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33話 最北端の島

 窓の外を眺めるとだんだん雲が厚くなってきたのが分かる。空はどんよりとした鉛色となり、チラチラと雪が降り始めた。

 室内の気温が徐々に下がり始め、まもなくグリーフハイト港へと到着を暗示する。


「ゼル、そろそろコート着とけ」

「もう着くのか」

「ああ、こっからの寒さには覚悟しておけよ」

 厚手の長袖の上にもっと厚手のコートを羽織り、竜の皮を加工した超防寒手袋とブーツを身に付けた。ゼルも同様の装備を着て準備は万端だ。


「こんな寒い地域なのに港は賑わっているな」

 窓の外を眺めて感心したように言った。姿が変わってもやることは変わらないようだ。

「帝国との唯一の繋がりある場所だから必然的に賑わうさ。北大陸でしかとれない物品が色々あるからな」

 今、俺達が着ているコートの素材は北大陸にのみ生息するモンスターから剥いだ毛皮を使用している。


「間もなくグリーフハイト港です」

 アナウンスから数分して飛空挺は地上へ降りた。忘れ物が無いか確認してから船外へ出る。

 直後、雪混じりの凄まじい冷風が俺の頬を叩いた。普通にモンスターと戦ってぶん殴られるより痛かった。


 すぐにフードを被って対応する。念のためにマフラーを巻いて隠せる所は全て隠した。

 目の周りだけが寒いがこれ以上贅沢は言ってられない。早いところ船に乗らないと、次にいつ船が出向するか分からない。


「マフラー越しにも良い匂いがしてくるな」

 屋台から漂ってくる良い香りに足が止まる。だが船の出発を告げる警笛が辺りに響き、買っている場合ではなくなった。

 降り積もる雪で走りにくいがそれでもを足を高くあげて急ぐ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 今まさに出向の直前、という所で係員がストップをかけてくれた。ペコペコと礼を告げて急いで乗り込んだ。


「なんとか、間に合ったな」

「ああ、しかし雪の中を走るのは結構疲れるな……」


 奥へと進み、人の少ないラウンジで休憩する。長椅子を一人一つ使い、着ているコートの雪を払ってカバンにしまう。

 次にこれらを身に付けるのは早くても明日の早朝だ。だが窓の外を見る限り、吹雪のせいで到着は少し遅れる可能性がある。


「飛び入りで部屋が取れなかったのが残念だな。今夜はここで過ごすことになるぞ」

「暖房が効いてるし、そこまで心配する事もないだろうよ」

 ゼルがブーツを脱いで長椅子に横たわる。ほとんど人のいないラウンジだからこそできる事だ。


 他の乗客との距離は十分に開けているから文句を言われる心配もない。俺も彼女と同じようにブーツを脱いだ。

 そこそこ硬い椅子に背中を乗せて天井を見つめた。


 天井からぶら下がっているランプは、船が揺れるのに合わせて左右にゆらゆらと動く。

 まじまじとそれを見ていたら、いつの間にか眠気が訪れていた。


 隣のゼルは既に寝息をたてていた。このまま俺まで眠ってしまうと、その間荷物の見張りがなくなってしまう。

 そう思って起き上がった。頭を振って眠気を覚まし、腕を突き上げて関節を鳴らす。


 それでも心地よい揺れは絶え間なく続き、俺を眠りへと誘おうとする。

 背もたれに身を預けていたら眠ってしまいそうになった。かくなる上は立ち上がるしかないだろう。


 よっこらせ、と爺臭くゆっくり立った。小さい欠伸を吐き出して窓に近づく。

 外と中の温度の違いのせいで窓は白く濁っていた。袖で拭き取ってようやっと外が見えた。


 どこを見渡しても海と雪と流氷ばかりだ。珍しい生き物でも姿を現さないかと少しだけ期待して窓に額をくっつける。

 ひんやりとした額を押し付けると全身の眠気がすっと落ちたいた。


「しかし凄い吹雪だな……」

 と、自分の呟きに閃きのランプが頭に灯った。ゼルのを含めた全てのカバンを抱えてラウンジから甲板に出ようとした。


 両開きの重い鉄の扉をの取っ手握ったが、開く気配はない。ありったけの力を込めてみたがやはりダメ。

 鍵がかかっている訳ではなさそうだが──首を傾げていると取っ手の上に文字が浮かび上がった。


《外は猛吹雪のため、結界にて閉鎖しています》


 ──なるほど、どうりでビクともしないわけだ。冷たい扉から離れて元の席に戻る。

 やる事がなくなると、やはり眠くなってくる。しかし眠れば荷物が盗まれるかもしれない。

 と、ここで俺は先ほどの看板に書いてあった事を思い出した。


「そうか結界を張ればいいのか」

 荷物を一ヶ所に集めて手で簡単な円を床に描いた。結界魔法は全く知らないが、超初級の結界なら俺でも張れる。


 さっさく荷物を床に置く。手をかざして簡単な詠唱をした。指先から糸がシュルシュルと伸びていく感覚。

 見えない糸がぐるりと荷物を囲んだ。これで俺か、俺よりも結界魔法が上手い奴にしか触れる事ができなくなった。


 これで安心して眠れる。靴を脱いで荷物の隣にキチッと並べる。ソファに仰向けに寝転がり、目を閉じた。

 柔らかな振動が優しく夢の中へ連れていった。

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