鉄道襲撃
鉄道は草原をまっすぐに切り裂いて進んでいた。
黒い機関車が煙を吐き、重い音を響かせながら進む。
貨車には人々が押し込められていた。
老人。
女。
子供。
強制送還される部族の人々だった。
貨車には馬も積まれていた。騎兵の馬だ。
銃を持った兵士が警戒している。
突然、機関士が汽笛を何度も鳴らす。
兵士達に緊張がはしった。
一斉に辺りを警戒する
双眼鏡を持った士官の手に力が入る
機関士がブレーキを目一杯かける
辺りに金属と金属の軋む音が響く
レールがはがされているのがわかったのだ。
草原の丘の上。
黒い影が動いた。
BLACKWOLFだった。
その周囲にはたくさんの戦士たち。
彼らは静かにうなずき合う。
合図。BLACKWOLFの仲間たちが丘を駆け下りた。
一斉に列車を目指していた
砂煙をあげて彼らは列車に近づいていった
「敵襲!撃て!」
士官の声が響く
次の瞬間、銃声が草原に響いた。
機関車の横の兵士が倒れる。
兵士達が次々と撃つ
その時BLACKWOLF達はすでに列車を囲んでいた。
仲間の何人かが貨車に飛び乗る。
警備の兵士が気づいて応戦する。
強制送還される者達の貨車の扉が開けられる。
「逃げろ!」
誰かが叫ぶ。
次の瞬間、列車から人々が一斉に飛び出した。
子供を抱えた女。
杖をついた老人。
皆、線路から離れていく。
BLACKWOLFたちのいる方向へ走る。
「お前たち!戻れ!戻らなければ犯罪とみなして撃つ!」
指揮官が叫んだ。
指揮官が撃った。
逃げていた人が倒れた。
兵士たちは混乱した。
丸腰のただ逃げている、無力な人々を撃つことに
誰もが躊躇していた
「撃て!撃たんか!何をしている!命令だ!」
叫ぶ士官の顔をただ見つめていた兵士は、やっと銃の狙いを定めた。
銃声が響く。
それでもその銃声は乱れていた
兵士達の戸惑いが銃声に表れていた
それでも弾は人の波の中へ飛び込んだ。
一人が倒れる。
また一人。
子供が地面に崩れる。
女の悲鳴。
草原に血が散った。
「やめろ!」
BLACKWOLFの戦士の一人が叫んだ。
その目が怒りに燃える。
仲間が撃たれた。
女子供が倒れていく。
戦士たちは激昂した。
「うおおおお!」
彼らは叫んで馬からな兵士へ襲いかかった。
銃を捨て、ナイフを握り。
白兵戦だった。
兵士が撃つ。
戦士が飛びかかる。
殴り、斬り、倒れる。
混乱が広がる。
だが――
BLACKWOLFは違った。
彼は怒りに流されない。
冷静に銃を構える。
狙いは兵士だけ。
引き金を引く。
一人倒れる。
また一人。
戦士が倒れそうになると、その兵士を撃ち抜く。
正確で冷たい射撃だった。
辺りを見渡す。
もう十分だ。
BLACKWOLFは口笛を吹いた。
鋭い音が草原を切る。
それが合図だった。
戦士たちはすぐに反応する。
殴り合っていた者も、敵を蹴り飛ばして離れる。
生き残った人々を連れて、草原へ散る。
BLACKWOLFも最後に一度だけ振り返り、静かに去った。
その頃。
遠く離れた丘。
エルザは突然立ち止まった。
胸が締めつけられる。
怒り。
悲しみ。
絶望。
(なに……?)
あまりにも強い感情が流れ込んでくる。
エルザは目を閉じた。
地面に膝をつく。
「空の精霊よ」
手を空に向ける。
「力を貸して」
近くを飛んでいた一羽の鳥。
その目に、意識を重ねる。
視界が変わる。
空から見える。
そして――
エルザは見た。
列車。
銃声。
倒れていく人々。
子供。
泣き叫ぶ女。
怒り狂う戦士たち。
そして――
丘の上に立つ男。
BLACKWOLF。
その目は冷静だった。
怒りの中にあっても、彼だけは沈んでいる。
鳥は大きく旋回した。
そして視界が切れた。
エルザは立ち上がった。
「行かなきゃ」
彼女は走り出した。
夕方。
戦いの跡地には静かな風が吹いていた。
地面には布をかけられた体が並んでいた。
死者だった。
子供。
女。
老人。
エルザはその前に静かに座った。
何も言わない。
ただ手を地面に触れる。
そして儀式を始めた。
小さな石を円に並べる。
草を置く。
火をつける
小さな煙があがる
低い声で祈りを唱える。
「大地よ」
「風よ」
「火よ」
「水よ」
「この魂を返す」
風が少し強くなる。
火の消えた焚き火の灰が舞う。
エルザは目を閉じていた。
静かに。
淡々と。
魂を万物へ返す儀式。
やがて、重かった空気が少し軽くなった。
怒りで濁り始めていた魂が、静かに解けていく。
遠くの丘。
BLACKWOLFはそれを見ていた。
沈黙のまま。
彼は感じていた。
死者の魂が変わっていく。
怒りと怨みで、悪霊になりかけていたものが――
昇華されていく。
BLACKWOLFは静かにつぶやいた。
「黒い月……」
呪術師の言葉。
彼にはわかった。
あの女だ。
鳥の目で見ていた者。
そして今、死者を解放している者。
BLACKWOLFはそれ以上何も言わなかった。
ただ静かにその場を去った。
別の場所。
馬に乗った三人の兵士が近づいていた。
パトリックと部下達だった
その後には荷馬車が離れて付いてきていた
死体を運ぶためだ
彼らは報告を受け死体の検分に来ていた。
パトリックは遠くの光景を見て、突然進むのを止めた。
部下達は、急に止まったパトリックに尋ねた
「何かありましたか?」
「……」
パトリックはそれに答えずに遠くを見つめていた
そこにいる女。
黒い服。
地面に座り、死者の前で儀式をしている。
パトリックの目が細くなる。
(エルザ……?)
間違いなかった。
彼はずっとその姿を見ていた。
部下の一人が言う。
「中尉」
「なんです?あれは?」
パトリックは答えない。
もう一人の兵士が言う。
「あの女、怪しいですね」
「捕まえましょう」
「尋問すれば何かわかる」
パトリックは小さく首を振った。
「やめろ」
兵士は驚く。
「しかし……」
「今はいい…みてみろ…死者を弔ってるんだろ…」
パトリックは短く言った。
「放っておけ…」
兵士たちは不思議そうに顔を見合わせた。
なぜ中尉があの女を見続けているのか。
誰もわからなかった。
さらに遠く。
丘の影。
そこからすべてを見ていた者がいた。
BLACKWOLFだった。
彼はパトリックたちも見ていた。
パトリック達も気づいた。
だが、まさか、それがBLACKWOLFだとは気づいてはいなかったが。
そしてエルザ。
BLACKWOLFは少しだけ目を細めた。
だが何もしない。
静かに背を向けた。
草原の風が吹く。
黒い狼の戦士は、音もなく消えていった。




