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32話 北の港

 翌朝、大欠伸と共に起床する。枕に顔を押し付けてぐっすり眠っているゼルを揺り起こす。

 モゴモゴと何かを言いながら寝返りをうって目を開けた。


「……もう朝か」

「そう朝だ。さっさと起きて支度しろ。これから忙しくなるんだから」

「ああ……起きるとも。でも後五分だけ寝かせてくれ……」

 そう言って再び布団を被った。いつもだったら笑って許可するところだが、今はそんな余裕はない。


 ディアラが何かしでかす前にリーザスを殺し、ディアラも抹殺しなければならない。

 無理矢理布団をひっぺがして太陽の光を強制的に浴びせる。ゼルはしかめっ面をしたが、流石に明るいと寝られないだろう。


 不機嫌そうに起き上がり、俺と同等の大欠伸をかます。

「ディアラが世界を滅ぼすとでも思うのか?」

「いや……スフィアと魂を集めてたし、何かしでかすんじゃないかと」


「意外と心配性なんだな。しかし安心しろ今の私は完全体。フルで力を送ったとしても問題ないように力を扱えるのさ。な、負ける理由が無いだろ?」

「確かに、そうだな。今はリーザスに集中しよう──おっと寝かさないぞ」


 安心したところでお休み、と小さく丸まったゼルを無理矢理外に連れ出す。

 里から組んだ来た水をゼルの顔に掛けてやると、ビクッと驚いて飛び起きた。


「安心したからと言って二度寝はさせないぜ」

「いいじゃないか……私はまだ眠いんだ……」

「飛空挺でいい部屋とってやるから、向こうで寝てくれ」


 もそもそとゆっくり立ち上がって水の張ってあるバケツの中に顔を突っ込んだ。

 数秒間顔をつけたまま耐え、バシャッと一気に引き上げた。

 濡れた髪を絞って大雑把に拭き取る。


 改めて彼女を見つめると、大人になったんだなぁとしみじみした。

 あどけない表情のゼルは消え、今やキリッとした美女になっていた。

「何だ? 私の顔に何かついているか?」

「大したことじゃないさ。ただ、大人っぽくなったと思ったんだ」


「魂が全部還ってきて、私の肉体は全盛期だった二十三歳の頃のものになってるからな」

「俺よりも年上になったのか」

「歳が逆転したからと言って、私達の関係が変わる訳じゃないからあまり気にするな」


 それから簡単な朝食をとって出発の準備を整えた。馬の手綱を握り、森へ踏み出す。

 モンスターを見かける事はあれど、俺達に襲いかかってくる様子はなかった。


「何で襲ってこないんだろうな」

「楽でいいじゃないか。ただ私の考えを言うならば、昨夜の戦闘を見ていたモンスターがいてその情報を他に伝えてユーリィには近づくなとなったとか」

「クレーターだらけで誤魔化すの苦労したしなぁ」


 ディアラが去った後、倒れた木々や陥没した大地を見に来た竜人達に色々と訊かれてボロがでないように嘘をつくのは大変だった。

 終いには疑いの余地を残しながらも、渋々と納得してくれた。

 申し訳ないとは思うが、向こうから襲ってきたのだから仕方がない。


「北の帝国に行くのはいいが、リーザスは始末するんだ? 家族の話だと、経歴を使って軍の役職につくと言ったそうだが」

「そうなると簡単に手出し出来ない、か」

 少し思案した後、何とかなるだろうと言った。呆れたように溜息をついたゼルだが、特に文句はなかった。

 町に戻って店主に馬を返す。馬は名残惜しそうに俺らを見つめていたが、軽く手を振って別れを告げた。


「で、北に渡る前に問題がある。向こうはめちゃくちゃ寒い。南大陸にいる間は滅多に寒くならないからコートとか買う必要がないけど、行くからには防寒具を買うぞ 」

 俺の分のコートはあるが、ゼルに合うサイズのコートはない。貸し馬屋の通路の反対側に服の店がある。


 人の波を抜けて手袋やマフラーなんかを二人分買い込む。ゼルが手に取ったコートは厚手の革製のコートだった。

 裏側にはモコモコと暖かそうな毛が縫い付けてあった。

 見るからに温かそうなコートだ。


「うん、これがいいな」

 その場で試着してみるとかなり似合っていた。真っ白いコートが彼女の黒髪によく似合っている。こうして見ると先程より一層大人っぽく感じられた。


「ありがとうございましたぁ」

 代金を支払って外へ出る。ゾロゾロと同一の鎧兜をまとった一団が通り過ぎていった。


「あれは……なんだ?」

「南大陸最大の王国、サントランジェスの騎士団だな。こんな辺境に何しに来たのかは大方予想がつく」


 サントランジェスには最新の魔力検知器がある。それは南大陸全体の魔力を計り、ある一定以上の数値が出た地域を表示する。

 そして、そこで何が起きたのかを調べるために騎士団を派遣するのだった。


 さらに騎士団の中にも階級があり、先ほどすれ違ったリーダー格の奴は鬼を象った兜を被っていた。そこそこ最重要な任務を任されている。

 恐らくだが、あの戦いの跡を調べに来たのだろう。

 連絡がいってからそんなに経っていないだろうに、ご苦労な事だ。


 そんな彼らを尻目に俺達はグリーフハイト港行きの飛空挺に乗船する。

 北の帝国へ行くには南大陸最北端にある港から普通の船に乗らなければならない。


 その昔南大陸へ戦争を仕掛けてきた時、戦闘用の飛空挺で痛い目にあったため、今では余程の事が無い限り飛空挺での侵入は禁じられている。

 グリーフハイトまでたぶん半日程度だろう。

 それまでに今後の事をゼルと話し合っておかなければ。

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