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第30話「勝利と新時代(第2章完)」

王都近郊、対スタンピード防衛ライン。


「……う、おおおおおおっ!?」


瀕死だった騎士が、カッと目を見開き、自身の足で立ち上がった。

その傷口からは光が溢れ、見る間に塞がっていく。


「隊長! 魔力が……魔力が底なしに湧いてきます!」

「俺もだ! 体が軽い! まるで一晩ぐっすり眠った後みたいだ!」


アレンの『濃縮ポーション』を水で薄めた黄金色の液体。

それが兵士たちに行き渡った瞬間、戦場の空気が一変した。

飲んだ瞬間に全身の細胞を活性化させる、驚異的な『即効性』。


「行ける……これなら戦えるぞ!!」


騎士団長が剣を振り上げた。


「総員、反撃開始! リバーサイドからの贈り物、無駄にするなァッ!!」

「「「オオオオオオッ!!」」」


死に体だった騎士団が、爆発的な勢いで押し返す。

魔物たちが怯む。S級魔獣ベヒーモスですら、復活した魔導師部隊の一斉砲撃を受け、じりじりと後退を始めた。

やがて、王都の空に勝利の角笛が高らかに鳴り響く。


「勝った……俺たちが、勝ったんだ!!」


歓喜の輪の中心で、騎士団長は空になった樽を愛おしそうに撫でた。

その表面には、『Allen's Workshop(アレン工房)』の焼印が押されていた。


「アレン・クロフォード……。姿を見せずして戦況を覆すとは。恐ろしい男だ」



リバーサイド、アレン工房。


「……勝利、確認! 魔物の群れ、撤退していきます!」


グリフォン便の速報を受け取った瞬間、張り詰めていた空気が弾けた。


「アレンさん!」

「師匠!」


リリアとルーカスが駆け寄ってくる。

俺は椅子に深く沈み込み、天井を見上げた。


「……よかった。本当に、間に合ったんだな」


全身の力が抜けていく。指一本動かせないほどの疲労感が、心地よい達成感と共に押し寄せてくる。


「みんな、聞いたか! 騎士団の勝利だ! 俺たちのポーションが国を救ったんだ!」


俺が声を絞り出すと、工房内は爆発したような騒ぎになった。

泥だらけの農家の人々、指にタコを作った従業員たち、そしてダニエルさんに連れられてきた元ギルド員たち。全員が手を取り合って笑っている。


「アレンさん、すごいよ! 本当に伝説になっちゃった!」


リリアが俺の背中に飛びついてくる。

その瞳は、興奮と、そして安堵の涙で潤んでいた。

俺は彼女の肩を掴み、真剣な眼差しで言った。


「リリア。……君のおかげだ」


「え?」


「君があの『運び屋』を見つけてくれなきゃ、どんなに良いポーションを作っても届かなかった。システムを作ったのは俺だけど、それを『届けた』のは君だ。……君の人脈が掴んだ勝利だよ」


「……っ」


リリアは顔を真っ赤にして、それからへへっと照れくさそうに鼻をこすった。


「私の顔の広さを甘く見ないでよね! ……でも、アレンさんにそう言ってもらえるのが、一番嬉しいかも」

「ああ、最高のパートナーだ」


俺たちは互いに笑い合い、そして泥のように眠った。



数日後。王都、王城の一室。


豪奢な絨毯の上に、王都ギルドマスターのヴィクターが土下座していた。

その前には、冷徹な表情の宰相と、怒りを隠そうともしないロベルトが立っている。


「申し開きはあるか、ヴィクター」


宰相の低い声に、ヴィクターは脂汗を流しながら頭を擦り付けた。

だが、ロベルトが一歩前に出て、机にドン! と『証拠』を置いた。

リバーサイドから回収された空の樽と、ヴィクターが納品した白濁したポーションの瓶だ。


「アレン・クロフォード殿は、貴殿らが『不可能だ』と投げ出した仕事を、貴殿らが作った『廃棄物』の尻拭いまで含めて、完璧に完遂したぞ」


「そ、それは……あやつが何か、不正な手段を……」


「見苦しいッ!!」


ロベルトの怒号が部屋を震わせた。


「我々は見たのだ。彼が送ってきた『濃縮液』の品質を。そして、それを作るために彼らがどれほどの知恵を絞り、どれほどの汗を流したかを! ……『伝統』にあぐらをかき、国難を見捨てた貴様にもはやギルドを率いる資格はない」


「そ、そんな……! 私は王国の筆頭錬金術師だぞ!」


ヴィクターがすがるように叫ぶ。

だが、宰相は無慈悲に宣告した。


「安心せよ。既にダニエル・グレイ氏を中心に、新たな組合の発足準備が進んでいる。そこには、今回アレン殿に協力した有能な錬金術師たちも多数参加するそうだ」

「な……ダニエル、だと……!?」

「ヴィクター・アルケミス。貴様をギルドマスターの座から解任し、錬金術師資格を剥奪する。……下がれ」


衛兵に両脇を抱えられ、引きずり出されていくヴィクター。

その絶叫は、重い扉が閉まると同時に断ち切られた。

古い権威が崩れ去り、実力と信頼が評価される新しい時代が始まった瞬間だった。



一ヶ月後。

リバーサイドのアレン工房は、いつもの日常を取り戻していた。

いや、日常の風景は劇的に変わっていた。


「ルーカス部長! 第3ラインの温度が0.5度ズレてます!」

「マニュアルの『項目4-B』に従って補正しろ! 魔力バルブを右に2ミリだ!」


工房内では、ルーカスが的確な指示を飛ばし、若手たちがキビキビと動いている。

俺がいちいち口を出さなくても、システム(マニュアルと組織)が自律的に機能しているのだ。


「……ふう」


2階の執務室からその様子を見下ろして、俺はコーヒーを啜った。


「暇そうね、社長さん」


リリアが窓枠に腰掛け、悪戯っぽく笑いかけてくる。

彼女の胸元には、今回の功績で騎士団から授与された『銀翼の勲章』が輝いていた。もちろん、俺の机の上にも同じものがある。


「暇じゃないさ。……次の準備で忙しいんだ」


俺は机の上の羊皮紙を手に取った。

それは、騎士団長からの直筆の招待状。そして、新しく発足する『王立錬金術師協会』への特別顧問としての招聘状しょうへいじょうだ。


「リバーサイドでの実験は成功した。次はこの『システム』を、王国全体に広げる番だ」


品質管理、業務標準化、サプライチェーン。

この辺境で培ったノウハウを王都に持ち込めば、きっともっと多くの命を救える。

そしてそれは、俺を追放したあの場所への、最高の凱旋がいせんになるはずだ。


「……アレンさん、行くの?」


リリアが少し不安げに聞いてくる。

王都に行けば、また忙しくなる。


「ああ。……でも、一人じゃ無理だ」


俺は真っ直ぐに彼女の目を見た。


「王都に行けば、今まで以上に厳しい戦いが待っている。ギルドの残党や、利権に群がる貴族たち……正直、俺一人じゃ押しつぶされそうになる時が来ると思う」

「アレンさん……」

「そんな時、隣で笑い飛ばしてくれる君がいてほしいんだ。……君がいないと、俺の『革命』は完成しない。……ついてきてくれるか?」


リリアは一瞬きょとんとして、それからパァッと花が咲くような笑顔を見せた。

彼女の目元が少し潤んでいる。


「……うん! アレンさんがどこに行こうと、私が一番近くでエスコートしてあげる!」


彼女は俺の手を強く握り返し、ニカっと笑った。


「行こう、リリア。俺たちの『革命』の、第二幕だ」


窓の外には、どこまでも青い空が広がっていた。

リバーサイドの小さな工房から始まった波紋は、やがて王国全土を巻き込む大波となろうとしていた。


(第2章 完)

これにて第2章「生産システムの確立」編、完結です! リバーサイドでの実績を引っ提げ、物語はいよいよ因縁の地・王都へ。


区切りが良いので、ここからの一気読みもおすすめです。 面白かったら、ぜひポイント評価やブクマをお願いします!

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