撃退戦3
最強大型クロスボウを手渡され、オルトとクサラは泣きそうな顔で砦から出て行った。彼らならやってくれると信じている。
「さて、アルテの人形は……」
オルトとクサラの次はアルテの人形である。ということで、早速ウッドブロック四つを使って作ってみた。求めるのは、相手から捕まらない速度と無視できない攻撃力の両立だ。それを追求した結果、とんでもなく奇妙な人形が誕生した。
「……あ、あの、ヴァン様……?」
アルテが困惑した様子で僕の名を呼んだ。いや、待つんだ。説明させてくれ。
「……言いたいことは分かるよ。でも、アルテ。聞いてくれ」
そう告げてから、出来たばかりの人形を見た。細すぎる体はともかくとして、妙に長い四肢。特に、手は三メートル近い。身長が三メートルくらいなので、地面に着きそうなくらい長い。そして、その両手が剝き身の長剣となっていた。
「動かしやすいように人間に近い体型でありつつ、極限にまで軽量化したボディ。そして、手を長くして刃を付けたお陰で、両手そのものが剣として使えるようになったんだ。見た目は怖いかもしれないけど、相手を翻弄するという意味では最強の人形に……」
色々と言い訳めいた説明をしながら、アルテの様子をちらりと確認する。しかし、その表情はあまり優れなかった。
「……よ、よし! それじゃあ、簡単だけど服とマントを装着しよう!」
アルテに何か言われたわけではないが、自分から進んで改良を申し出る。可愛らしい模様をつけた服とマント、ついでにつばの広い帽子も作ってみた。それらを装着してみると、少しは人間らしくなったような気がする。どうしても長すぎる四肢と長剣になった両手が気になるが、それでも先ほどよりはマシなはずだ。
それを見て、アルテがホッとしたように頷く。
「あ、これなら……」
「え? 大丈夫?」
意外と好感触だったことに驚いて聞き返すと、アルテは微笑を浮かべて人形を見上げた。
「はい。裸ではないので」
え? そこ?
そう思ったが、そんなことを口にすることはない。アルテが納得してくれたのなら良いのだ。今は重要な戦力を得たことを喜ぶとしよう。
「……おい、少年。その殺戮人形みたいなのは……」
「パナメラさん! シッ!」
「お、おお……」
屋上から降りてきたパナメラがアルテの人形に、何か不穏な感想を漏らそうとしたので、慌てて制止しておいた。アルテの士気を下げないでほしい。
パナメラが素直に従ったので、人形の試験運転をしているアルテは何も気づかずに手足を動かしたりしていた。それを横目に、パナメラと一緒に降りてきたディーを見る。
「ヒュドラは?」
「あれからバリスタによって矢を八本撃ちこみ、魔術による攻撃も複数回行いました。お陰で海に逃げ込んだ状態です。しかし、明らかにすぐ近くの海の水面が暗くなっているので、まだ近海にいて様子を窺っている、といったところでしょうな」
ディーは簡潔に報告すると、アルテの操作する人形を見上げた。
「ほほう。これは強そうですな」
「そ、そうでしょ? とりあえず、アルテの人形とオルトさん達がヒュドラの注意を引く予定だから、それを確認してもう一回バリスタと魔術で攻撃してくれる?」
「はっ! お任せください!」
ディーはそう言って再び部下たちに命令を伝達して準備に入った。バリスタの矢も準備しておいた方が良いな。在庫がなくなれば攻撃が遅れてしまう。
「後は、ヒュドラの海中での動きを止める手段かな?」
矢を生産しながら独り言を呟くと、ティルとカムシンが傍で首を傾げた。
「あのヒュドラを止める方法なんてあるんですか?」
「……大きいですよ?」
二人の質問に、軽く頷き、立ち上がる。
「ちょっと人魚さん達の協力が必要だけどね。一時的にヒュドラが身を隠したなら、今のうちに行動しておこうか」
そう言って、さっそく作戦を伝えにディーの下へ向かった。
砦の両開き扉をそっと開けて海の様子を見てみる。扉の隙間から顔を半分だけ出すのも恐ろしかったが、海は静かに見えた。
「……大丈夫かな?」
小さな声で呟きながら顔を出し、周りを確認してみる。ヒュドラが地上に上陸しているとは思えないが、それでも何となく気になったのである。
それを見ていたわけではないだろうが、まるで海から視線を外した瞬間を狙ったように海面が爆発した。
実際に爆発したわけではない。ただ、爆発としか言いようがないような激しい音と共に、巨大な水柱が発生したのだ。それにビクリと飛び上がって驚き、視線を海に戻す。
十の目と同時に目が合った気がした。
皆が砦の中に隠れていたからだろうか。獲物を見つけたヒュドラがこちらに向かって雄たけびを上げる。
その時、ヒュドラの頭の一つが横にズレるように動き、すぐに仰け反って叫び声をあげた。
「へいへーい! こっちですぜ、こっち!」
クサラの声がどこからか響き、ヒュドラの顔がすべてそちらに向かう。
「や、やばい! 逃げやすぜぇえええっ!?」
「馬鹿! 挑発するからだ!」
クサラとオルトの賑やかな声が聞こえてきた。今がチャンスだ。ディーを先頭に、僕たちはいっせいに砦から飛び出したのだった。




