第78話「流星群 vs 片栗粉」
そして迎えた、運命の決勝戦。
闘技場は、異様な熱気に包まれていた。
ただし、それは「どちらが勝つか」という期待ではない。「AクラスがどのようにしてFクラスを粉砕するか」という、残酷なショーへの期待だ。
フィールドは、見渡す限りの平原。
隠れる木々もなければ、身を守る岩もない。ただの広大な更地だ。
それは学園側が用意した、Fクラスを確実に葬り去るための処刑場だった。
「Fクラス諸君。君たちの健闘は称えよう。……だが、ここで終わりだ」
対峙するAクラスの陣営。
生徒会長レオナルド・アークライトが、優雅に純白の杖を構えた。
彼の背後には、Aクラスの精鋭魔導師たちが一糸乱れぬ隊列で控えている。彼らはレオナルドへ魔力を供給する「生きた電池」だ。
対するFクラスは、薄汚れた作業服に、背中には奇妙なタンク。
まるで軍隊と清掃員が向き合っているような、滑稽な構図だった。
「開始!!」
審判の無情な合図が響く。
同時だった。レオナルドの口から、長大な詠唱が紡がれる。
「天を焦がす紅蓮の星よ、地を這う愚かな者どもに裁きの鉄槌を! 戦略級広域殲滅魔法――『流星群』!!」
ゴオオオオオオオッ……!!
空が、赤く染まった。
雲が割れ、そこから顔を覗かせたのは、無数の巨大な火球だ。
一つ一つが家一軒を焼き尽くすほどの熱量を持ったそれが、雨のように降り注ぐ構えを見せる。
「うわぁ……あれは死ぬだろ」
「やりすぎだ、レオナルド様!」
観客席から悲鳴が上がる。
遮蔽物のない平原で、これを防ぐ手立てはない。
誰もがFクラスの全滅――あるいは黒焦げの死体を幻視した。
だが。
「――SOP(標準作業手順)パターンC! 作戦名『イージス』展開!!」
轟音の中、ノアの冷静な号令が通った。
Fクラスの全員が、背中のタンクから太いホースを天に向け、一斉にトリガーを引いた。
ブシュウウウウウッ!!
噴き出したのは、大量の「白い液体」だった。
粘り気のあるドロドロとしたそれが、生徒たちの頭上に幕を作る。
「風膜! 広がれぇぇっ!!」
さらにクララが風魔法を操作し、その液体を薄く広げ、Fクラス全体を覆う巨大な「白いドーム」を形成した。
Aクラスの生徒が鼻で笑う。
「はっ! なんだあれは? 牛乳か?」
「あんな水遊びで、僕たちの最強魔法が防げるものか!」
レオナルドが杖を振り下ろした。
「消えろ! 『流星群』着弾!!」
ドガガガガガガガガガッ!!!
無数の火球が、白いドームに直撃した。
観客が目を覆う。水蒸気爆発でFクラスが吹き飛ぶ、そう思った瞬間だ。
ガギィィィィィンッ!!!
響いたのは、水が弾ける音ではなかった。
まるで、巨大な鉄塊が鋼鉄の板に叩きつけられたような、硬質な金属音だった。
「な……ッ!?」
レオナルドの目が点になる。
液体だったはずのドームが、火球の直撃を受けた瞬間だけ、カチカチの「固体」へと変化していたのだ。
火球はドームの表面でぺちゃんこに潰れ、その衝撃を完全に弾き返されていた。
「こ、これは……!?」
観客席にいた理数系の学者が叫んだ。
「液体に強い衝撃が加わると、粒子が噛み合って固体化する現象だ! ……衝撃が強ければ強いほど、あの盾は硬くなるぞ!」
さらに、火球の高熱がドームを焼こうとするが――。
シュウウウウウウ……!
「熱く……ない?」
ドームからは猛烈な蒸気が上がっているが、その下の生徒たちは平然としていた。
「水の沸点は100度。……つまり、水が蒸発している間は、それ以上温度が上がらないってことだ」
俺はベンチで腕を組み、ニヤリと笑った。
物理的衝撃はダイラタンシー効果で弾き、熱エネルギーは気化熱として吸収する。
これこそが、俺が考案した対爆撃防御システム『イージス』だ。
炎の雨が止む。
もうもうと立ち込める水蒸気の中、レオナルドは呆然と立ち尽くしていた。
あれだけの魔力を消費した大魔法が、傷一つつけられなかったのだ。
霧が晴れる。
そこには、白い粉まみれになりながらも、無傷で整列するFクラスの姿があった。
「な……弾かれた……だと……?」
「衝撃吸収率99%、熱変換システム正常稼働! ……被害、ゼロです!」
白いドームの下、ノアが高らかに報告する。
最強の攻撃魔法が、スーパーで買える「片栗粉と水」に完封された瞬間だった。
「さあ、こちらの番だ。……反撃開始」
俺の呟きと同時に、Fクラスの生徒たちがゴーグルを光らせ、動き出した。
(第78話 完)
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