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第76話「魔女狩りとルール改正」

「ふざけるな! あんなのは魔法じゃない! ただの『道具』だ! おもちゃ遊びで神聖な闘技場を汚すなど、言語道断だぞ!!」


Dクラス戦の勝利から数時間後。

王立アカデミーの職員室には、ヒステリックな怒号が響き渡っていた。


革張りの机をバンバンと叩いて抗議しているのは、Aクラスの担任であり、旧体制派の筆頭であるガランド教授だ。


彼は顔を真っ赤にして、まるで親の仇でも見るような目で私――アレン・クロフォードを睨みつけている。


その横には、困り果てたように眉をひそめる学園長と、怯えきった様子の審判員の姿があった。

対して、当事者である私はといえば、優雅に紅茶の香りを楽しんでいた。


「……落ち着いてください、ガランド教授。血圧が上がりますよ?」


「誰のせいだと思っている!貴様、恥を知れ!伝統あるアカデミーの生徒に、あんな……配管工のような真似をさせおって!」


ガランド教授の主張はこうだ。

Fクラスが使った『圧縮空気銃』や『高圧水流機』は、個人の魔力を高める杖やオーブとは異なり、魔法そのものを冒涜する邪道である、と。


いわゆる「魔女狩り」ならぬ「科学狩り」といったところか。


私はカップをソーサーに置き、カチャンという澄んだ音を響かせてから、審判員へと視線を向けた。


「審判。今回の判定について、ルールブック上の解釈はどうなっていますか?」


「は、はい! ……ええと、規定第12条によれば、『自身の魔力を動力源とする補助具の使用はこれを認める』とあります」


審判員はガランド教授の剣幕に震えながらも、手元の資料を読み上げた。


「Fクラスの使用した機材は、確かに奇妙な形状をしていましたが……動力源は間違いなく彼ら自身の微弱な魔力でした。魔石などの外部エネルギーを使用していない以上、規定上は『魔道具』の範疇であり、違反ではありません」


「屁理屈だ! あんな鉄の筒が魔道具なものか!」


なおも食い下がる教授に、私は冷ややかな視線を送った。


「屁理屈ではありませんよ。あれは、魔力が少ない彼らが、どうすれば効率よく魔法を行使できるか……必死に頭を使って『工夫』した結果です」


私は立ち上がり、教授と対峙した。


「魔力という燃料を、ただ垂れ流すのが『伝統』ですか? 少ない燃料を、圧力と機構で何倍もの威力に変換する。……それこそが錬金術の、いえ、『科学』の真髄です。まさか、王立アカデミーともあろう場所が、生徒の『工夫』を否定するのですか?」


「ぐぬぬ……! だが、あんな卑怯な戦い方は騎士道精神に反する! 教育上よろしくない!」


教授たちは言葉に詰まり、精神論へと逃げ込んだ。


要するに、自分たちが手塩にかけて育てたエリートたちが、「落ちこぼれ」の奇策に負けるかもしれないという事実が許せないのだ。彼らのプライドを守るためには、Fクラスをルールで縛るしかない。


重苦しい沈黙が流れる中、それまで黙っていた学園長が重い口を開いた。


「……よかろう。アレン先生の言い分には理がある。道具の使用は認めよう」


「が、学園長!?」


「ただし!」


学園長は強い口調で遮り、壁に貼られたトーナメント表を指差した。


その頂点には、最強の優勝候補――生徒会長レオナルド率いるAクラスの名前がある。


「道具を使うことは認めるが、決勝戦のルールを変更する。……これまでの『フラッグ戦』では、運や小細工の要素が強すぎるからな」


学園長の目が、鋭く私を射抜いた。


そこには、貴族たちからの圧力に屈せざるを得ない苦渋と、ほんの少しの悪意が見えた。


「決勝は『殲滅戦』とする。制限時間は無制限。どちらかが全滅するまで戦い続けてもらう」


「殲滅戦……ですか」


「さらに、フィールドも変更する。これまでの森林エリアではなく――『平原』で行う」


「ッ……!?」


その言葉に、私は思わず眉を動かした。


平原。つまり、身を隠す木々も、岩も、障害物が一切ない「更地」だ。


これでは、Fクラスの勝ち筋である「奇襲」や「狙撃」、そして「煙幕による攪乱」は完全に封じられる。

視界が開けた場所で、圧倒的な火力と射程距離を持つAクラスと撃ち合えばどうなるか。


それは試合ではない。一方的に的(Fクラス)を撃ち抜くだけの、公開処刑場になるだろう。


ガランド教授が、勝ち誇ったように口の端を歪めた。


「どうだアレン先生? まさか『工夫』が得意な君の生徒なら、更地でも戦えるのだろう?」


「……なるほど。あからさまですね」


俺は苦笑した。


彼らは本気でFクラスを潰しに来ている。


「小細工」が通じない状況を作り出し、圧倒的な「力」の差を見せつけて、二度と逆らえないように心を折るつもりだ。


だが――彼らは一つ、勘違いをしている。


私が教えているのは「奇策」だけではない。「物理法則」という、この世界のことわりそのものだ。


私は冷めかけた紅茶を飲み干し、不敵に微笑んでみせた。


「いいでしょう。……その『真っ向勝負』、受けて立ちますよ」


私の目には、すでに勝利への計算式プロセスが見えていた。


(第76話 完)

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