表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/50

不思議な組み合わせ

列車の残骸が黒く焦げていた。

煙の匂いはまだ消えていない。

乾いた草原に、白い布がいくつも並んでいる。

その下には、撃たれて倒れた部族の人々が眠っていた。

エルザは一人、その前に立っていた。

風が弱く吹く。

彼女は静かに両手を合わせた。

小さく呪文を唱える。

大地へ。

風へ。

空へ。

「……万物へ還れ」

声は低く、穏やかだった。

それは魂をこの世界に戻すための儀式だった。

怒りや恐怖に縛られた魂が、悪霊になるのを防ぐための祈り。

やがて風が少し強くなった。

草が揺れる。

エルザには感じられた。

魂が静かに解けていく。

儀式は終わった。

そのときだった。

エルザの耳が、遠くの音を拾う。

馬の蹄。

人の気配。

彼女の目が鋭くなる。

すぐに地面へ伏せた。

ライフルを構える。

視線の先。

丘の向こうから三人の男が歩いてくる。

エルザはすぐにわかった。

(……パトリック)

男は遠くで手を振っていた。

そして大声で叫ぶ。

「エルザ!」

妙に明るい声だった。

「久しぶりだな!」

エルザは答えない。

照準をわずかに下げる。

だが撃たない。

パトリックは構わず近づいてくる。

その後ろには二人の部下。

彼は陽気な調子で続けた。

「いやあ、こんなところで会うとは思わなかった」

「元気そうじゃないか」

エルザは黙っていた。

風が布を揺らす。

その下の遺体が、静かに形を浮かべる。

パトリックはそれをちらりと見たが、話を続けた。

「で、聞きたいんだが」

軽い調子で言う。

「BLACKWOLFの情報ないか?」

エルザは動かない。

「お前、呪術師なんだろ?」

「何かわからないのか?」

沈黙。

パトリックは肩をすくめる。

「同族とかさ」

「そういうのって何か感じたりするんじゃないのか?」

エルザは答えない。

それは単なる無視ではなかった。

怒り。

悲しみ。

それを押し殺すための沈黙だった。

だがパトリックは気にしない。

「いやまあ、噂は色々聞くんだよ」

「黒い狼だとか、精霊の戦士だとか」

「正直、どこまで本当なのかさっぱりで――」

その瞬間だった。

ヒュッ

何かが飛んだ。

パトリックの足元の地面に突き刺さる。

ナイフだった。

部下たちが一斉に銃を構える。

「動くな!」

だがパトリックは片手を上げた。

「待て」

部下たちを制する。

そしてゆっくりナイフを見る。

地面に深く突き刺さっていた。

彼は顔を上げる。

エルザを見た。

エルザの目は冷たい。

パトリックの表情が変わった。

さっきまでの軽さが消える。

真面目な声で言った。

「……気持ちはわかる」

静かな風が吹く。

パトリックは周囲の白い布を見た。

「俺たちも仲間を失ってる」

後ろの部下たちも黙る。

「こいつらも」

パトリックは親指で部下を示す。

「何人も死んでる」

しばらく沈黙が続いた。

パトリックは続けた。

「だからさ」

「そろそろ争いやめないか?」

部下たちが驚く。

「隊長?」

パトリックは振り返らない。

視線はエルザに向けたままだ。

「協力しよう」

静かに言う。

「俺たちとお前で」

「BLACKWOLFを探す」

エルザは何も言わない。

ゆっくり立ち上がる。

ナイフも拾わない。

背を向けて歩き出す。

草原をまっすぐ。

パトリックはそれを見て笑った。

「行くぞ」

部下たちが困惑する。

「ついていくんですか?」

「当たり前だ」

パトリックは肩をすくめる。

「放っておくと撃たれそうだしな」

そして歩き出す。

エルザの後ろを。

一人の女。

三人の兵士。

奇妙な距離を保ったまま、

その旅が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ