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第69話「塔の頂の古狸」

Fクラスの快進撃から一夜明けた月曜日。


アカデミーの空気は一変していた。


「おい見ろよ、あいつらだ」


「Fクラスの……いや、電気の魔術師だっけ?」


「あの剣、マジですごかったよな……」


登校するノアとクララに向けられる視線は、もはや蔑みではなかった。


畏敬、好奇心、そして嫉妬。

購買部には「サビ取り依頼」が殺到し、すでに数ヶ月待ちの状態だという。


「せ、先生……。なんか視線が痛いんですけど」


「慣れろ。出る杭は打たれるが、出すぎた杭は誰も打てない。お前たちは今、成層圏まで突き抜けようとしてるんだ」


俺は欠伸を噛み殺しながら、二人を連れて本校舎の最上階へと向かっていた。


教頭室よりもさらに上。


この学園の支配者、『理事長室』への呼び出しである。


「失礼します。Fクラス担任、アレンです」


重厚なオーク材の扉を開ける。

そこは、教室が3つは入りそうな広い執務室だった。


壁一面の本棚、高級な絨毯。そして窓際に置かれたマホガニーの机に、一人の初老の男が座っていた。


「よく来たね、噂の錬金術師くん」


理事長、ギデオン・スペンサー。

白髪をオールバックにし、鋭い眼光をモノクルの奥に隠した古狸だ。


彼は手元の書類――恐らく昨日の実験レポート――から目を離し、薄く笑った。


「教頭が胃薬を飲んで寝込んでいるよ。君たちのせいで、Aクラスの親御さんたちからクレームの嵐らしい」


「それはお気の毒に。ですが、実力主義メリトクラシーがこの学園のモットーでは?」


「ハハッ、言うねえ。その通りだとも」


ギデオンは楽しそうに笑い、ソファを勧めた。


ノアとクララは緊張でガチガチになっている。


「単刀直入に言おう。君の評価スコアを見直したい」


ギデオンは指を組んだ。


「魔力を使わずに物質を変化させる『化学サイエンス』……だったかな? あの技術は素晴らしい。特に金属加工の技術は、軍部やドワーフギルドが高値で買いたがるだろう」


「どうも。で、本題は?」


俺が先を促すと、ギデオンの目がスッと細められた。


「話が早くて助かる。……君に、ある場所の調査を依頼したい」


彼は机の引き出しから、古びた鍵を取り出し、テーブルに放った。


「『旧地下図書館』。……聞いたことはあるかね?」


ノアが「あっ」と声を上げた。


「知ってます! 学園の七不思議の一つです! 地下深くに眠る図書館で、そこに入った魔法使いは全員、魔力が暴走して発狂するとか……」


「半分正解だ」


ギデオンが頷く。


「あそこは『魔力真空地帯』なんだよ。地下水脈の影響か、あるいは古代の結界か……。とにかく、魔力を持った者が入ると、体内の魔素マナが強制的に吸い出されて『魔力欠乏症』になる。高位の魔術師ほど危険な場所だ」


なるほど。


魔法使いにとっては、酸素のない部屋に入るようなものか。


だが、魔力を持たない(あるいは極端に少ない)人間にとっては――。


「ただの地下室、というわけですね」


「その通り。君たちFクラスは魔力が少ない。そして君は、魔力に頼らない技術を持っている」


ギデオンは身を乗り出した。


「地下図書館には、創立者が残した『禁忌の書物』や『アーティファクト』が眠っていると言われている。だが、誰も回収できないまま数百年が経った。……これを、君たちに回収してきてもらいたい」


「断ったら?」


「別に構わんよ。……ただし、教頭が騒いでいる『Fクラス廃止論』を私が抑え込めなくなるかもしれんがね」


脅しかよ。


こいつはバルトス教頭のような感情的な敵ではない。

利益のためなら平気で生徒を危険に晒す、合理的な古狸だ。


だが、俺にとっては悪くない話だ。


『魔力真空地帯』。


それはつまり、魔法による干渉を受けない純粋な物理空間ということだ。


そこなら、誰にも邪魔されず、もっと大規模な「科学実験」ができるかもしれない。

それに、眠っている『アーティファクト』とやらも、解析すれば新しい技術の種になる。


「……条件があります」


俺はニヤリと笑った。


「報酬は、回収した物品の『第一研究権』。それと、今回の調査にかかる経費(予算)は、理事長ポケットマネーから無制限(青天井)で出すこと」


「ふむ……。強欲だねえ」


「命懸けですから。……それに、俺たちは『最弱』なんでね。道具アイテムがないと戦えませんよ」


ギデオンは数秒考え込み、やがて楽しそうに手を叩いた。


「いいだろう。契約成立だ。……期待しているよ、アレン先生」




理事長室を出た後、ノアが青ざめた顔で俺の袖を引いた。


「せ、先生……! 本気ですか!? 地下図書館なんて、お化けが出るって噂ですよ!?」


「お化けなら科学で退治できるから安心しろ」


「そういう問題じゃなくてぇ!」


「へえ、面白そうじゃん」


クララだけは乗り気だった。


「魔力がない場所ってことは、Aクラスの連中も入ってこれない聖域ってことでしょ? 私たちの独壇場じゃない」


「その通りだ、クララ。よく分かってるな」


俺は二人の肩を叩いた。


「それに、次の授業レッスンにはちょうどいい環境だ」


暗闇。

閉鎖空間。

未知の領域。


そこで必要になるのは、攻撃魔法ではない。

『観測』と『光源』、そして『生存技術サバイバル』だ。


「さあ、Fクラスに戻って準備だ。……探検の時間だぞ」


俺の頭の中には、すでに新しい設計図レシピが浮かんでいた。


暗黒の地下を昼間のように照らす『人工の太陽』。


それは、魔法の世界に『電気文明』の灯火を灯す第一歩になるはずだ。


(第69話 完)

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