第75話「初戦、あるいは一方的なる『鎮圧作業』」
「第一試合! Dクラス 対 Fクラス!!」
実況の声が響き渡ると、闘技場を囲む観客席からパラパラとした乾いた拍手と、遠慮のない失笑が漏れた。
「おい見ろよ、Fクラスのあの格好」
「工事現場のおっさんか? ゴーグルに耳あて、背中には変なタンク……」
「魔法使いの風上にも置けねえな。さっさと終わらせろDクラス!」
対戦相手であるDクラスのリーダー、赤毛の男が杖を突きつけて嘲笑う。
「おい落ちこぼれ! 怪我したくなきゃ開始合図と同時に降参しろよ? 俺たちの『爆炎』はお前らの貧弱な障壁じゃ防げねえからな!」
Dクラスの生徒たちがドッと沸く。
対して、Fクラスの陣営は静まり返っていた。
彼らは一言も発さず、全員が目元のゴーグルを深く装着し、腰に下げたポーチに手をかけている。
フィールド脇のベンチで、俺は懐中時計を見つめていた。
「……先生、みんな緊張してませんか?」
「いや。あれは緊張じゃない。『集中』だ」
俺は時計の蓋をパチンと閉じた。
「作戦通り(マニュアル通り)にやれば、3分で終わる」
審判が手を振り下ろした。
「試合、開始!!」
「いくぞオラァ! 全員で『火球』斉射!」
Dクラスの20人が一斉に詠唱を始め、炎の魔力が練り上げられる。
正面突破。火力によるゴリ押し。実に教科書通りの、そしてあまりに「遅い」戦術だ。
「散開。プランA」
ノアが冷静に指揮を執る。
Fクラスの前衛部隊が、一斉に何かを地面に叩きつけた。
シュゴオオオオオッ!!!
「なっ、なんだ!?」
破裂音と共に、フィールド全体が濃密な白煙に飲み込まれた。
俺特製の『あま~い匂いのする特製煙幕(砂糖ベース)』だ。
「煙!? 卑怯だぞ! どこだ、どこにいる!」
「ええい、構わん! 適当に撃ち込め!」
Dクラスの放った火球が煙の中へ飛んでいくが、狙いが定まっていない攻撃など当たるはずもない。
無駄な爆炎が地面を焦がすだけだ。
「視界不良。……狩りの時間だ」
煙の中、Fクラスの生徒たちだけは、特殊レンズ越しの視界で敵の位置を正確に把握していた。
ヒュンッ、パシュッ!
「ぐあっ!?」
「足が! 誰だ!?」
サラ率いる『狙撃班』が、木陰から圧縮空気銃で敵の脚を撃ち抜く。
弾丸は殺傷能力のない硬質ゴム弾だが、急所に入れば悶絶する痛みだ。
「くそっ、防御だ! 『水の盾』!」
Dクラスの生徒が水の膜を展開する。
だが、その背後にエリックが音もなく忍び寄っていた。
「残念。その盾、僕の『カッター』の前じゃ紙切れだよ」
「は?」
ズバァァッ!!
甲高い水流音が響いた瞬間、魔法の盾が「真っ二つ」に斬り裂かれた。
超高圧水流は魔法障壁の構造など無視して、純粋な物理エネルギーで断ち切る。
「ひいっ!? 盾が切れた!?」
「降参! 降参だ!!」
盾を破壊され、喉元にノズルを突きつけられた生徒が悲鳴を上げる。
混乱。恐怖。疑心暗鬼。
Dクラスの指揮系統は完全に崩壊した。
煙の中で次々と仲間が「無力化」されていく恐怖に、彼らはパニックに陥り、同士討ちすら始める始末だ。
そして――。
「確保完了」
煙が晴れ始めた頃。
敵陣の最奥、Dクラスの旗の横には、すでにノアが立っていた。
彼の周囲には、気絶したり戦意喪失して座り込んだりしているDクラスの姿があった。
「勝者、Fクラス!! タイム、2分45秒!!」
審判の声が裏返る。
スタジアムは、水を打ったように静まり返っていた。
「……おい、何が起きた?」
「魔法……なのか? 詠唱なんて聞こえなかったぞ」
「Dクラスが、何もできずに負けた……?」
観客たちの困惑をよそに、Fクラスの生徒たちは淡々と整列し、俺の方へ向かって敬礼した。
その顔には、かつての自信なげな表情はない。
あるのは、勝利の味を知った兵士の顔つきだ。
「ミッション・コンプリートですね、先生」
「ああ。少し弾を使いすぎだが、まあ合格点だ」
俺は立ち上がり、呆然としているDクラスの担任教師に肩をすくめて見せた。
「言ったでしょう? 『怪我したくなきゃ降参しろ』と」
その時、貴賓席で観戦していた一人の男子生徒が、身を乗り出しているのが見えた。
Aクラス首席、そして生徒会長のレオナルドだ。
彼の鋭い視線が、俺とノアたちを捉えている。
「……面白い」
最弱のFクラスが起こした番狂わせ(ジャイアント・キリング)。
それは学園全体を巻き込む「革命」の狼煙となった。
(第75話 完)
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