表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/106

第68話「折れない信念、砕けない刃」

「では、試験を行う」


王都騎士団長・ガゼルは、岩のような巨体を揺らして演習用の鉄甲冑アイアン・ゴーレムの前に立った。

その手にはまず、Aクラスのランバートが修復した剣が握られている。


「ふむ……。魔法による研磨、見事だ。刃こぼれひとつない」


ガゼル団長は剣を構え、鋭い呼気と共に横薙ぎに振るった。


ガギィィィン!


甲高い金属音が響き、ゴーレムの胴体に浅い切り傷が刻まれた。


会場から「おおっ!」と歓声が上がる。

腐食した剣を、ここまで実用レベルに戻せれば十分な合格点だ。


「……だが」


ガゼル団長は剣をしげしげと眺め、眉をひそめた。


「軽いな」


「は? ……軽い、とは?」


ランバートが怪訝な顔をする。

団長は無言で剣を彼に返却し、次に俺たちのテーブルへと歩み寄った。


「貸してみろ」


団長の手が、Fクラスが再生させた「青白く輝く剣」を掴む。

その瞬間、彼の手首がピクリと反応した。


「……ほう」


彼はニヤリと笑い、先ほどと同じ構えを取った。

相手は同じ鉄甲冑。

だが、振り抜く速度も、剣が空気を裂く音も、先ほどとは違っていた。


ゴォォッ――ズバンッ!!


重い衝撃音。

次の瞬間、ゴーレムの胴体がくの字にへこみ、左腕が半ばから斬り飛ばされて地面に転がった。


「な……ッ!?」


会場が静まり返る。

斬撃の威力が、桁違いだった。


ガゼル団長は剣を目の高さに持ち上げ、刃を確認する。

そして、満足げに頷いた。


「刃こぼれなし。……そして何より、剣としての『芯』が残っている」


彼はその剣を高く掲げ、観客席に向かって宣言した。


「勝者、Fクラス!」


ワァァァァァッ!!

一瞬の空白の後、爆発的な歓声が闘技場を揺らした。

Fクラスの勝利。それは、アカデミーの歴史上、初めて落ちこぼれがエリートを実力でねじ伏せた瞬間だった。


「う、嘘だ……! そんな馬鹿な!」


バルトス教頭が顔を真っ赤にして叫んだ。


「団長! 手加減したでしょう!? Aクラスの剣があんなFクラスのゴミに負けるはずがない!」


「手加減などせん。……教頭、お前は錬金術の専門家だろう? なぜこの差が生まれたか分からんのか」


ガゼル団長は冷ややかな目で教頭を見下ろした。


「Aクラスの剣は『研磨魔法』でサビを削り落とした。当然、刀身は薄く、軽くなる。見た目は綺麗だが、強度は落ちているのだ」


彼は俺たちの剣を指差した。


「だが、彼らの剣は違う。重さが新品の時と変わらん。いや、表面のコーティングの分、より硬く、強靭になっている。……これは『修復』ではない。『進化』だ」


その言葉に、ランバートが膝から崩れ落ちた。


彼の剣は、見た目を整えるために身を削った「痩せた剣」。


俺たちの剣は、失ったものを取り戻し、鎧をまとった「太い剣」。

物理的な質量の差は、精神論では埋まらない。


「く、くそぉぉぉっ!」


ランバートが地面を叩いて悔しがる。

その横で、ノアとクララは抱き合って喜んでいた。


「やった……やったよ僕たち!」


「マジですげー! あのガゼル団長が褒めてくれた!」


二人の目には涙が浮かんでいる。

これまで「才能がない」「魔力がない」と否定され続けてきた彼らが、自分たちの手で掴み取った勝利だ。


俺は呆然としているバルトス教頭の前に歩み寄った。


「約束通り、Fクラスの退学は取り消しですね? 教頭先生」


「ぐ、ぬぅ……」


「それと、今回の技術……『電気分解』と『メッキ加工』ですが」


俺はニヤリと笑い、会場中の注目を集めるように声を張った。


特許ライセンスは、全てFクラスの生徒が保持します。今後、この技術を使いたければ――彼らに頭を下げて教えを乞うことですね」


「なっ……! 生徒が特許だと!?」


「ええ。彼らが発見し、彼らが実証したんですから。当然の権利でしょう?」


会場にいた商人や貴族たちが、色めき立ってノアたちを見つめる。


錆びた武具を新品同様に戻す技術。軍部も冒険者ギルドも、喉から手が出るほど欲しいはずだ。

Fクラスは今この瞬間、学園のお荷物から「金の卵」へと変わったのだ。


「先生……」


ノアが信じられないという顔で俺を見る。


俺は彼の頭をガシガシと撫でた。


「胸を張れ。お前たちはもう、立派な錬金術師だ。……さあ、凱旋するぞ」


俺たちは堂々とアリーナを後にした。


背中越しに聞こえるAクラスへの罵倒と、Fクラスへの称賛の声。

その響きは、これからの学園生活が激変することを予感させていた。


教室に戻った俺たちを待っていたのは、机の上に置かれた一通の手紙だった。

差出人は『王立アカデミー理事長』。


「……げっ。もう目をつけられたか」


俺は苦笑いしながら封を切る。


Fクラスの逆襲レッスンは成功した。

だが、それは同時に、俺たちがこの国の「古い常識」すべてを敵に回したことを意味していた。


「面白くなってきやがった」


俺は白衣を翻し、次の実験たたかいの準備を始めた。


(第6章「アカデミー編」前編 完/次回、新展開!)

お読みいただきありがとうございます。

面白いと感じていただけましたら、評価とブクマをぜひよろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ