魔弾の魔女
その町は風の中にあった。
丘から見下ろす一人の旅人。
乾いた通りに舞い上がる砂塵。
軋む看板。
その旅人は黒ずくめだった。
といっても砂塵で灰色にはなっていたが。
帽子は少し鍔が大きく、まるで鶏の鶏冠を半分に折ったかのような形だった。
マントの下には2丁の銃。
背中にライフル
少し銃身が短いのが目立っていた。
「またやるんだね…」
「ええ…」
「私はおまえが行くなら行くよ…もうおまえだけだからね…力をもってるのは…」
それにはなにも答えなかった。
酒場の扉が音を立てて開いた。
中に入ってきたのはさっきの旅人だった。
近くでみると思いのほか小柄だった。
腰のリボルバーがそのマントから見え隠れする。
背中のライフル
酒場の視線がそこに集まる。
一歩一歩カウンターに近づく。
その歩き方は、酒場全部を見張っているということがわかる熟練のガンマンのそれだった。
「あの帽子…背中のライフル……トゥーハンド…やつだ…」
誰かが、低く呟く。
その名を聞いた瞬間、酒場の空気が凍りついた。
奥のテーブルを囲んでいた者たちが、ゆっくりと手を銃に伸ばす。
それを知ってるのか知らないのか、彼女はカウンターで飲み物を頼む。
テーブルの客、リーダー格らしい男がずっと彼女をみていた。
そのテーブルには、開拓地を荒らし、先住民を狩ってきた連中が揃っていた。
一人また一人酒場から出ていく…
彼女はそれを一瞥すらしなかった。
バーテンは彼女にグラスを出すとさっさと姿を消した。
店には奥のテーブルの何人かと彼女しかのこっていない。
時間が過ぎた。
――カチリ。
その音だけで、何人かが唾を飲む。
「忠告だ」
男が言う。
「この町から出ていけ。今なら――」
男がそういう間に、彼女の口からはなにかが漏れて出てきた。
「大地に眠る全ての悪霊よ…血を喰らえ…我が血と肉…魂を…この全てを捧げる……これをもって力を示せ…大地の怒りを…血の怒りを…」
男にはそんなものはどうでもよかった。
次の瞬間。
男の眉間にナイフがあった。
その瞬間なのか、その前なのか、
銃声が、乾いた雷のように走った。
それは、弾丸でありながら弾丸ではなかった。
酒場の壁には首を切り裂かれて、まるで磔になったような彼らがあった。
血が床を伝って、その下の地面に一滴また一滴と落ちていた。
大地の砂はまるでそれを飲み干すかのようだった。
砂のうえには一滴も残ってはいなかった。
彼女は立ち上がる。
マントの裾が揺れた。
彼女は酒場を出ていく。
一瞬足がもつれた
手すりになんとかつかまり身体を支えていた
息が荒かった
顔はよく見えなかった
だが、それは決していい状態とはいえない顔つきだった
「さて、いくかい…」
「ええ…まだ…」
「そうかい…おまえが最後だからね…私の力も好きにするがいい…おまえが力を使うなら私も本望さ…ここに残していける…あの子らも残していける…そして、奴らに示すことも…だから私はおまえといくのさ…」
それに答えはなかった。
なんとか馬に乗った彼女は、大きな咳をし始めた
それは砂を吸い込みよけいにひどかった
一瞬止まった
そのあとは嘔吐していた
手足が痙攣していた
なんとか水筒のを手に取る
なんとか蓋を開けて一口飲んだ
少し楽になったようだ
水筒をつかんでいた手は指が細かった
外では、夕陽が荒野を赤く染めていた。
外には誰もいない。
しかし、視線は彼女を捉えていた。
彼女はゆっくり街を出ていった。




