第73話「Fクラス式、魔導回路革命(オーバークロック)」
「……なるほど。この世界の魔法使いが『才能』と呼んでいるものは、科学的に言えばただの『出力』だ」
深夜の実験室。
俺は地下から持ち帰った『黒い手記』と、大量の希少金属を前に、徹夜で作業を続けていた。
目の前には、分解されたノアとクララの杖。
そして、ゴーレムから回収した『古代魔導蓄電池』の欠片がある。
「出力が低いなら、電圧を上げればいい。抵抗を減らせばいい。単純な物理法則だ」
俺はニヤリと笑い、ハンダごて(錬金術で自作)を握り直した。
創立者アルキメデスの理論と、現代科学の知識。
この二つが融合した時、Fクラスの落ちこぼれ(ジャンク)は、最新鋭の兵器へと生まれ変わる。
翌日の放課後。第3演習場。
「せ、先生……本当にこれで魔法が上手くなるんですか?」
ノアが不安そうに自分の杖を見つめている。
見た目はいつもの木の杖だが、その先端には銀色に輝くミスリルのコイルが巻き付けられ、手元には謎のメーターが付いた小さな箱が接続されている。
どう見ても、違法改造された危ない玩具だ。
「安心しろ。名付けて『可変式魔導増幅杖Mk-1』だ」
「名前からして爆発しそう!」
「おいおい、Fクラスの雑魚どもが何をしてるんだ?」
演習場に入ってきたのは、Cクラスの集団だった。
リーダー格の男子生徒が、ノアたちを見て嘲笑う。
「『地下図書館の掃除係』になったんだって? お似合いだな。ゴミ拾いでもしてろよ」
「……くっ」
ノアが唇を噛む。
以前の彼なら俯いて震えていただろう。
だが、昨日の冒険を乗り越えた彼の目には、微かだが反骨の光が宿っていた。
「……僕たちは、ゴミ拾いなんかじゃない」
「あ? 聞こえねーよ。魔法で語ってみろよ、才能ナシが」
Cクラスの男子が、掌から火球を作り出した。
大きさはバスケットボール大。Cクラスにしては悪くない出力だ。
「おいノア、あいつを黙らせてこい」
俺はノアの背中をポンと叩いた。
「えっ? でも、僕の風魔法じゃ、あんな大きな火は消せません……!」
「『今まで通り』ならな。だが、今の杖には俺の調整が入ってる」
俺はノアの耳元で、操作方法を囁いた。
「手元のダイヤルを最大に回せ。そして、イメージするのは『強風』じゃない。『圧縮』だ」
ノアは半信半疑ながらも、杖を構えて前に出た。
「はっ、やる気かよ。黒焦げになっても知らねーぞ! 『火球』!」
放たれた炎がノアに迫る。
ノアは震える指で、杖のダイヤルをガチリと回した。
キィィィィン……!
杖に取り付けたコイルが高周波音を立て、周囲のマナを強制的に吸い上げ始めた。
回路内を駆け巡る魔力が、抵抗値ゼロのミスリル線を通り、加速する。
「い、いけぇぇぇッ!!」
ノアが杖を振るう。
詠唱は最短の『風弾』。本来なら、そよ風程度の初級魔法だ。
しかし。
ズドォォォォン!!
杖の先から放たれたのは、見えない「空気の砲弾」だった。
圧縮された大気は衝撃波となり、迫り来る火球を一瞬で吹き飛ばし――そのままCクラスの男子の足元に着弾した。
「うわぁぁっ!?」
爆風で男子生徒が数メートル吹き飛ぶ。
砂煙が晴れると、地面にはクレーターのような穴が開いていた。
「……え?」
ノア自身が一番驚いて、自分の杖と手を交互に見ている。
Cクラスの連中は腰を抜かし、開いた口が塞がらない。
「な、なんだ今の威力……!? あいつ、魔力なんてほとんど無かったはずじゃ……!?」
「魔力効率(燃費)の問題さ」
俺は白衣のポケットに手を突っ込み、悠然と語りかけた。
「お前らの魔法は、穴の空いたバケツで水を運んでいるようなものだ。大半の魔力が熱や光としてロスしている。だが、この杖は魔力を『超伝導』させることで、ロスを限りなくゼロにした」
俺はノアの肩を抱いた。
「つまり、今のあいつは『少ないガソリンで最高速度を出すF1カー』ってわけだ。無駄遣いしかできないお前らとは、エンジンの設計思想が違うんだよ」
シーンと静まり返る演習場。
生徒たちの視線が、侮蔑から畏怖、そして羨望へと変わっていくのが分かった。
「す、すげぇ……! 先生! 私の杖も改造してください!」
「僕も! 僕のもお願いします!」
Fクラスの生徒たちが俺に殺到する。
ノアは、まだ信じられないという顔で、しかし確かな自信を宿して杖を握りしめていた。
「……よし。全員分、俺が最強にカスタマイズしてやる。ただし――」
俺はニヤリと笑った。
「部品代と技術料は、来月の『クラス対抗戦』の勝利で払ってもらうぞ?」
「「「イエス・サー!!」」」
Fクラスの教室に、初めて本当の意味での「戦意」が満ちた。
科学で武装した最弱職たちの逆襲が、ここから始まる。
(第73話 完)
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