第89話「祝宴と報酬」
その夜、エルフの里はお祭り騒ぎとなった。
若木の復活を祝う宴が催され、俺たちは主賓として招かれたのだ。
「うっまー! なにこれ、この果物めちゃくちゃ甘い!」
リリアは出された料理に目を輝かせ、リスのように頬張っている。
「遠慮なく食べてくださいね。私たちの英雄なんですから!」
シルフィも憑き物が落ちたような笑顔で、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
周囲のエルフたちも、最初は遠巻きにしていたが、酒が入るにつれて次々と話しかけてくるようになった。
「いやあ、あの青い薬には驚いたよ!」
「人間、お前たちの技術も捨てたもんじゃないな!」
「今度、俺の家の畑も診てくれないか?」
現金なものだが、悪い気はしない。
俺はノンアルコールの果実水を飲みながら、宴の様子を眺めていた。
「……アレン殿。少々よろしいか」
背後から声をかけられた。
振り返ると、大長老が立っていた。
手には美しい布に包まれた何かを持っている。
「これは、里からの詫びと礼だ。受け取ってほしい」
差し出された布を開くと、中には透き通るような緑色の結晶石が入っていた。
「『風精霊の結晶』だ。この森で長い年月をかけて魔力が結晶化したものでな。人間社会では高値で取引されると聞く」
「……いいんですか? 国宝級のアイテムですよ」
「構わん。貴公が救った若木の命に比べれば安いものだ」
大長老は少しバツが悪そうに咳払いをした。
「それと……あの『ボルドー液』とやら。作り方を教えてはもらえんか? 森には他にも病気の植物があってな……」
「ええ、もちろん。レシピと注意点を書き残しておきますよ」
どうやら頑固な長老も、科学(錬金術)の有用性を認めてくれたらしい。
俺は快く承諾し、結晶を受け取った。
そして宴も終盤。
俺はシルフィに呼ばれ、若木の保管庫へと案内された。
ここからが、錬金術師としての本番だ。
「約束通り、報酬をお渡しします」
シルフィが指差した先には、山のように積まれた枝や葉があった。
昼間の手術で、俺が切り落とした若木の「患部」や「不要な枝」だ。
「本当に、こんなゴミでいいのですか? 病気になっていた部分もありますけど……」
「ゴミだなんてとんでもない!」
俺は興奮を抑えきれずに駆け寄った。
鑑定スキルで確認するまでもない。腐っても世界樹、枯れても神木だ。
「腐食部分は炭化させれば最高級の『神木の炭』になる。これは不純物を吸着する最強のフィルターだ。元気な枝は粉末にして薬剤のベースに使えるし、葉っぱ一枚でもポーションの効能を十倍にする触媒になる」
俺にとっては、ダイヤの原石の山に見える。
これだけの量があれば、今まで作れなかったランクのアイテムが作り放題だ。
「アレンさんの目が怖いです……」
「職業病だから許してくれ」
俺は嬉々としてマジックバッグに素材を放り込んでいく。
すると、シルフィがもう一つ、小さなガラス瓶を差し出した。
「それと、これは私個人の感謝の気持ちです」
瓶の中には、金色のとろりとした液体が入っている。
「『世界樹の雫』です。若木から自然に滲み出た樹液を集めました」
「なっ……!?」
俺は思わず息を呑んだ。
世界樹の樹液。
それは伝説級の万能薬の主原料であり、魔力回復薬としても最高峰の素材だ。
市場に出れば、小瓶一本で城が買えるレベルの代物である。
「こ、これはさすがに貰いすぎじゃ……」
「いいえ! アレン殿がいなければ、若木は枯れて、この雫も二度と採れなくなっていたのですから。どうか受け取ってください」
シルフィの真剣な眼差しに、俺はありがたく受け取ることにした。
風精霊の結晶。
大量の世界樹の枝葉。
そして、世界樹の雫。
今回の遠征の成果は、想定を遥かに超えるものとなった。
「ありがとう、シルフィ様。大切に使わせてもらうよ」
翌朝。
俺たちは里のエルフ総出に見送られ、帰路についた。
行きとは違い、帰り道は足取りも軽い。
マジックバッグはずっしりと重いが、その重みこそが勝利の証だ。
「さあ、帰ったら忙しくなるぞ。新しい錬金術の実験が待っている」
俺は青空の下、新たな創作意欲に胸を躍らせていた。
(エルフの里編 完)
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