表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/106

第75話「初戦、あるいは一方的なる『鎮圧作業』」

「第一試合! Dクラス 対 Fクラス!!」


実況の声が響き渡ると、闘技場を囲む観客席からパラパラとした乾いた拍手と、遠慮のない失笑が漏れた。


「おい見ろよ、Fクラスのあの格好」


「工事現場のおっさんか? ゴーグルに耳あて、背中には変なタンク……」


「魔法使いの風上にも置けねえな。さっさと終わらせろDクラス!」


対戦相手であるDクラスのリーダー、赤毛の男が杖を突きつけて嘲笑う。


「おい落ちこぼれ! 怪我したくなきゃ開始合図と同時に降参しろよ? 俺たちの『爆炎』はお前らの貧弱な障壁じゃ防げねえからな!」


Dクラスの生徒たちがドッと沸く。


対して、Fクラスの陣営は静まり返っていた。

彼らは一言も発さず、全員が目元のゴーグルを深く装着し、腰に下げたポーチに手をかけている。


フィールド脇のベンチで、俺は懐中時計を見つめていた。


「……先生、みんな緊張してませんか?」


「いや。あれは緊張じゃない。『集中』だ」


俺は時計の蓋をパチンと閉じた。


「作戦通り(マニュアル通り)にやれば、3分で終わる」


審判が手を振り下ろした。


「試合、開始!!」


「いくぞオラァ! 全員で『火球ファイアボール』斉射!」


Dクラスの20人が一斉に詠唱を始め、炎の魔力が練り上げられる。

正面突破。火力によるゴリ押し。実に教科書通りの、そしてあまりに「遅い」戦術だ。


「散開。プランA」


ノアが冷静に指揮を執る。

Fクラスの前衛部隊が、一斉に何かを地面に叩きつけた。


シュゴオオオオオッ!!!


「なっ、なんだ!?」


破裂音と共に、フィールド全体が濃密な白煙に飲み込まれた。

俺特製の『あま~い匂いのする特製煙幕(砂糖ベース)』だ。


「煙!? 卑怯だぞ! どこだ、どこにいる!」


「ええい、構わん! 適当に撃ち込め!」


Dクラスの放った火球が煙の中へ飛んでいくが、狙いが定まっていない攻撃など当たるはずもない。

無駄な爆炎が地面を焦がすだけだ。


視界不良ブラックアウト。……狩りの時間だ」


煙の中、Fクラスの生徒たちだけは、特殊レンズ越しの視界で敵の位置を正確に把握していた。


ヒュンッ、パシュッ!


「ぐあっ!?」


「足が! 誰だ!?」


サラ率いる『狙撃班』が、木陰から圧縮空気銃エアライフルで敵の脚を撃ち抜く。

弾丸は殺傷能力のない硬質ゴム弾だが、急所に入れば悶絶する痛みだ。


「くそっ、防御だ! 『水のウォーター・シールド』!」


Dクラスの生徒が水の膜を展開する。

だが、その背後にエリックが音もなく忍び寄っていた。


「残念。その盾、僕の『カッター』の前じゃ紙切れだよ」


「は?」


ズバァァッ!!


甲高い水流音が響いた瞬間、魔法の盾が「真っ二つ」に斬り裂かれた。

超高圧水流は魔法障壁の構造など無視して、純粋な物理エネルギーで断ち切る。


「ひいっ!? 盾が切れた!?」


「降参! 降参だ!!」


盾を破壊され、喉元にノズルを突きつけられた生徒が悲鳴を上げる。


混乱。恐怖。疑心暗鬼。


Dクラスの指揮系統は完全に崩壊した。

煙の中で次々と仲間が「無力化」されていく恐怖に、彼らはパニックに陥り、同士討ちすら始める始末だ。


そして――。


「確保完了」


煙が晴れ始めた頃。

敵陣の最奥、Dクラスのフラッグの横には、すでにノアが立っていた。

彼の周囲には、気絶したり戦意喪失して座り込んだりしているDクラスの姿があった。


「勝者、Fクラス!! タイム、2分45秒!!」


審判の声が裏返る。

スタジアムは、水を打ったように静まり返っていた。


「……おい、何が起きた?」


「魔法……なのか? 詠唱なんて聞こえなかったぞ」


「Dクラスが、何もできずに負けた……?」


観客たちの困惑をよそに、Fクラスの生徒たちは淡々と整列し、俺の方へ向かって敬礼した。


その顔には、かつての自信なげな表情はない。

あるのは、勝利の味を知った兵士の顔つきだ。


「ミッション・コンプリートですね、先生」


「ああ。少し弾を使いすぎだが、まあ合格点だ」


俺は立ち上がり、呆然としているDクラスの担任教師に肩をすくめて見せた。


「言ったでしょう? 『怪我したくなきゃ降参しろ』と」


その時、貴賓席で観戦していた一人の男子生徒が、身を乗り出しているのが見えた。


Aクラス首席、そして生徒会長のレオナルドだ。

彼の鋭い視線が、俺とノアたちを捉えている。


「……面白い」


最弱のFクラスが起こした番狂わせ(ジャイアント・キリング)。

それは学園全体を巻き込む「革命」の狼煙のろしとなった。


(第75話 完)

【お願い】 「続きが気になる!」と楽しんでいただけましたら、 ブックマーク登録や、ページ下部からの評価(★)をいただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ