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第31話「凱旋、そして違和感」

「……よし、在庫チェック完了。製造ライン、オールグリーンだ」


リバーサイドの工房で、俺は最終確認のリストにチェックを入れた。 スタンピード騒動から一ヶ月。あの激戦を経て、アレン工房の結束はかつてないほど強固になっていた。


「師匠、もう心配しすぎですよ」


苦笑しながら声をかけてきたのは、製造部長のルーカスだ。その手には、俺が徹夜で作った『不在時緊急対応マニュアル Ver.1.0』が握られている。


「僕たちはもう、師匠がいなくても回せます。先週の『ギックリ腰騒動』の時だって、僕とエミリアで乗り切ったじゃないですか」


「あはは、あれは情けない話だったな……」


俺は頭をかいた。 確かに、ルーカスたちの成長は目覚ましい。第18話で導入した「班長制度」のおかげで、現場の判断スピードは格段に上がっている。今の彼らなら、俺が王都へ出張している間も、品質を維持し続けられるだろう。



そう、俺は今日からしばらくリバーサイドを離れる。 スタンピード鎮圧の功績により、王家から正式に招集がかかったのだ。名目は、新設される『王立錬金術師協会』の特別顧問就任と、王都の生産体制改革への協力だ。


「アレンさーん! 馬車の準備できたよー!」


表から、元気な声が響いた。 大きなリュックを背負ったリリアが、店の前で大きく手を振っている。彼女の胸元には、騎士団から授与された『銀翼の勲章』が誇らしげに輝いていた。


「今回は私が護衛兼、アレンさんの『秘書』だからね! 悪い虫がつかないように、しっかり見張っててあげる!」 「はいはい、頼りにしてるよ」


俺はルーカスとエミリアに向き直り、深く頷いた。


「じゃあ、行ってくる。店を頼んだぞ」 「はい! お土産待ってます!」 「お気をつけて、師匠!」


弟子たちに見送られ、俺とリリアは王都行きの馬車に乗り込んだ。 目指すは王国の中心、王都エルデンシア。かつて俺を無能だと切り捨て、追放した因縁の地だ。


だが、今回の俺は「追放された錬金術師」ではない。「国の英雄」としての凱旋だ。 改革派のダニエルさんからは「みんな君の到着を心待ちにしている」という手紙も届いている。きっと、明るい未来が待っているはずだ。


――と、この時の俺は楽観的に考えていた。



数日後。 俺たちは王都エルデンシアに到着した。


「わあ……! やっぱり人が多いねえ!」


リリアが窓から身を乗り出して歓声を上げる。石造りの立派な建物が並び、通りは人々で溢れかえっている。 だが、俺はすぐに「異変」に気づいた。


「……空気が、重いな」


「え? そう?」


俺たちが向かったのは、かつての錬金術師ギルド――現在は看板が掛け替えられ、『王立錬金術師協会』となっている本部ビルだ。 本来なら、新生組織として活気に満ちているはずの場所。しかし、建物の周りにはゴミが散乱し、出入りする職員たちの目は死んだ魚のように暗い。


「ようこそ、アレン君。……待っていたよ」


入り口で出迎えてくれたのは、新会長に就任したはずのダニエルさんだった。 だが、その姿を見て俺は絶句した。 以前会った時の快活な商人の面影はなく、頬はこけ、目の下には濃いクマができている。まるで十歳くらい老け込んだようだ。


「ダニエルさん!? そのやつれ方は……」 「はは、少し働きすぎたかな。……とりあえず、中へ入ってくれ。現状を見てもらった方が早い」


ダニエルさんに案内され、俺はかつてヴィクターが座っていた製造フロアへと足を踏み入れた。 そこで見た光景は、想像を絶するものだった。


「おい、ここの温度管理はどうなってる! マニュアルには71度と書いてあるだろう!」 「ああ? うるせえな。俺たちは長年80度でやってきたんだ。ポッと出の田舎者の指図なんか受けられるかよ」 「休憩時間はまだ終わってないぞ! 組合規定を持ち出すぞ!」


怒号、サボタージュ、そしてあからさまな敵意。 旧ギルド員たちは、ダニエルさんが導入しようとした「新しい機材」を放置し、床に座り込んで賭け事をしている者さえいた。


「……これは」 「酷いありさまだろう?」


ダニエルさんが力なく笑った。


「ヴィクターは追放された。だが、彼が長年作り上げてきた『腐った文化』までは追放できていなかったんだ。……彼らは、君の作ったマニュアルを読むことすら拒否している」


俺は拳を握りしめた。 これは単なる怠慢じゃない。組織的な「抵抗レジスタンス」だ。 新しいルールを拒絶し、既得権益にしがみつこうとする旧勢力の悪意が、このフロアに充満していた。


「アレン君。……君には、茨の道を歩ませることになりそうだ」


ダニエルさんの言葉に、俺は静かに頷いた。 どうやら、王都での戦いは「魔物退治」よりも遥かに厄介な、「人間」相手の泥沼になりそうだ。


(第31話 完)

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