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第71話「魔法は死んだ。科学よ踊れ」

「グルルルル……排除……!」


警備用ゴーレムの巨腕が唸りを上げて振り下ろされた。


ドゴォォォン!!


床の石畳が粉砕され、破片が弾丸のように飛び散る。

ただの錆びついた鉄塊ではない。その質量と運動エネルギーは、どんな魔法障壁よりも凶悪な「物理的暴力」だ。


「うわぁぁっ!?」


「きゃあっ!」


ノアとクララが左右に飛びのく。

二人は反射的に杖を構え、詠唱を口にした。


「『風のウィンド・カッター』!」


「『土のアース・ウォール』!」


だが、何も起きない。


風も吹かず、土壁も隆起しない。

杖の先からプスンと白い煙が出ただけだ。


「そ、そうだった……! ここじゃ魔法が使えないんだ!」


「どうすんのよこれ!? 私たちの身体強化も切れてるのよ!?」


二人の顔に焦りと恐怖が浮かぶ。


これまで彼らは、落ちこぼれとはいえ「魔力」というエネルギーに守られて生きてきた。

それが完全に失われた今、彼らはただの非力な子供に過ぎない。


ゴーレムは機械的な動作で首を回し、無防備なノアに狙いを定めた。


「ターゲット……ロック……」


「ひっ……!」


ノアが腰を抜かす。

錆びた鉄の拳が、彼を圧殺しようと振り上げられる――。


「だから言ったろ? 『観察しろ』って」


ヒュッ、と軽い風切り音。

俺が投げたガラス瓶が、ゴーレムの顔面カメラアイに直撃した。


パリーン!


瓶が砕け、中に入っていた黒っぽい粉末がゴーレムの頭部と肩に降りかかる。


「グ?」


ゴーレムが動きを止め、俺の方を向いた。

俺はポケットから「マグネシウムのリボン」を取り出し、愛用のオイルライターで着火する。


「魔法使いは火の玉を飛ばすが……俺たち錬金術師は『反応』を起こす」


燃え上がるリボンを、俺は粉まみれのゴーレムに向かって放り投げた。


「伏せろ!!」


俺の怒号に反応し、ノアとクララが慌てて床に伏せる。

次の瞬間。


カッッッッッ!!!!!


暗闇の地下図書館に、太陽が生まれたかのような閃光が炸裂した。

直視できないほどの眩い光と、肌を焼くような熱波。


「ギャガガガガガッ!?」


ゴーレムが悲鳴のような駆動音を上げる。


俺がばら撒いたのは『酸化鉄』と『アルミニウム粉末』の混合物。

そこに着火することで発生するのは――


「『テルミット反応』だ。温度はおよそ3000度……鉄だってバターみたいに溶けるぜ」


光が収まった時、そこには無惨な姿のゴーレムが立っていた。


肩から胸部にかけての装甲がドロドロに溶解し、赤熱した鉄が涙のように滴り落ちている。

内部の歯車や配線が焼き切れ、その巨体はガクガクと震えながら膝をついた。


「嘘……鉄が、溶けてる……」


「魔法も使わずに、あんな一瞬で……?」


ノアとクララが呆然と見上げている。


「トドメだ。心臓部コアをもらうぞ」


俺は溶解して穴が開いたゴーレムの胸部に手を突っ込んだ。

分厚い耐熱手袋越しでも熱いが、構わず奥にある動力源を掴み、引きちぎるように取り出した。


ブシュゥゥゥ……。


ゴーレムの赤い瞳から光が消え、その場に崩れ落ちて動かなくなった。

俺の手にあるのは、淡い青色に発光するキューブ状の物体。


「やっぱりな。『古代魔導蓄電池マナ・バッテリー』だ。こいつで動いていたのか」


数百年稼働し続けるバッテリー。現代の技術では再現不可能なオーバーテクノロジーだ。

俺はホクホク顔でそれを鞄にしまった。


「よーし、解体ショー終了! 怪我はないか?」


俺が振り返ると、二人の生徒はまだ腰を抜かしたままだった。


「……先生、やっぱり先生の錬金術、おかしいです」


「あんなの教科書に載ってないよ……」


「載ってないから『研究』なんだろうが」


俺は二人に手を貸して立ち上がらせた。


「いいか、今の現象に魔力は1ミリも使っていない。物質の性質を理解し、組み合わせれば、誰でも再現できる。それが『科学』の平等さであり、恐ろしさだ」


ノアが、溶けたゴーレムの残骸を見つめ、ゴクリと唾を飲み込んだ。


才能の有無に関わらず、知識さえあれば巨人を倒せる力。

その事実は、魔力不足に悩んできた彼にとって、どんな慰めの言葉よりも強烈な希望として映ったようだ。


「……僕にも、できますか?」


「計算と配合を間違えなければな。間違えたら自分が爆発するけど」


「ひえっ」


空気が少し緩んだ。


俺たちは再びヘッドライトを点灯させ、ゴーレムが守っていた奥の扉へと向き直った。


「さて、番犬がいたってことは、この先には『飼い主』の宝があるってことだ」


俺は溶解した鉄の臭いが充満する通路を抜け、最深部の部屋へと足を踏み入れた。

そこには、埃ひとつないガラスケースに守られた、一冊の「黒い本」が鎮座していた。


(第71話 完)

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