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第45話「皇女様の野菜嫌い」

「やだ! 絶対にやだ! 私はお肉しか食べないもん!」


領主館の食堂に、子供のような駄々っ子が響き渡った。

声の主は、ドラゴニア帝国の第三皇女、シェリーだ。


彼女は目の前に置かれた皿を、親の敵を見るような目で睨みつけている。

皿の上に乗っているのは、新鮮なサラダ――といっても、ガラハド領で採れた数少ない野菜を使った、質素なものだが。


「シェリー様、そう仰らずに……。これは村の者たちが、土壌改良の祝いにと差し入れてくれた貴重な野菜なのですぞ」


ボルマンさんが困り顔で説得するが、シェリーはプイッとそっぽを向いた。


「知らない! 緑色の食べ物は『草』よ! 竜人族は誇り高き捕食者なの。草食動物の餌なんて食べられないわ!」


「むぅ……。好き嫌いは良くないよ、シェリーちゃん」


隣でリリアがモリモリとサラダを頬張りながら諭すが、効果はない。

シェリーはフォークで器用に野菜を避け、ドラゴンの肉(圧力鍋でトロトロにしたシチューの残り)だけを口に運んでいる。


「……ふむ」


俺はシェリーが「毒物」扱いして避けたニンジンのような根菜を、一つ摘んで口に入れた。


カリッ。


「……うん、なるほど」


俺は数回噛んで、眉をひそめて飲み込んだ。


「苦いな。それに、筋張っていて硬い」


「でしょ!? アレンもそう思うでしょ!? こんなの食べたら舌が痺れちゃうわ!」


シェリーが「我が意を得たり」とばかりに身を乗り出す。


「アレン殿……やはり、味が落ちますか」


ボルマンさんが肩を落とす。

俺は正直に頷いた。


「ええ。土壌改良をしたといっても、それは『昨日』の話です。この野菜は、改良される前の『塩害土壌』で育ったものですからね」


俺は食べかけの野菜をフォークの先で突き、みんなに見えるように持ち上げた。


「ボルマンさん、シェリーさん。……この野菜がなぜ苦くて硬いか、分かりますか?」


「え? 鮮度が悪いからじゃなくて?」


リリアが首を傾げる。


「違います。これは、野菜たちの『悲鳴』なんです」


「悲鳴……?」


きょとんとする一同に、俺は解説を始めた。


「植物も生き物です。過酷な環境に置かれると、自分を守ろうとして必死に抵抗します。……この土地は今まで、塩分濃度が高く、水分が吸えない状態でした」


人間で言えば、喉が渇いているのに塩水しか飲めないような状態だ。

そんな極限のストレス環境下で、植物はどうするか。


「植物は、体内の水分を奪われないように細胞壁を硬くします。さらに、外敵やストレスから身を守るために、『アルカロイド』や『ポリフェノール』といった防御物質を生成します」


「あるかろ……?」


「簡単に言えば、それが『えぐみ』や『苦味』の正体です。つまり、この野菜が不味いのは、厳しい環境で生き延びようと頑張った証拠なんですよ」


俺の言葉に、食堂が静まり返った。

ただの「不味い野菜」だと思っていたものが、急に「戦場を生き抜いた戦士」のように見えてくるから不思議だ。


「……ふん。頑張ったのは認めてあげるけど、不味いものは不味いわ」


シェリーは腕組みをして、まだ不満げだ。

だが、その尻尾は少しだけ下がっている。彼女なりに、植物の苦労に同情したのかもしれない。


「なら、シェリーさん。……賭けをしませんか?」


「賭け?」


俺はニヤリと笑い、彼女を指差した。


「俺がこれから、この畑で『最高に甘い野菜』を作ってみせます。果物フルーツみたいに甘くて、ジューシーなやつを」


「果物みたい……?」


ピクリ、とシェリーの猫耳ならぬ竜の角が反応する。

甘いものには目がないようだ。


「もし俺がそれを作れたら、貴女は野菜嫌いを直して、毎日ちゃんとサラダを食べる。……どうですか?」


「……本当に甘いの? 苦くない?」


「ええ、約束します。ストレスのないフカフカの土と、俺の『特製肥料』があれば、野菜は本来の甘さを取り戻しますから」


アレン工房の品質クオリティにかけて、不味いものは作らせない。

俺の自信満々な態度に、シェリーはゴクリと喉を鳴らした。


「い、いいわよ! 受けて立つわ! でも、もし不味かったら……アレンを丸焼きにして食べるからね!」


「交渉成立ですね」


俺はボルマンさんに向き直った。


「というわけで、ボルマンさん。次の段階へ進みましょう。……昨日倒したドラゴンの『残り』、まだありますよね?」


「残り? 肉はあらかた保存処理に回したが……骨や内臓は廃棄する予定だが?」


「もったいない! それこそが宝の山です!」


俺は立ち上がった。


「骨には『リン酸』が、血や内臓には『窒素』と『アミノ酸』がたっぷり含まれています。これを発酵させれば、野菜を劇的に甘くする『最高級の有機肥料(ボカシ肥)』になるんです!」


化学肥料だけでは出せない、濃厚な旨味と甘味。

それを作るための材料が、向こうから飛び込んできたのだ。これを使わない手はない。


「うへぇ……。アレンさん、また変なもの作る気だ……」


リリアが引きつった顔をするが、俺の頭の中はすでに新しい「製造ライン」の構築でいっぱいだった。


「よし、リリア! シェリー! 食後の運動だ! ドラゴンの骨を砕きに行くぞ!」


「ええーっ!? 私、まだ食べてる途中だよー!」

「お肉の残りなら手伝ってあげるわ!」


騒がしい食卓を後に、俺たちは再び動き出した。

目指すは、皇女様の舌を唸らせる「奇跡のトマト」の栽培だ。


(第45話 完)

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