第74話「量産型・規格外兵器たち」
放課後のFクラス教室は、異様な熱気に包まれていた。
もはやそこは教室ではない。錬金術で作られた作業台が並び、設計図と金属片が散乱する『兵器工場』と化していた。
「次! エリック、前へ」
白衣の袖をまくった俺が呼ぶと、小柄な男子生徒が恐る恐る前に出た。
「せ、先生……僕の魔法適性は『水』です。でも、コップ一杯分の水しか出せなくて……」
「十分だ。水圧を舐めるなよ」
俺は彼の杖を受け取り、先端に特殊な「極細ノズル」と「加圧タンク」を取り付けた。
「いいか、水は圧縮できない。だからこそ、逃げ場を失った水は凶悪な刃になる。……そこの木の板に向けて撃ってみろ」
「は、はい! 『水流』!」
プシュッ!
気の抜けた音と共に、目にも止まらぬ速さで極細の水流が噴き出した。
それは瞬時に厚さ3センチの木の板を貫通し、背後の壁に小さな穴を穿った。
「えっ……?」
「『高圧洗浄機』仕様だ。射程は短いが、至近距離なら鉄板も切れる。お前は前衛で敵の盾を切り裂く『近接アタッカー』だ」
「す、すげぇ……! 僕の水魔法が、鉄を切る……!?」
エリックが震える手で改造杖を抱きしめる。
「次! サラ!」
「はい! 私は『土』ですが、小石くらいしか作れません……」
「石ころで十分だ。運動エネルギーは『質量×速度の二乗』だ。速度さえ出せば、小石は弾丸になる」
俺は彼女に、二本のレールが走るクロスボウのような装置を渡した。
「電磁加速はまだ魔力コストが高いから、今回は『圧縮空気式』で行く。連射性能重視だ。お前は後方からの『制圧射撃手』になれ」
こうして、俺はクラスメート20人全員の「無能」とされた魔法を、「科学」で再定義していった。
火力が低いなら燃料を足せばいい。
射程が短いならレンズで集光すればいい。
持続時間が短いなら、瞬間火力に特化させればいい。
かつて「落ちこぼれ」と蔑まれた彼らは今、それぞれが一点特化型のスペシャリストへと変貌しつつあった。
全員の装備調整が終わった後、俺は黒板の前に立った。
そこには来週に迫った『クラス対抗戦』のフィールドマップが描かれている。
「いいか、今回の対抗戦のルールは『旗取り合戦』だ」
広大な森林フィールドにある敵陣の旗を奪う。
シンプルだが、魔法戦においては「火力こそ正義」になりがちだ。森を焼き払って進むAクラスやBクラスの戦法が定石とされている。
「正面からぶつかれば、Fクラスの勝率はゼロだ。魔力量の差は装備だけじゃ埋まらない」
生徒たちの表情が曇る。
しかし、俺はニヤリと笑って黒板に大きく書き殴った。
『視界を奪え』
「だが、魔法使いには致命的な弱点がある。彼らは『見えない標的』には魔法を当てられない」
俺はポケットから、実験で作ったボール状の物体を取り出した。
「これは?」
「先生特製、『煙幕弾』だ。砂糖と硝酸カリウム……まあ、特別な火薬を混ぜてある」
俺がピンを抜いて床に転がすと、プシューッと猛烈な勢いで白煙が噴き出し、瞬く間に教室の視界をゼロにした。
「ゲホッ、うわ、何これ!?」
「何も見えない!」
「そうだ。この煙の中では、自慢の遠距離魔法もロックオンできない。だが――」
俺は目元を指差した。
俺たち全員、装備と一緒に配布した『ゴーグル』を装着している。
「俺たちは事前に地形を把握し、連携(無線)を取り、煙の中で一方的に狩る。騎士道精神? 知ったことか。俺たちがやるのは『戦争』だ」
煙の中で、生徒たちの目が怪しく光った。
もはや彼らに、エリートたちへの劣等感はない。あるのは、これから始まる下克上への渇望と、手にした新しい「オモチャ」への興奮だけだ。
「ルール無用のFクラス、見せてやろうぜ」
「「「イエッサー!!」」」
その頃。
学園の理事会室では、教頭が眉をひそめていた。
「理事長、最近Fクラスが騒がしいようですな。地下から何かガラクタを持ち出し、怪しげな実験を繰り返しているとか」
「ほう?」
ギデオン理事長は窓の外、Fクラスの校舎から立ち上る奇妙な白煙を眺めていた。
「対抗戦のエントリーリストを見ましたが……Fクラスの装備欄、意味不明な記述ばかりです。『高圧水流杖』? 『閃光手榴弾』? ……魔法を冒涜しているとしか思えません」
「ふふ、いいじゃないか」
理事長は愉しげに目を細めた。
「伝統にあぐらをかいた生徒たちに、少しばかり『冷や水』をぶっかけるには丁度いい。……もっとも、それが劇薬になるか、ただの自爆になるかは見ものだがね」
嵐の前の静けさ。
Fクラスの「科学化部隊」が、いよいよ表舞台に放たれようとしていた。
(第74話 完)
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