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第67話「鉄屑の覚醒」

「おお……! 見ろ、ランバート様の華麗な杖さばきを!」


闘技場は、Aクラスへの歓声で包まれていた。

ランバートの周囲には金色の魔法陣が浮かび上がり、錆びた剣を光の粒子が包み込んでいる。


「時の螺旋よ、鋼の記憶を呼び覚ませ――『光沢復元シャイン・リペア』!」


彼が詠唱するたびに、剣の表面からサビが砂のように崩れ落ち、輝きが戻っていく。

これぞ王道の錬金術。視覚的にも美しく、観客を魅了するパフォーマンスだ。


一方、俺たちFクラスのブースは――。


ボコ、ボコ、ボコ、ボコ……。


地味だった。

巨大なガラス水槽の中で、茶色い液体が不気味に泡立っているだけ。


ノアとクララは、黙々と電圧計の針を睨み、時折メモを取っている。


「……おい、なんだあれ。スープでも煮込んでるのか?」


「臭いぞ。鼻がツーンとする」


「やっぱりFクラスだ。諦めて遊んでるんじゃないか?」


観客席から失笑が漏れる。

高台に座るバルトス教頭も、勝ち誇ったように鼻を鳴らした。


「ふん。あの鉄屑は、廃棄区画の底で50年は眠っていた代物だ。中まで腐食が進んでいる。魔法でも修復不可能なゴミを、水に浸けただけでどうにかなるものか」


その通りだ。普通の錬金術なら、サビを削り落とせば、刀身が痩せ細って使い物にならなくなる。


だが、俺たちがやっているのは「削る」作業ではない。


「……そろそろだ。ノア、電流遮断」


「はい! 電源オフ!」


ノアがスイッチを切る。

泡が止まり、水槽が静まり返る。


「引き上げろ」


クララがゴム手袋をした手で、水槽から対象物を引き上げた。

現れたのは、ドロドロの黒いスラッジ(カス)にまみれた物体だ。


「うわぁ、汚ねえ!」


「真っ黒じゃねえか! 失敗だ、失敗!」


会場中が爆笑の渦に包まれる。ランバートも作業の手を休め、哀れむような目を向けてきた。


「残念だったな。ゴミはゴミのままだったようだ」


だが、俺と生徒たちは、誰一人として笑っていなかった。


ノアが洗浄液の入ったバケツに、その黒い物体を突っ込む。

そして、ブラシでサッと表面を撫でた。


その瞬間。


キラッ――!


バケツの中から、鋭い閃光が走った。


嘲笑が、喉に詰まったように止まる。


「え……?」


ノアがゆっくりとそれを持ち上げる。

黒い汚れが洗い流され、太陽の光を浴びて現れたのは――鏡のように輝く、白銀の刃だった。


「な、なんだあれは!?」


「新品……いや、それ以上の輝きだぞ!?」


「説明しよう」


俺は静まり返った会場に向けて、朗々と声を上げた。


「サビというのは、鉄が酸素と結びついた姿だ。通常の研磨魔法は、そのサビを『削り落とす』から、剣が薄く脆くなる。……だが、俺たちの『還元』は違う」


俺はピカピカになった剣を指差す。


「電気の力で、鉄と酸素の結合を強制的に解除した。つまり、サビていた部分を『鉄に戻した』んだ。素材の減少はゼロ。分子レベルでの完全修復だ」


ざわめきが広がる。

魔法を使わずに物質の構成を変えた? そんな芸当、聞いたことがない。


「ま、まだだ! 見た目が綺麗になっただけだろう!」


バルトス教頭が身を乗り出して叫ぶ。


「そんな急造の修復で、強度が戻るはずがない! 実戦に使えばすぐに折れるわ!」


「ご心配なく。……ここからが仕上げ(コーティング)です」


俺はニヤリと笑い、合図を送った。


「第2工程、開始! メッキ槽へ移行!」


ノアとクララが、素早く剣を隣の水槽に移す。

そこに入っているのは、青緑色の液体(ニッケル溶解液)。


「再び通電! 表面処理コーティング開始!」


ブゥゥゥン!


再び電源装置が唸りを上げる。


「錬金術師なら知っているはずだ。異なる金属を結合させるには、膨大な熱と魔力が必要だと」


俺は解説を続ける。


「だが、この『電気メッキ』を使えば、常温で、しかも均一に、別の金属の膜を作ることができる。……鉄の強靭さに、サビない金属の鎧を着せるんだ」


数分後。


処理を終えた剣が取り出された。


水で洗われ、布で拭き上げられたその剣は、もはや鉄屑の面影など微塵もなかった。


青白く透き通るような光沢。

濡れているかのような艶めかしい輝き。

それは、名工が鍛え上げた聖剣のようだった。


「完成です、先生!」


ノアが両手で剣を掲げる。


その刀身には、曇りひとつない。

Aクラスの生徒たちが持っている新品の剣よりも、遥かに美しく、鋭く輝いていた。


「馬鹿な……。あの鉄塊が……」


「魔法陣もなしに……どうやって……」


ランバートの手から、カラン、と磨き上げた剣が滑り落ちた。

彼の剣も綺麗にはなっていた。


だが、Fクラスの剣が放つ圧倒的な「質感」の前では、ただの鉄の棒にしか見えなかった。


「さて、審査員の方々」


俺は審査席に座る騎士団長たちに向かって一礼した。


「どちらが『実戦使用可能』か、試していただけますか?」


騎士団長が、興味深そうに席を立った。

腰には、自身が愛用する名剣を帯びている。


「面白い。……その輝き、見掛け倒しかどうか、私が確かめよう」


Fクラスの逆襲。

その真価が、今試される。


(第67話 完)

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引き続き、Fクラスの下剋上をお楽しみください!

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