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第80話「卒業、そして次の戦場へ」

あの「更地の決戦」から、一週間が過ぎた。


たった一週間。されど一週間。 王立アカデミーの風景は、劇的に変わってしまった。


かつては廊下の隅を小さくなって歩いていた魔力不足の生徒たちが、今では堂々と胸を張って歩いている。

彼らの手には、俺が徹夜で書き上げた『標準科学戦術教本タクティクス・マニュアル』が握られていた。


「おい、圧縮空気の充填率はチェックしたか?」


「ああ。予備のタンクも点検済みだ」


そんな会話が日常的に聞こえてくる。

「道具の使用」が正式にカリキュラムに組み込まれ、魔法に頼らない戦術論は、全生徒必携のバイブルとなったのだ。


そして、あのFクラスの生徒たちは、「戦術教導隊」として騎士団から直々にスカウトが来るほどの英雄ヒーロー扱いだ。


俺の役目は、終わったのだ。


「……これで、全部かな」


特別講師室。 ガランとした部屋で、俺は最後の荷物をトランクに詰めた。


「本当に、もう行っちゃうの? アレンさん」


特別講師室で荷造りをする俺に、リリアが寂しそうに声をかける。


「ああ。俺の契約期間はここまでだ。それに、彼らはもう俺がいなくても大丈夫だよ」


机の上には、一冊の分厚い色紙(寄せ書き)が置かれている。 『先生ありがとう』『爆発、楽しかったです』『一生の恩師です』 拙い文字で綴られた感謝の言葉たちが、何よりの報酬だった。


コンコン、と控えめだが、力強いノックの音がした。


「どうぞ」


扉が開くと、そこには整列したFクラスの生徒たちが立っていた。 先頭には、ノアとクララ。

その顔つきを見て、俺は思わず微笑んでしまった。 初めて会った時の、怯えた小動物のような姿はどこにもない。


自信と誇りに満ちた、立派な戦士の顔だ。


「先生! ……お別れの挨拶に来ました」


ノアが一歩前へ出る。


「僕たちは、先生に出会えて変われました。魔力がなくても、才能がなくても、戦えるんだって教えてもらいました。……本当に、今までありがとうございました!」


「あんたの授業、まあまあ面白かったわよ。……感謝してるわ、一応ね」


クララが照れくさそうに顔を背ける。 俺は苦笑しながら、ノアの前に歩み寄った。


「ノア。このクラスの『指揮官』は、次はお前だ」


俺は自分の胸ポケットから、愛用していた『万年筆』を抜き取り、彼の胸ポケットに差した。


「知識は、誰かに伝えてこそ意味がある。俺が教えたことを、次の世代に伝えてやってくれ」


ノアは胸元のペンを握りしめ、涙を堪えて大きく頷いた。


「はいっ! ……先生の教え、絶対に忘れません! 僕、立派な錬金術師になります!」


「よし。全員、解散!」


「「「ありがとうございました!!!」」」


全員が背筋を伸ばし、ビシッと敬礼する。 その姿を脳裏に焼き付け、俺はリリアと共に部屋を後にした。




校門を出ると、美しい夕焼けが王都を茜色に染めていた。

街へと続く道には、俺たちが授業の一環で整備したガス灯が、ポツポツと灯り始めている。


「ふぅーっ! お疲れ様、アレンさん!」


リリアが大きく伸びをして、俺の顔を覗き込む。


「すごいね。たった数ヶ月で、学園の伝説になっちゃった」


「伝説は大げさだよ。俺はただ、当たり前の『基準』を教えただけだ」


俺たちは並んで石畳の道を歩き出した。

さて、これで一つの大きな仕事が終わったわけだが。


「次はどこへ行くの? リバーサイドに帰る?」


リリアの問いかけに、俺は懐から分厚い封筒を取り出した。


ダニエルさんから届いたばかりの、『次期案件リスト』だ。


「それがな……。今回の学園での件が広まったせいで、依頼が殺到してるんだよ」


俺は封筒の中身をパラパラとめくった。


「エルフの里からは『世界樹の元気がなくて困っている』という相談。東の帝国からは『最新技術の視察に来てほしい』という招待状。……おっと、こっちは王都の商人組合から『万博を開催したい』なんて話も来てるな」


「うわぁ、引っ張りだこだね! どれも面白そう!」


リリアが目を輝かせてリストを覗き込む。 確かにどれも興味深いが、これまでの激務を考えると、少し慎重に選びたいところだ。


エルフの森で新素材を探すのもいいし、帝国の技術力を見るのも捨てがたい。

あるいは、一度工房に戻ってルーカスたちの顔を見るのもいいかもしれない。


「まあ、焦ることはないさ。まずは宿に戻って、シェリーも交えて作戦会議と行こうか」


「賛成! シェリー、また『お腹すいたー!』って暴れてるかもしれないしね」


「はは、違いない」


俺たちは顔を見合わせて笑った。 背後から、学園の始業チャイムが聞こえてくる。 その音は、この国が新しい時代へと歩み始めた足音のように、俺の耳に心地よく響いた。


さあ、次の行き先はどこになるか。 俺たちの旅は、まだまだ終わりそうにない。


(第80話 完/第6章 完)

6章のここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。 第7章も、アレン・リリア・シェリーの旅を応援していただけると嬉しいです!(ブクマ・評価も励みになります!)

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