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第70話「科学の灯火、闇を穿つ」

「いいか、地下探索において最大の敵は『モンスター』でも『罠』でもない」


Fクラスの教室(実験室)。


机の上に並べられた奇妙な部品を前に、俺はノアとクララに講義をしていた。


「それは『暗闇』だ」


人間が情報の8割以上を視覚に頼っている以上、視界を奪われることは死を意味する。


通常、冒険者は『照明魔法ライト』や魔石ランタンを使うが、今回の舞台は魔力真空地帯。

魔法の光は瞬時にかき消されるだろう。


「そこで、これの出番だ」


俺が手に取ったのは、金属製の筒。

先端には分厚いレンズが嵌め込まれ、手元にはスイッチが付いている。


前世で言うところの『マグライト(懐中電灯)』だ。


ただし、中身は現代の乾電池ではなく、俺が錬金術で精製した高密度の「化学電池ケミカル・バッテリー」が詰め込まれている。


「先生、これは……武器ですか? 鈍器?」


「殴っても痛いが、用途は違う。見てろ」


俺は教室のカーテンを閉め切り、部屋を薄暗くした。

そして、筒のスイッチを親指で押し込んだ。


カチッ。


カッッッ!!


瞬間、強烈な閃光が迸り、黒板を真昼のように照らし出した。


「うわっ、眩しっ!?」


「なにこれ!? 魔法!?」


二人が手で目を覆う。


「魔法じゃない。電流をタングステンのフィラメント……まあ、特殊な金属線に流して発光させてるんだ。魔力を一切使わない、純粋な『物理的な光』だ」


俺は光の束を左右に振った。


闇を切り裂く白い光線。

魔法のボヤッとした灯りとは違い、狙った場所を明確に照らす指向性の光だ。


「すげえ……! 魔法より明るいじゃん!」


「これなら風で消えることもないし、魔力が吸われることもないわね」


二人は恐る恐るライトを受け取り、教室中を照らしてはしゃいでいる。

俺はさらに二つのアイテムを取り出した。


「それと、これを頭に付けろ」


「……なんですか、この変なバンド」


「『ヘッドライト』だ。両手が空くから、探索には必須だぞ」


俺たちは探検隊スタイル――作業着にヘルメット、そしてヘッドライト――に換装した。

見た目は完全に炭鉱夫か工事現場の作業員だが、機能性は抜群だ。


「よし、準備完了だ。行くぞ、野郎ども!」


「「おー!」」




学園の北裏、立ち入り禁止区域にある古びた礼拝堂。


その地下へと続く階段の先に、重厚な鉄の扉があった。

表面には警告の魔法文字が刻まれているが、すでに効力は薄れているようだ。


「ここが『旧地下図書館』の入り口か……」


ノアがゴクリと喉を鳴らす。

俺は理事長から預かった鍵を差し込み、重い音と共に解錠した。


ギギギギギ……。


扉が開くと同時に、カビと古紙の混じった冷たい風が吹き抜けた。


「うっ……なんか、空気が重い……」


「頭がガンガンするかも。これが魔力欠乏の影響?」


ノアとクララが頭を押さえて座り込む。

彼らの顔色は青白く、呼吸も荒い。


地下の結界が、彼らの体内にある魔力を無理やり外へと引き剥がそうとしているのだ。

高山病の逆、いわば「魔力減圧症」といったところか。


「先生……なんで、先生は平気なんですか……?」


ノアが苦しげに見上げてくる。


俺はピンピンしていた。

頭痛ひとつないどころか、むしろ体が軽い。


「簡単な理屈だ」


俺は自分の胸をトントンと叩いてみせた。


「この空間は巨大な『掃除機』だ。お前らみたいな『魔力持ち』は、中身が詰まったペットボトルみたいなもんだ。外から無理やり吸われれば、容器(体)がひしゃげて苦しくなる」


「じゃあ、先生は……?」


「俺は『空っぽ』だからな」


俺はニヤリと笑った。


「え……?」


「俺は『最弱』だ。生まれつき魔力がゴミくずレベルしかない。その上、俺の錬金術は自分の魔力を使わず、薬品や電気……つまり『外部エネルギー』で動かしている」


そう。普通の魔術師や錬金術師は、体内に溜め込んだ魔力を燃料ガソリンにして魔法を使う。

だから常にタンクを満タンにしようとする。


だが、俺は違う。

前世の科学知識を使う俺のやり方は、現地調達のバッテリー駆動だ。


俺自身の魔力タンクは、常に空っぽ(エンプティ)の状態にしてある。


「吸い出される中身が最初からないんだよ。だから、掃除機をかけられても何の影響もない」


「魔力が……空っぽ……」


クララが呆れたように笑った。


「だから先生の錬金術は、私たちと全然違ったんですね……。魔力に頼らないんじゃなくて、頼れないから『別の力』を極めたんだ」


「そういうことだ。ここでは『無能』こそが最強の耐性スキルになる」


俺は二人に『高カロリー飴(糖分と塩分の塊)』を放って渡した。


「ほら、舐めてろ。魔力が抜けた分のショックは糖分で補える」


魔力酔いには糖分補給が一番だ。


「さて、点灯!」


カチッ。


三人のヘッドライトが一斉に点灯した。

暗黒の空間に、三条の光の道が走る。


そこは、想像を絶する空間だった。


「うわぁ……」


天井が見えないほど高い空洞。

そこには、螺旋状に配置された巨大な本棚が、地底の底まで続いていた。


まるでアリ地獄のような構造だ。

無数の本が、静寂の中で眠っている。


「すっごい数……。これ全部、禁書なんですか?」


「創立者が集めた知識の墓場だな。……ん?」


俺はライトの光を足元に向けた。

床に、誰かの足跡がある。


埃の積もり方からして、数十年……いや、もっと古いものか。

そして足跡の傍らには、白骨化した遺体が転がっていた。


「ひいっ!?」


ノアが悲鳴を上げる。

遺体が着ているのは、古い時代の魔術師のローブだ。


「魔力欠乏で倒れ、そのまま出られなくなったんだろう。……魔法使いにとって、ここは本当の地獄らしいな」


俺は遺体に軽く手を合わせ、先へと進んだ。


「だが、俺たち錬金術師(科学者)には関係ない。むしろ、保存状態のいい宝の山だ」


俺は手近な本棚から一冊の本を抜き取った。


タイトルは『古代自動人形オートマタの設計論』。

パラパラとめくると、現代の魔法技術では失われた(ロストテクノロジー)機構の図面が描かれている。


「ビンゴだ」


俺はニヤリと笑った。


ここは危険地帯じゃない。

過去の遺産が手付かずで残る、俺たちだけの『素材倉庫』だ。


「先生! あっちに何か、でっかい扉があります!」


クララがライトで奥を照らす。

螺旋階段を下りた先に、ひときわ異彩を放つ金属製のゲートがあった。


その表面には、歯車とフラスコの紋章――古代錬金術師のシンボルが刻まれている。


「……なるほど。創立者は魔法使いじゃなく、錬金術師だった説があるが、本当かもしれん」


俺はワクワクしながら、その扉へと歩を進めた。

この奥には、間違いなく「特大のネタ」が眠っている。


「開けるぞ。……何が出ても驚くなよ?」


俺たちが扉に手を掛けた、その時だった。


ガガガガッ……!


静寂を破り、書架の影から機械的な駆動音が響き渡った。


ライトを向けると、そこには錆びついた金属の巨体――『警備用ゴーレム』の残骸が、赤いレンズを明滅させて立ち上がろうとしていた。


「侵入者……排除……」


「わお。生きてる警備員のお出ましか」


魔法駆動なら停止しているはず。

つまり、あれは――科学動力バッテリーで動くタイプだ。


「総員、戦闘準備! ……いや、解体バラしの時間だ!」


俺はスパナを片手に、獰猛な笑みを浮かべた。


(第70話 完)

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