表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/46

21話 猫被り

 強く地面を蹴って一歩で蛇の頭に刃が届く位置まで踏み込む。速さの乗った一撃が蛇の首に突き刺さった──と思ったのだが、まさか尻尾に割り込まれるとは思わなかった。


 剣を弾かれて大きく体が傾く。そこを逃すはずがなく、ブレイドテールの鋭い尻尾の尖端が槍のように突き出された。剣での防御は間に合わない。

 しかし、左手は動く。タイミングを見極め、がっしりと尾を掴み取った。


 あまりの鋭さに掌が少し切れた。血のせいで手が滑るが、それでも尻尾は離さない。

 人間如きに自慢の尻尾が止められた事に納得のいかないブレイドテールは超至近距離で毒を吐き出した。


 今度は塊ではなく、全方位に吐き出しでとにかく当たればよし、という意図の込められた雑な散布だった。

 前転で蛇の背後に回り込み、剣を振り上げる。しかし自由になった尻尾が再び割って入ってきた。


「ちっ……厄介な尻尾だな……」

 刃物のような尻尾と打ち合うのは分が悪い。夢中になっている隙に毒を吐かれたら終わりだ。

 何としても尻尾を掻い潜り、奴の頭、または胴体に刃を届かせなくては。


「ん……?」

 肘の辺りに違和感を感じて見ると、服が溶けていた。さっきの前転でかかってしまったのだろう。その辺りを破って捨てる。

 他にもないかと探している間に、蛇が凄まじい速度で尻尾を突きだした。


 当たれば内蔵が全て持っていかれるレベルのものだ。剣で受け止め、二度目の力比べが始まった。

 剣の腹で止めているが、徐々に後ろへ押されている。いつまでもこうしていたら、武器が真ん中から砕けて死んでしまうだろう。


「……っ!」

 身を捻って刃を滑らせる。障害物の無くなった尻尾は虚空を貫いた。奴が防御に尻尾を使えるようになるまで、もう少し時間がある。

「はああッ!」


 全体重を乗せた強烈な突きがブレイドテールの首を貫通した。剣を引き抜くと刺突箇所から血液が噴き出した。


 ほぼ死は決まったというのに蛇はまだ諦めない。瞳を爛々と輝かせて毒を口から垂らしながら迫ってくる。

 せめて道連れにしようとでもいうのか。


「悪いけどお前に付き合ってる暇はないんだ」

 これ以上暴れさせないために首を落とそうと横凪ぎに剣を振るう。三度、尻尾に阻まれる。

 スパッと切れて短い方がビクビクと跳ね回った。


 先ほどまで本気で打ち合っても切れなかった尻尾が、突然切れたのにはワケがある。

 外装は鉄よりも硬い鱗に覆われているが、中身は通常の蛇と同様に柔らかい。

 そこで血液を尻尾に送り込むことでガチガチに堅くなり、剣のように振り回すことができたのだ。


 だが今は瀕死状態。その機能を満足に使えないまま剣を受ければ切られるのは当たり前だ。

 万策尽きたのか、ただ闇雲に突進してきた。


 なんの捻りもない攻撃など避けるのは容易い。今度こそ首を叩き切り、蛇を殺す。

 返り血で汚れた頬を手の甲で拭いつつ呼吸を調える。

 剣を払って血を落とし、鞘に納めた。


「ゼルがいなくてもまだ戦えるな……」

 この程度のモンスターなら彼女に頼らずとも勝てる。ただ、それがいつまで通用するかだ。

 いつかゼルに頼りきりになる可能性もでてくる。

 そうなる前にもっと強くならなくては。


「で、アイツはどこに連れていかれたんだ?」

 ゴブリンの通った道には、草が踏み倒された痕があった。つまるところ、この痕を追っていけばいつかはゼルにたどり着くはずだ。


 罠の可能性は限りなく低い。知能の低いゴブリン達が落とし穴だの、別の道に誘導だの、そんな高度な罠を仕掛けてくるわけがない。

 急いでゴブリンが残した痕跡を追いかける。


 しばらく走ると、開けた場所に出た。どうやらゴブリン達の集落のようだ。しかし、見張りどころか、誰一人見当たらない。

 剣を抜いて集落に足を踏み入れる。


 簡単な造りの家が建ち並ぶ中、血溜まりがいくつも見つかった。

 まさか、と最悪の想像が頭をよぎった。しかし、あのサイズの少女の血の量にしては多すぎる。

 それなりに大きいオーガ等を捌かない限りこんなに血は出ないはずだ。


「ゼルグリアー! どこだー!」

 大声で呼びながら屋根の上によじ登る。生き物の気配のしない集落で一体何があったというのだろうか。


「あれは……」

 木の柵にちょこんと座っているゼルグリアが手を振っているのが見えた。それなりに視力の良い俺は、彼女の周りにゴブリンの死体が大量に転がっているのが確認できた。


 屋根から降りてゼルのもとへ駆け足で向かう。彼女に近づくにつれて、血の臭いが強くなっていった。

 ピチャピチャと血を跳ねさせないように慎重に足を出す。


「遅かったじゃない」

「まぁ、ちょっと手こずってな。……で、何があった?」

「捕まったの、見てたろ? ここに連れてこられて、食われかけたんだ。もちろんただで食われる訳にもいかないから抵抗してね。向かってくる奴ら全員皆殺しにした」

 ゼルの握っている肉切り包丁が鈍く光る。


「お前、戦えないんじゃないのか?」

「私が『戦えない』なんて言ったか? ユーリィ基準だと弱いけど、ゴブリン程度なら余裕で狩れる」

「なるほどね……普段人を食わないコイツらがゼルを拐ったのって、あの蛇が原因か?」


「おそらくな。蛇のせいで食料が満足に取れず、人を襲うようになったか。それで、限界がきたから蛇に特攻を仕掛けた。で、ちょうど手頃な私がいたから拐った──そんなところだろうな」


「そうか……そうか……お前は猫を被ってたんだな」

「猫被りだなんて人聞きの悪い。私は可愛い女の子だぜ?」

「どこに返り血にまみれてゴブリンを殺しきる女の子がいるよ」


「ふふ、まあな。さあ、遺跡目指して進むぞ!」

 言いながら、予備の服に着替える。体についた血は取れないから仕方がない。

 遺跡前の井戸で洗えばいいだろう。

 着替えを終え、集落の中心から見える遺跡に指を向けてゼルが歩きだした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ