第79話「論理(ロジック)の勝利」
「馬鹿な……! ぼ、僕の魔法が通じないだと!?」
レオナルドが呆然と空を見上げる。
そこには、彼の最強魔法『流星群』を弾き返し、まだ白煙を上げて蒸発している「白いドロドロの塊」が散らばっていた。
魔力を使い果たし、肩で息をする彼とは対照的に、防御態勢を解いたFクラスの生徒たちは、誰一人として膝をついていない。
彼らは背中のタンクを下ろし、身軽になると、淡々と次の装備を構えた。
「さあ、こちらの番だ。……反撃開始」
俺が指を鳴らすと、Fクラスが一斉に散開した。
もはや奇策はいらない。
最強の一撃を防がれ、動揺し、統率を失ったAクラスに対し、訓練されたFクラスは淡々と距離を詰め、制圧していくだけだ。
「ひいっ! く、くるな!」
「迎撃しろ! 炎よ……ああっ!?」
Aクラスの生徒が杖を構えるが、それよりも早く、足元に小さな缶が転がってきた。
カッ!!
「うわあぁっ! 目が、目がぁ!!」
「閃光弾。マグネシウムの燃焼光だ。直視すれば数分は視界を奪われるぞ」
俺が解説する間に、目潰しを食らった生徒たちがパニックに陥る。
そこへ、容赦なく追撃が入る。
シュッ! パシュッ!
「ぐえっ!」
「足が……動かない!」
煙幕の向こう側から、正確無比な射撃が飛んでくる。
『圧縮空気銃』によるゴム弾と、『粘着ネット』による拘束だ。
視界を奪われ、どこから撃たれているかも分からない恐怖に、エリートたちの戦意は瞬く間に崩壊していく。
「くそっ、魔法が当たらない!」
「どこだ!? 姿を見せろ卑怯者ぉぉ!!」
闇雲に火球を放つが、Fクラスの生徒たちは『熱源探知ゴーグル(サーモグラフィー)』で相手の位置を把握し、冷静に射線を外して回り込む。
それは熱い「戦闘」ではなかった。
異常発生した害虫を駆除するかのような、冷徹で効率的な「作業」だった。
わずか数分。
フィールドに立っているAクラスの生徒は、レオナルド一人だけとなった。
「はぁ、はぁ……僕が、負ける……? こんな、ゴミみたいな連中に……」
レオナルドが後ずさる。
その前に、煙を割って一人の少年が歩み出た。
ノアだ。
彼は武器を捨て、手ぶらで最強の生徒会長に対峙した。
「……僕たちは、君たちみたいに大きな魔法は使えない。才能もない」
ノアは静かに言った。
その声に、かつての怯えは微塵もない。
「でも、先生が教えてくれた『知恵』がある。……魔法だけが、強さじゃない」
「黙れ……ッ! 黙れ黙れ黙れぇ!!」
プライドを粉々にされたレオナルドが絶叫する。
彼は最後の魔力を絞り出し、掌に炎を生み出した。
「僕は天才だ! 選ばれた人間なんだ! お前たちごときに屈してたま……」
「往生際が悪いわよ、会長さん」
横合いから、クララが赤いボールを投げつけた。
パァァァンッ!!
ボールがレオナルドの足元で破裂し、中から白い粉末――重曹とクエン酸の混合粉末――が爆発的に拡散した。
二酸化炭素の充満によって酸素を奪われた炎は、一瞬にしてシュンとかき消える。
「あ……火が、消え……?」
「『投擲式消火剤』だ。……これでチェックメイトだな」
俺の言葉と同時に、ノアがレオナルドの胸元に人差し指を突きつけた。
「降参してください、会長」
レオナルドは膝から崩れ落ち、震える手で地面を叩いた。
完全なる敗北。
もはや、勝負ありだ。
「しょ、勝者、Fクラス!!」
審判の声が裏返り、闘技場に響き渡った。
一瞬の静寂。
観客たちは、目の前の光景が信じられないといった様子で口を開けていた。
「更地での殲滅戦」という圧倒的不利な状況で、魔法を使えない落ちこぼれが、最強のエリート集団を無傷で完封したのだ。
パチ、パチパチ……。
誰かが拍手を始めた。
それは波紋のように広がり、やがて雷鳴のような喝采へと変わった。
「すげぇ……! なんだあの戦い方は!」
「魔法を科学で破ったぞ!」
「ブラボー! Fクラス!!」
割れんばかりの拍手と歓声。
それは、長年この学園を支配していた「魔法絶対主義」が崩れ去り、知恵と努力が才能を凌駕したことを、誰もが認めた瞬間だった。
「……やりましたね、先生」
フィールドの中央で、ノアたちが俺に向かってVサインを送る。
俺はベンチに座ったまま、満足げに親指を立てて返した。
(第79話 完)
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