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第85話「巫女姫シルフィの賭け」

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地下牢に閉じ込められて数時間が経過した。

石造りの床は冷たく、どこからか水が滴る音が反響している。


「ねえ、アレンさん。そろそろ強行突破しない? シェリーに合図を送れば、この牢屋ごと吹き飛ばしてくれると思うけど」


リリアが鉄格子を揺らしながら、物騒な提案をしてくる。

確かに、あの規格外皇女なら容易いだろう。だが、それではエルフとの全面戦争になってしまう。


「もう少し待とう。……必ず、来るはずだ」


俺は壁にもたれかかり、静かに答えた。


あの広場で、俺の言葉に耳を傾けていた唯一の人物。

彼女が動かないはずがない。


カツ、カツ、カツ……。


予想通り、石段を降りてくる軽い足音が聞こえた。

現れたのは、フードを目深に被った小柄な影。


鉄格子の前でフードを取ると、そこには透き通るような金髪と、不安に揺れる翡翠色の瞳があった。


「……シルフィ様」


「しっ。見張りには眠りの魔法をかけました。……少しだけ、話をさせてください」


巫女姫シルフィは、鉄格子越しに俺を真っ直ぐに見つめた。


「アレン殿。貴方は広場で言いましたね。『木が飢えている』と」


「ええ。事実です」


「……やはり、そうなのですね」


シルフィが苦しげに胸を押さえた。


「私には聞こえるのです。木々の悲鳴が。『お腹が空いた』『苦しい』『水が怖い』と……。長老たちはそれを『魔王の呪詛』だと言いますが、私にはどうしても、もっと切実な『生き物の訴え』に聞こえていました」


彼女の「精霊の声を聞く力」は、植物の状態を直感的に感じ取る才能なのだろう。


俺の「科学」と、彼女の「直感」。

入り口は違うが、辿り着いた答えは同じだった。


「貴方なら、その声を……悲鳴を止めることができますか?」


「できます。必要な材料と、処置をする許可さえあれば」


 俺が即答すると、シルフィは瞳に強い光を宿し、懐から鍵束を取り出した。


「分かりました。……私に、賭けさせてください」


カチャリ、と重い錠前が開けられた。




「なっ……!? シルフィ様、何をなさいますか!」


「その人間を牢から出すなど、正気ですか!?」


深夜の広場。


騒ぎを聞きつけて集まった長老や警備隊が、俺たちを取り囲んでいた。

だが、シルフィは俺たちを背に庇い、一歩も引かなかった。


「大長老様。この者たちに、チャンスを与えてください」


「ならん! 穢れた人間など、即刻処刑すべきだ!」


「では、こうしましょう」


シルフィは凛とした声で宣言した。


「私の管理区画にある『聖なる若木』。……あれは今、世界樹様と同じように黒ずみ、枯れかけています。この人間に、あの若木の治療を任せます」


「な……ッ! 神聖な若木を実験台にする気か!」


「もし治療に失敗し、木が枯れるようなことがあれば」


シルフィは言葉を切り、覚悟を決めたように大長老を見据えた。


「私、シルフィ・エル・ウィンドは、次期族長および巫女姫の座を返上し、この森を出て行きます」


その言葉に、場が凍りついた。


巫女姫の追放。

それはエルフにとって最大級の罰であり、長老たちにとっては権力構造を一変させる爆弾発言だ。


「し、シルフィ様……本気なのですか?」


「ええ。木の悲鳴一つ救えない巫女に、世界樹様を守る資格はありませんから」


大長老の目が細められた。

彼は保守派の筆頭であり、新しい考えを持つシルフィのことを煙たく思っていたはずだ。


もし失敗すれば、邪魔な改革派の旗印を合法的に排除できる。

もし成功すれば……いや、人間ごときに成功するはずがない。


「……良かろう。その賭け、乗った」


大長老はニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。


「期限は三日だ。それまでに若木が蘇らなければ、貴様らの命はないと思え」




解放された俺たちは、シルフィの案内で森の外れにある彼女の庭園へと向かった。

そこには、高さ3メートルほどの若木が植えられていた。


世界樹の枝分けによって生まれた聖なる木。

だが、その葉は茶色く変色し、幹には白いカビがびっしりと付着している。


「……ひどい状態ですね」


「ええ。毎日お水をあげて、祈りを捧げているのに、どんどん弱っていって……」


シルフィが悲しげに木を撫でる。

俺は若木に近寄り、触診した。

樹皮はボロボロだが、まだ芯までは腐っていない。維管束(導管)も生きている。


(これなら、まだ間に合う)


「ありがとう、シルフィ様。あなたの賭け、絶対に勝たせてみせます」


「はい。……信じています、アレン殿」


「さて、そうと決まれば準備だ」


俺はリリアに向き直った。


治療に必要なのは、強力な殺菌剤。

前世で、ブドウ栽培を救った奇跡の農薬――『ボルドー液』だ。


「リリア、ひと仕事頼むぞ。この森にはない『材料』を取りに行く」


「材料?」


「ああ。『銅』と『石灰カルシウム』だ。……近くに鉱山か洞窟はあるか?」


俺の問いに、シルフィが地図を広げた。

指差したのは、森の北側に位置する危険地帯。


「ここ……『古の竜の洞窟』になら、変わった色の石があると言われていますが……」


「上等だ。そこへ行こう」


俺たちは夜明けを待たず、動き出した。

命と地位を賭けた、三日間の「治療戦」の始まりだ。


(第85話 完)

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