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対話への道

風は乾いていた。

だがその奥に、かすかな血の匂いが混じっている気がした。

エルザは一人、荒野を歩いていた。

BLACKWOLFとの対話を終えたあと、胸の奥に残ったものは、納得でも確信でもなかった。

ただ、消えない違和感だった。

(……このままでは、終わらない)

だから彼女は向かっていた。

次に会うべき相手のもとへ。

岩陰に、気配があった。

「出てこい」

エルザが言う。

間を置いて、三人の男が姿を現した。

その中央に立つのは、見慣れた顔。

パトリック・オコンネル。

「……やっと見つけた」

軽口のように言うが、その目は真剣だった。

「探してたんだぞ。勝手に消えるな」

「私も探していました。」

エルザは淡々と返す。

「おっと…ついに…(笑)」

「まあな。こっちは仕事だしな」

部下たちは周囲を警戒している。

だがパトリックは一歩前に出た。

「で? 何の用だ」

エルザはまっすぐに彼を見る。

「BLACKWOLFと会った」

空気が変わる。

部下の一人が思わず動いたが、パトリックが手で制した。

「……本当か?」

「ほんとうよ」

「で、何を話した」

「いろいろ…」

パトリックは目を細める。

「で?」

エルザは一歩近づいた。

「彼には話し合いを勧めた…」

沈黙。

風の音だけが通り抜ける。

「話し合い?……誰と誰が?」

パトリックの声は低い。

「あなたとよ」

一瞬、理解が遅れる。

そして――

「は?」

素っ頓狂な声が出た。

部下たちも顔を見合わせる。

「ちょっと待て(笑)」

パトリックは額に手を当てた。

「なんで俺なんだ」

「あなたが一番いいと思ったから…」

即答。

「いやいやいや、待て待て」

パトリックは首を振る。

「俺は少尉だぞ? ただの現場指揮官だ。外交とか交渉とか、そういう立場じゃない」

エルザは静かに言う。

「神のご意思ね」

その言葉に、パトリックは眉をひそめた。

「……それ、本気で言ってるのか」

エルザは答えない。

ただ見つめるだけだ。

(違う)

彼女自身はわかっている。

これは神の意思ではない。

ただ――

(この男なら)

そう思っただけだ。

理屈も証拠もない。

ただの勘。

だが、エルザにとってそれは、神託に等しかった。

パトリックはしばらく黙っていた。

やがて、大きく息を吐く。

「……わかった」

部下たちが驚く。

「少尉!?」

「行くだけだ」

パトリックは軽く手を振る。

「話ができるなら、それに越したことはない」

そしてエルザを見る。

「責任は取らないぞ」

「いいわ」

「だろうな」

苦笑する。

「……案内しろ」

こうして、奇妙な同行が始まった。

道中、空気は重かった。

エルザは前を歩き、パトリックとその部下たちが続く。

会話はほとんどない。

ただ一つ、確かなのは――

互いに完全には信用していない、ということだった。

途中、小さな街に立ち寄った。

補給と情報収集のためだ。

だが、街の様子はどこかおかしかった。

ざわめき。

焦り。

そして、恐怖。

酒場の中で、声が上がる。

「やられたらしい……」

「またか……」

「今度はどこだ」

エルザとパトリックは視線を交わし、男に近づく。

「何があった」

パトリックが問う。

男は警戒したが、その服装と態度で軍人だと察した。

「……村だよ。ここから半日の距離にある開拓村が……」

喉を鳴らす。

「襲われた」

空気が凍る。

「誰にだ」

「PNだ……武装した連中だ」

エルザの目が揺れる。

「……規模は」

「わからねえ……でも、生き残りはほとんどいないって話だ」

沈黙。

パトリックが言う。

「場所を教えろ」

村は、近かった。

そして――

遅すぎた。

焼け焦げた匂いが、遠くからでもわかる。

黒く炭化した家屋。

崩れた柵。

転がる遺体。

風が吹くたびに、灰が舞い上がる。

エルザは足を止めた。

その光景を、ただ見つめる。

(……またか)

胸の奥が冷えていく。

パトリックは周囲を確認する。

「生存者は……いないな」

部下が小さく頷く。

エルザは静かに言った。

「これは……BLACKWOLFじゃないわ」

パトリックが振り向く。

「断言できるのか」

「彼は村は襲わない」

エルザの声は低い。

パトリックはしばらく考える。

そして――

「……とりあえず、信じる」

短く言った。

「少なくとも、ここまでやる理由はないな」

エルザは遺体のそばに膝をつく。

手をかざす。

祈りを捧げ。

今は――時間がない。

「急ぎましょう」

立ち上がる。

「彼に会わないととにかく…」

パトリックは頷いた。

「ああ」

焼けた村を背に、彼らは再び歩き出す。

対話のために。

だがその背後では――

確実に、何かが壊れ続けていた。

風が吹く。

灰が舞い上がる。

それはまるで、この地に広がり始めた混乱そのもののようだった。

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