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20話 蛇と人と亜人

「あっつ……」

 シャツの袖を巻くって手の甲で額の汗を拭う。地面から香る土の匂いと密林特有の蒸し暑さが俺達の体力をどんどん奪っていく。

 拭いても拭いても際限なく垂れてくる汗を我慢しつつ、ゼルの魂が眠っているであろう遺跡を目指す。


 モンスターもちょくちょく見かけるが、俺達を見ても面倒そうに威嚇して通りすぎるだけだった。こうも暑いとモンスター側もやる気がでないのだろう。

 水筒に入れてきたはずの水は既に底をつき、そこら辺に生えている木の実からしか水分がとれない。


「ゼル、平気か?」

「な、何とかな……他人より自分の心配を心配をしたらどうだ?」

 そう言って強がっているが、足元がおぼつかない。密林に突入してから既に三時間は経過している。精神的に大人でも肉体の方はまだ子供だ。


「ちっ……しゃーねぇ」

 ゼルの脇の下に手を突っ込み持ち上げる。ぷらーんと猫のように伸びる彼女を抱く。

「何のつもりだ?」

「疲れてんだろ、遠慮すんな。お前がバテてちゃ力を借りられないだろ」


「ふん、平気だと言ってるだろう」

「はいはい、後ろの警戒よろしく頼むぞー」

 しかし本当に熱い。夏でもないのにこの気温はおかしい。前に一度だけ来たことがあるがその時はこんなに熱くはなかった。

 水場が見つかればいいのだが。


「確か……遺跡に井戸があったな」

 古い記憶を頼りに疲弊した脳から情報絞り出す。

「本当か……!?」

「入り口の隣に野営できる場所があって、そこに井戸がある。魔法で綺麗な水が半永久的に湧き続けてるんだ」


「ほう、それは素晴らしい! 急げユーリィ! 我々が干からびる前に井戸に着くんだ!」

「おう!」

 水が待っていることに希望を持ったゼルは僅かな体力を使って声高に叫んだ。それに応え、歩む速度をいささか上昇させた。


「ユーリィ、後ろから何かが来てるぞ」

「通りすがりのモンスターだろ」

 どうせ襲ってくる事はないとたかを括って歩き続ける。が、突然ゼルに突き飛ばされた。

 彼女を取り落とし、俺は地面にひっくり返った──直後、先ほど俺の頭があった場所を、黄緑色の塊が通りすぎた。


「な、何だ……?」

 急いで振り返ると、真っ白い体色の蛇がとぐろを巻いていた。大きな黄色い目は俺達が映っているのが見える。

 大抵のものを溶かす酸と剣のように鋭い尻尾が特徴のブレイドテールだ。


「おいおい、あんなデカイのがいるなんて聞いてないぞ……」

 通常サイズなら一般的な成人男性と同等の大きさだが、奴はその三倍はあるように見える。

 遠目からでも分かる程に太い胴体をくねらせて近づいてきた。剣を抜き取り、中段で構える。


「ゼル、頼むぞ」

「任せろ」

 木の陰に隠れたゼルから送られてくる。背中から全身に力が這い上ってきた。

 しかし、それは今までの暴力的な強化ではなく、優しく包み込まれるようなものだった。


 不思議と視界が鮮明になり、蛇の次の行動が見えた。

 毒液を吐いてくる。

 ひどくゆったりと蛇が口を開く。喉の奥から黄緑色の塊が射出された。

 なんなく躱し、一撃で頭を落とそうと走り出した──直後、周囲の茂みから一斉に矢が飛んできた。


 蛇目掛けて飛ぶ矢は、全て尻尾によって打ち落とされてしまう。そしてガサガサと亜人達が飛び出してきた。


 亜人──それは意思疏通が不可能な人間に近しい姿をしたものの総称である。種族名は存在するが、かなりの種類がいるため基本的に亜人で統一されている。

 獣人、竜人も亜人の一種だが、彼らは意思疏通が可能なため、一つの人種として登録されている。


 そして蛇の前に現れたのは、一般的によく目にするゴブリンと呼ばれるやつらだった。

 森や山岳などで集団で生活している種族だ。たまに餌が足りずに人里へ降りてくることがあるが、大抵は人に危害は加えず大人しく暮らしている。

 それとギルドの初心者向け依頼によく貼り出されている。


 とりあえず俺に敵意は無いようで、全員が蛇を取り囲んでいる。あるものは粗雑な槍を構え、またあるものは石でできた斧を携えている。


 ここは彼らに任せて退こうと振り返ると、ゼルが口を塞がれてゴブリンに連れていかれそうになっていた。


「あ! てめッ! 待てコラ!」

 ゼルを抱えたゴブリンは大急ぎで密林の奥へと走り去っていった。俺も追いかけようと走り出すが、何かが背中に当たって前のめりに倒れてしまった。


「くそっ、こんな時に!」

 俺の背中にぶつかったのはゴブリンの体だった。頭部がなく、蛇の尻尾に切られたのだろう。

 戦況を確認すると、ゴブリン達が一方的に蹂躙されていた。彼らの武器は蛇の皮膚に一切通用せず、次々と殺されていく。


 辺り一面が血に染まり、最後のゴブリンが喰われた。蛇らしくごくりと丸呑みした。ゴブリンの形に喉が膨れ、そして腹に到着した。

 そして次の標的は俺だ。


 ゼルを追い掛けたいが、逃げ出しても追い付かれるだろう。だったらここで倒すしかない。

 彼女の力も届かず、久しぶりに本来の俺の力のみで戦う事になった。


「さっさと倒して追っかけなきゃ」

 ゼルに何をされるかわかったものではない。ゴブリンが人を食う事は滅多にないが、極度の空腹状態だと頭からバリバリ食われてしまう。

 それか、ただ単に慰み者にされるか。


 どちらにしろ、早いところ助けないとマズイ。ニヤリ、と蛇が笑ったような気がした──直後、物凄い速さで接近してきた。

 体を捻った尻尾による一撃を剣の腹で受け止める。

 体が大きいぶん、力も強い。刃を滑らせて後方へ飛び下がる。


「狙うは頭一択……!」

 頭を落とせば如何なる生物でも死に至る。たまに頭が複数あったり、頭が取れても生きているような奴もいるが。

 だがブレイドテールは蛇がモンスター化したものだ。頭部を失えば絶対に死ぬ。


「すぐに決着をつけてやる」

 自分に言い聞かせ、しっかりと剣を構える。互いに睨み合い、俺が先に動いた。

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