撃退戦4
「ラルグスさーん! リルダー!?」
奇跡的に無事だった海の家まで走り、海面に向かって名前を叫ぶ。すると、海岸の端に顔がぴょこんと出てきた。
「あ、良かった! ちょっとこっちへ!」
声を掛けると、ラルグス達は再び海に戻った。そして、海の家の傍にポコポコと顔が出てくる。一気に五十人くらいが出てきて思わず驚いてしまった。
「え!? こんなにいたの!?」
反射的にそう尋ねると、ラルグスが深く頷く。
「今回は我々の故郷を守る大事な戦いだ。二百人の戦士を連れてきている」
「そんなに!?」
驚愕である。だが、ラルグスは何でもないことのように首肯した。
「我々とて、この海に長く生きてきたのだ。一部を除けば敵はいない」
「な、なるほど……あのヒュドラとか化け物鯨でなければどうにかなるということかな? それじゃあ、そんな勇敢なラルグスさん達にお願いがあるんだけど」
「む? 何だ?」
お願いをしようと思ったら、ものすごく前向きな表情で話を聞いてくれた。いや、本当に人魚たちは素直である。
そんなことを思いつつ、ウッドブロックを使って通常サイズのクロスボウを作っていく。
「この武器を使って、遠くからヒュドラを攻撃してもらいたいんだ」
そう尋ねると、クロスボウを手にしたラルグスが真剣な顔で目を細めた。出来たばかりのクロスボウを両手に持って顔の前に持ち上げ、眉根を寄せている。
「……効果はあるのか」
「少しでも動きが止まれば大丈夫なんだけど」
間違いなく危険だし、ヴァン君特製クロスボウの威力を知らないと不安にもなるだろう。これは難しいか。そう思っていたのだが、ラルグスは静かに顎を引いた。
「……分かった。やってみよう」
「本当!? ありがとう!」
ラルグスの返事を聞いて笑顔でお礼を口にする。それに、ラルグスは首を左右に振った。
「こちらこそ……我々の為に命を懸けて戦ってくれているのだ。どんな協力も惜しみはしない」
ラルグスはそう言って、リルダ達に振り返った。簡単に作戦を伝え、一人の若者にクロスボウを持たせる。見るからに泳ぎが速そうな筋肉質の若者である。それを見て、すぐに矢も作っていく。
「クロスボウの弦を引いて、ここに矢を乗せる。そしたら、ここを引いて発射。大丈夫かな?」
そう尋ねると、ラルグス達は深く頷いた。それを確認してから矢を作っていく。
一方、ラルグスはオルト達を追うヒュドラを睨み据えた。
「危険だが、勝負せねばならない時だと思っている。皆、全力で挑んでもらいたい」
ラルグスがそう言うと、人魚達は悲壮な表情で頷く。水中であのヒュドラと相対する恐怖。想像するだに恐ろしい。
だが、どうにかヒュドラの動きを止める必要がある。オルト達やアルテの人形で翻弄したところで、激しく動くヒュドラを正確に捉えることは出来ないのだ。
「……よし! それじゃあ、急いでクロスボウを作っていくね! よろしくお願いします!」
そう言ってウッドブロックをどんどんクロスボウと矢に変えていくと、ラルグスが若い男達に順番にクロスボウと矢を持たせて指示を出していた。次々に人魚たちが現れて武器を持っていくので、作る時間の方が足りないくらいだ。
水中で見たら面白いだろうな、などと思いつつ、二十個目のクロスボウと四十本分の矢を作成して手渡す。それでもまだまだ足りない。集中してクロスボウを作っていると、ヒュドラを警戒していたリルダが「あっ」と声を上げた。
それに顔を上げて視線を向けると、ヒュドラが戻ってこようとしているではないか。
どうやら、オルト達が一時的に森に避難したようだ。まぁ、あれだけ追いかけられたら仕方がない。
「い、一時中断! 避難するよ!」
慌てて立ち上がってそう言うと、アルテが首を左右に振って前に出た。
「い、いえ! 私が!」
そう言うと、素早く新しい人形を走らせる。まるで風のような速さで走る人形に、ディーが目を丸くして笑う。
「おお! これは速い!」
嬉しそうに人形の動きを目で追うディー。一方、人形は瞬く間にヒュドラに接近し、飛び上がった。一度の跳躍で十数メートル以上高く飛び上がった人形は、勢いそのままにヒュドラの頭の一つに斬りかかる。
人形のあまりの速さに、ヒュドラは回避が遅れた。右腕を左から右に向かって切り払い、ヒュドラの片眼から鮮血が舞う。これにはヒュドラも絶叫して身を捩らせる。
それを見て、ディーが追撃の為に走り出す。去り際、カムシンに向かって片手を上げて叫んだ。
「カムシン! ヴァン様の護衛は任せる!」
「は、はいっ!」
ディーの言葉にカムシンは大きな声で返事をする。実際には巨大な相手と戦うのは難しいと判断してのことだろうが、カムシンは気が付かずに剣を握り締めて覚悟を決めている。
皆が守ってくれる状況を見て、改めて僕はその場に座ってウッドブロックを手に取った。
「ティル! 追加でウッドブロックを運んでもらって!」
「は、はい!」
ティルに指示を出しながら、僕は大急ぎでクロスボウ作りを再開したのだった。




