表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/106

第64話「ゴミ捨て場の宝の山」

「……先生。これ、本当に全部僕たちが作ったんですか?」


夕暮れのFクラス教室。

ノアが呆然とした声で呟いた。


目の前の作業台には、木箱に入った『初級回復薬ヒールポーション』がズラリと並んでいる。

その数、実に50本。


「ああ。紛れもなく、お前たちの成果だ」


俺は完成したポーションの瓶を一本手に取り、光にかざしてチェックする。


不純物なし。色味も完璧な翠玉色エメラルド・グリーン

そして何より恐ろしいのは――50本すべてが、まったく同じ色と粘度をしていることだ。


「疲れたぁ〜……。マジで腕パンパンなんだけど」


クララが机に突っ伏して文句を言うが、その顔には隠しきれない達成感が浮かんでいる。

最初は嫌がっていた彼女だが、やり始めると意外な才能を見せた。


化粧で鍛えたのか、1ミリグラム単位の計量や、温度管理の手際が抜群に良いのだ。


「従来の錬金術は『芸術品』を作る作業だ。職人の調子や魔力によって、品質にムラが出る」


俺は二人に説明する。


「だが、俺たちがやったのは『工業製品』の製造だ。レシピ(プログラム)通りに動けば、1本だろうが100本だろうが、同じ品質のものが出来上がる。……これを『品質管理クオリティ・コントロール』と言う」


「クオリティ……コントロール……」


ノアが魔法の言葉のように復唱する。


「よし。これを持って『購買部』に行くぞ。作ったポーションを換金して、次の実験材料を買うんだ」


アカデミーには、生徒が作成したアイテムを買い取り、評価点スコアとして還元するシステムがある。

Fクラスの逆襲を始めるには、ちょうどいい場所だ。




本校舎の一角にある購買部は、多くの生徒で賑わっていた。

俺たちが木箱を抱えて入っていくと、周囲の空気が一変した。


煤けた旧校舎の制服を着たノアとクララを見て、あからさまな嘲笑が広がる。


「おい見ろよ、Fクラスだぜ」


「うわ、なんか薬品臭くない?」


「ゴミ拾いの帰りかよ」


ノアがビクついて身を縮める。

クララは「ああん?」とメンチを切ろうとするが、俺はそれを手で制した。


「並ぶぞ」


俺たちは査定カウンターの列に並んだ。


その時、一つ前の列にいた男子生徒が振り返った。

仕立ての良い制服に、胸元には『Aクラス』を示す金色のバッジ。取り巻きを連れた、いかにもなエリートだ。


「やあやあ。Fクラスの諸君じゃないか」


彼は大げさに鼻をつまむ仕草をした。


「こんな所に何用だ? 掃除用具の買い出しかね?」


「……ランバートさん」


ノアが怯えたように名前を呟く。

どうやら顔見知りらしい。


ランバートと呼ばれた男は、ノアを見下して鼻で笑った。


「魔力ナシの落ちこぼれが、錬金術師の真似事か? 悪いことは言わん、早く退学届を出して田舎に帰れ。君たちがいるだけで、アカデミーの品位が下がる」


「そ、それは……」


「おやおや、無視ですか?」


ランバートの視線が、俺に向く。


「あなたが噂の新任講師ですか。平民出身だとか。……教育者なら、身の程というものを教えてやるべきでは?」


「アドバイスどうも。……だが、俺の生徒は優秀だよ。少なくとも、口だけのどこかの誰かさんよりはな」


俺がサラリと返すと、ランバートの顔が朱色に染まった。


「なっ……! 貴様、Aクラス筆頭のこの私を愚弄するか!」


「いいから、さっさと査定してもらったらどうだ? 後ろがつかえてる」


俺は顎でカウンターをしゃくった。


ランバートは「ふん!」と鼻を鳴らし、カウンターの老婆――査定係のピム夫人に、恭しく瓶を差し出した。


「マダム・ピム。私の新作です。自信作ですよ」


「はいはい、ランバート君ね」


ピム夫人は分厚い眼鏡の奥で目を細め、ランバートのポーションを鑑定用の魔道具にかざした。


「ふむ……魔力の込め方は流石ね。純度も高い。……判定は『Aランク』。買い取り価格は一本、金貨1枚ってところかしら」


周囲から「おおっ!」と歓声が上がる。

学生が作るポーションでAランクは相当な高評価だ。


「見ましたか、先生。これが『選ばれし者』の錬金術です」


ランバートは勝ち誇った顔で俺たちを見下ろした。


「凡人が何年努力しても届かない領域があるのです。……さあ、君たちのゴミを見せてもらいましょうか」


彼はわざとらしく場所を空けた。

周囲の生徒たちも、ニヤニヤしながら見守っている。Fクラスが恥をかくのを楽しみにしているのだ。


「……行け、ノア」


俺はノアの背中をトン、と押した。

ノアは震える手で、木箱をカウンターに置いた。


「Fクラスの……ノアです。……これ、お願いします」


「はいはい。……あら? 随分とたくさん持ってきたわね」


ピム夫人は呆れたように木箱を開けた。

そして――動きを止めた。


「……え?」


夫人は眼鏡の位置を直し、木箱の中身を凝視した。


一本を取り出し、光にかざす。そして、もう一本。さらにもう一本。


「……ちょっと、これ……」


夫人の顔色が変わり、慌てて鑑定魔道具を起動した。

ブゥン、と魔道具が唸りを上げ、判定の光を放つ。


「嘘……そんな……」


「どうしたんですか、マダム? 腐ってましたか?」


ランバートが嘲笑う。

だが、ピム夫人は震える声で告げた。


「……Sランク」


「はい?」


「不純物ゼロ。魔力定着率、完全パーフェクト。……『Sランク』よ」


静寂。


購買部の中が、水を打ったように静まり返った。


Sランク。


それは宮廷錬金術師クラスが最高のコンディションで作って、やっと出来るかどうかの「奇跡の品質」だ。


「ば、バカな! 見間違いでしょう!?」


ランバートが叫ぶ。


「しかも……これを見て」


ピム夫人は木箱の中身を指差した。


「50本……。50本すべてが、ミクロン単位で同じ成分構成、同じ品質なの。まるでコピーしたみたいに……」


「な……!?」


ランバートが木箱を覗き込み、絶句する。


そこには、彼のAランクポーションさえ霞むような、至高の輝きを放つ翠玉の液体が、軍隊のように整然と並んでいた。


「ありえない……。魔力の制御もできない落ちこぼれが、こんな……!」


「言っただろ。俺の生徒は優秀だって」


俺は呆然とするランバートの横を通り過ぎ、カウンターに手をついた。


「マダム。これ全部買い取りで。……ああ、その金で新しい実験器具を買いたいんですが」


俺はニヤリと笑い、強張った顔のAクラス生たちを見回した。


「Fクラスの逆襲レッスンは、まだ始まったばかりだぞ」


ノアとクララが、信じられないものを見るような目で、自分たちの手を見つめていた。


その手はもう、落ちこぼれの手ではない。

世界を変える「技術者」の手だった。


(第64話 完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ