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イルマ少尉

イルマとの暮らしが始まった。同じ屋根の下で暮らし、食事をし、ときには笑い合う存在。

イルマもまたこの国では少数民族の出身で、

訛りの残る言葉と、浅く褐色がかった肌を持っていた。

街では視線を浴び、軍の中でも完全には受け入れられてこなかった過去。

エルザは無意識のうちにそれを感じ取っていた。

——この人は、わたしと同じ場所に立っている。

だから安心できた。

ルートヴィヒも休暇の間、城に滞在していた。

毎日昼には庭で剣の素振りをし、夜は執事に嫌な顔をされながら大声で酒を飲み笑う。

時には警備隊長や警備兵とも。


馬の扱いもイルマに教わることになった。

馬番の警備隊長にも教わってきたが仕事があるのでどうしても片手間になっていたのでイルマに任せることになった。

警備隊としてはイルマの存在はありがたかった。

一人でも戦える存在が増えることは一人一人の負担が減る。

城や領地の警備もしなければならない。

その中で伯爵やエルザの警備となるとどうしても無理が出てたからだ。

それに、イルマの武功は警備隊のみんなが知っていた。

ある種の有名人?のような存在ですらあった。

伝説の勇士がやってきたような歓迎たった。


ある晴れた日。

三人は遠乗りに出かけた。

山の緑が広がり、風が草を揺らし、空はどこまでも高い。

エルザは馬の背で笑顔を弾ませていた。

「馬でこんなに遠くまで来たの初めてです!」

「ははは、いいだろ〜エルザもここまで馬で来れれば慣れてもんだなあ(笑)」

ルートヴィヒは手綱を緩めながら、ふと真剣な声になる。

「……エルザ。伯爵のことは、どう思っている?」

突然の問いに、エルザは少し驚いた。

「優しくて、いっぱい教えてくれて……わたしの家族です」

ルートヴィヒは小さく息を吐いた。

「そうか」

少し沈黙してから、ぽつりと言う。

「昔の伯爵はな……魔術の研究のためなら人も道具のように扱う男だった」

エルザの胸がきゅっと縮む。

「失われた魔術を集めるために、危険な場所へ行き、命を落とした者もいる」

イルマの表情も固くなる。

「俺はそれが許せなかった。だから忠告しに来たんだ」

ルートヴィヒはエルザを見る。

「だが、君を見てわかった」

「研究対象なんかじゃない。あれは……本当に娘のように接している」

エルザの目が少し潤む。

「伯爵さまは……変わったんですね」

「ああ。君のおかげだろう」

風が吹き抜け、草原が波のように揺れた。

しばらく進んだところで、ルートヴィヒが笑みを浮かべた。

「せっかくだ。イルマの腕前を見せてやろう」

「え?」

イルマは静かに馬を降りる。

ルートヴィヒが小石を放り投げた瞬間——

一瞬だった。

イルマは腰の銃を抜き、撃つ。

乾いた音。

空中の石が粉々に砕け散った。

続けて投げられた枝、木の実、すべて正確に撃ち抜かれる。

最後はナイフを投げ、遠くの木の幹に深く突き刺さった。

エルザは口を開けたまま動けなかった。


「よし!イルマ!一つ勝負だ!」


「大佐殿、エルザの前です」


「気にするな!さあ、かかってこい!」


馬から降りたルートヴィヒ大尉は上着を放り投げた。

ルートヴィヒ大尉とイルマ少尉は格闘を始めた。


「……すごい……」


イルマは大尉と互角に戦っていた。

ルートヴィヒ大尉がナイフを取り出した。


(あ…)


エルザの眼の前で2人はナイフでの格闘を始めた。

どっちが優勢なのかわからなかった。

そのうちイルマが大尉の首元にナイフを突きつけていた。


「また、負けた!」


大佐は笑いながら降参した。

イルマは照れたように肩をすくめる。


エルザは拳を握りしめた。

「わたしも……イルマみたいになりたい…」


ふと呟いたのに、二人に聞こえてしまっていた。

二人が同時に驚く。

「本気か?」とルートヴィヒ。

「戦いは簡単じゃない」とイルマ。

エルザは強く頷いた。

「弱いままじゃ、守れない。負けるだけです」

ルートヴィヒはしばらく黙り、そして真剣な声で言った。

「いいか、エルザ」

「女だろうと子どもだろうと、強ければ生き残れる…」

「守られる側でいる限り、運命は他人に決められる」

エルザの胸に、その言葉は深く刻まれた。

イルマはゆっくりと膝をつき、視線を合わせる。

「覚悟があるなら……私が教える」

エルザの目が輝いた。

「ほんとうですか!」

「泣いても逃げても許さない」

「それでもやる?」

一瞬も迷わず頷く。

「はい!」

その瞬間、エルザの人生は静かに方向を変え始めていた。

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