにしたがって徐々に建物の密度が上がっていく。冒険者向けの商店や飲食店、宿泊施設なんかだな。屋台もそれなりに出ている。
「あー、これはちょっと良くないな」
「せやなぁ。通行の邪魔になる商売の仕方はあかんなぁ」
ゆっくり速度を落としてから、平面を解除して歩道に降りる。
新市街は道を広く取っていて、馬車用の車道と歩道に分けてあるんだけど……歩道が屋台で埋まってる。テーブルやベンチで通れなくなっていて、仕方なく人が車道を歩いている。
うーん、この辺は素材運搬の馬車もよく通るし、事故が起きたら大変だ。歩道を塞がないように屋台を制限するお触れを出そう。
撤去までは求めない。この猥雑さが冒険者っぽいからな。
「みゃ? 何かいい匂いがするみゃ」
「ん? ああ、あれじゃね?」
アーニャが何かを嗅ぎつけて、その匂いの出処をサマンサが指摘する。屋台の前に数人が購入待ちで並んでいる。ここは歩道を塞いでないな。感心感心。
見た感じ、売っているものは串焼きっぽいけど……この匂いはアレか? よし、俺も並ぼう。
「へいらっしゃい!」
「お兄さん、その串焼きいい匂いだね。十本貰える?」
お兄さんというには歳を食ってるけどな。四十歳くらい? でも、関西人が年上の男性を呼ぶときは、だいたい兄さんだ。だからお兄さんでヨシ。
「あいよ、十本だね! こいつは美味いよー、最近出回りはじめた『味噌』って調味料を使ってんだ! オーク肉と合うんだコレが!」
やっぱりか。それ、うちの商会で作ってるものです。ご利用ありがとうございます。
まだ生産量がそれほどじゃないから流通はドルトンとその近郊だけだけど、受けは悪くないみたいだな。
「へいお待ち! 熱いから口の中、火傷しないようにな!」
一本銀貨一枚、大体千円くらいか。オーク肉の串焼きとしては高価だけど、流通の少ない味噌を使っているなら妥当か?
十本分、大銀貨一枚を支払って串焼きを受け取り、皆に一本ずつ渡す。十本というのは、俺、クリステラ、ジャスミン姉ちゃん、キッカ、ルカ、サマンサ、アーニャ、デイジーの八人と、ジャスミン姉ちゃんの護衛として付いてきている紅薔薇騎士団のサっちゃんとヨっちゃんの分だ。
紅薔薇騎士団は現在五名。全員が学園卒業生で、爵位はバラバラだけど皆、貴族令嬢だ。
『王家の女性の護衛として、実際に戦闘力のある女性のみの騎士団を作る』。その実験として設立されたのが紅薔薇騎士団で、なにげに王家の肝煎りだったりする。
学園卒業生の貴族令嬢のみなのは、王家の護衛であればそれなりの教養と礼儀が求められるから。貴族なら教養と礼儀は叩き込まれているはずだからな。ただしジャスミン姉ちゃんを除く。
「うん、美味しいね。ちゃんと砂糖も入ってる」
単に味噌を塗って焼いただけかと思ったら、ちゃんと砂糖入りで甘みがある。ちょっとピリッとした辛味があるから、唐辛子も入ってるんだと思う。
「あらあら、なかなかのお味ですね。でももう一味欲しいような……何か足りない気がします」
「あー、多分生姜かな? すり下ろして少量入れると味が引き締まるよね」
「……そう、それ」
豚肉と生姜は相性がいい。味にインパクトが出る。豚汁もトンテキも、生姜があるとないとでは雲泥の差だ。大蒜もいいな。
「おー、それ良さそうだな! よし、早速次からはそれでタレを作ってみるか!」
「うん、がんばってね!」
この串焼きはドルトンの名物になるかもしれない。良いことだ。
串焼きのお兄さんを激励したあと冒険者ギルドへ向かおうとすると……通りをこちらへ向かってきた冒険者らしき一団とぶつかりそうに……ぶつからなかった。
いや、あからさまに故意にぶつかってこようとしてたんだけど、うちのメンバーがそんなヘマをするはずがない。全員がきれいに避けた。
その一団はヨロヨロとタタラを踏んで、挙げ句、仲間同士(?)でぶつかって倒れていた。何がしたいのやら。
「くっ、おうおう! 俺達にぶつかっといて詫びも無しかよ!」
一団のリーダーらしき男が俺に向かって声を上げる。
いや、ぶつかってないですけどね? 全員避けましたけどね?
……ああ。俺、絡まれてるのか。久しぶりだな、こういうの。








