第68話「折れない信念、砕けない刃」
「では、試験を行う」
王都騎士団長・ガゼルは、岩のような巨体を揺らして演習用の鉄甲冑の前に立った。
その手にはまず、Aクラスのランバートが修復した剣が握られている。
「ふむ……。魔法による研磨、見事だ。刃こぼれひとつない」
ガゼル団長は剣を構え、鋭い呼気と共に横薙ぎに振るった。
ガギィィィン!
甲高い金属音が響き、ゴーレムの胴体に浅い切り傷が刻まれた。
会場から「おおっ!」と歓声が上がる。
腐食した剣を、ここまで実用レベルに戻せれば十分な合格点だ。
「……だが」
ガゼル団長は剣をしげしげと眺め、眉をひそめた。
「軽いな」
「は? ……軽い、とは?」
ランバートが怪訝な顔をする。
団長は無言で剣を彼に返却し、次に俺たちのテーブルへと歩み寄った。
「貸してみろ」
団長の手が、Fクラスが再生させた「青白く輝く剣」を掴む。
その瞬間、彼の手首がピクリと反応した。
「……ほう」
彼はニヤリと笑い、先ほどと同じ構えを取った。
相手は同じ鉄甲冑。
だが、振り抜く速度も、剣が空気を裂く音も、先ほどとは違っていた。
ゴォォッ――ズバンッ!!
重い衝撃音。
次の瞬間、ゴーレムの胴体がくの字にへこみ、左腕が半ばから斬り飛ばされて地面に転がった。
「な……ッ!?」
会場が静まり返る。
斬撃の威力が、桁違いだった。
ガゼル団長は剣を目の高さに持ち上げ、刃を確認する。
そして、満足げに頷いた。
「刃こぼれなし。……そして何より、剣としての『芯』が残っている」
彼はその剣を高く掲げ、観客席に向かって宣言した。
「勝者、Fクラス!」
ワァァァァァッ!!
一瞬の空白の後、爆発的な歓声が闘技場を揺らした。
Fクラスの勝利。それは、アカデミーの歴史上、初めて落ちこぼれがエリートを実力でねじ伏せた瞬間だった。
「う、嘘だ……! そんな馬鹿な!」
バルトス教頭が顔を真っ赤にして叫んだ。
「団長! 手加減したでしょう!? Aクラスの剣があんなFクラスのゴミに負けるはずがない!」
「手加減などせん。……教頭、お前は錬金術の専門家だろう? なぜこの差が生まれたか分からんのか」
ガゼル団長は冷ややかな目で教頭を見下ろした。
「Aクラスの剣は『研磨魔法』でサビを削り落とした。当然、刀身は薄く、軽くなる。見た目は綺麗だが、強度は落ちているのだ」
彼は俺たちの剣を指差した。
「だが、彼らの剣は違う。重さが新品の時と変わらん。いや、表面のコーティングの分、より硬く、強靭になっている。……これは『修復』ではない。『進化』だ」
その言葉に、ランバートが膝から崩れ落ちた。
彼の剣は、見た目を整えるために身を削った「痩せた剣」。
俺たちの剣は、失ったものを取り戻し、鎧をまとった「太い剣」。
物理的な質量の差は、精神論では埋まらない。
「く、くそぉぉぉっ!」
ランバートが地面を叩いて悔しがる。
その横で、ノアとクララは抱き合って喜んでいた。
「やった……やったよ僕たち!」
「マジですげー! あのガゼル団長が褒めてくれた!」
二人の目には涙が浮かんでいる。
これまで「才能がない」「魔力がない」と否定され続けてきた彼らが、自分たちの手で掴み取った勝利だ。
俺は呆然としているバルトス教頭の前に歩み寄った。
「約束通り、Fクラスの退学は取り消しですね? 教頭先生」
「ぐ、ぬぅ……」
「それと、今回の技術……『電気分解』と『メッキ加工』ですが」
俺はニヤリと笑い、会場中の注目を集めるように声を張った。
「特許は、全てFクラスの生徒が保持します。今後、この技術を使いたければ――彼らに頭を下げて教えを乞うことですね」
「なっ……! 生徒が特許だと!?」
「ええ。彼らが発見し、彼らが実証したんですから。当然の権利でしょう?」
会場にいた商人や貴族たちが、色めき立ってノアたちを見つめる。
錆びた武具を新品同様に戻す技術。軍部も冒険者ギルドも、喉から手が出るほど欲しいはずだ。
Fクラスは今この瞬間、学園のお荷物から「金の卵」へと変わったのだ。
「先生……」
ノアが信じられないという顔で俺を見る。
俺は彼の頭をガシガシと撫でた。
「胸を張れ。お前たちはもう、立派な錬金術師だ。……さあ、凱旋するぞ」
俺たちは堂々とアリーナを後にした。
背中越しに聞こえるAクラスへの罵倒と、Fクラスへの称賛の声。
その響きは、これからの学園生活が激変することを予感させていた。
教室に戻った俺たちを待っていたのは、机の上に置かれた一通の手紙だった。
差出人は『王立アカデミー理事長』。
「……げっ。もう目をつけられたか」
俺は苦笑いしながら封を切る。
Fクラスの逆襲は成功した。
だが、それは同時に、俺たちがこの国の「古い常識」すべてを敵に回したことを意味していた。
「面白くなってきやがった」
俺は白衣を翻し、次の実験の準備を始めた。
(第6章「アカデミー編」前編 完/次回、新展開!)
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