008 部活へ入ろう! ~剣道編-1~
はいどーもー。毎度おなじみ、魔女のレアリー・ホワイトウェルです。
今日の私は、幼馴染の蛍と一緒に、校舎内の探検に来ています。 いえ、単なる部活めぐりなんですけどね。
ことの発端はお昼休み。
「ふぁぁーーーあ」
お弁当を食べ終わった私は、机に突っ伏して大きなため息を吐いた。この世界についてから、何度同じようなことをしただろうか。
魔法陣復元の目処は立たないし、マナは薄くて息苦しいし。おまけに学校の勉強は激ムズときたもんだ。
歴史がわからないのは仕方ないにしても、なにあれ、理科だの数学だのってやつ?
この世界の一般人って、あんなに難しいのをすらすら解けるわけ!?
いくら文明の差があるとはいえ、私はかなりの劣等感を感じていた。これでも前の世界では天才魔術師の名を欲しいままにしていたというのに。
ああ、そういえば面白いことが一つあった。
英語とかいうやつ、あれは私たちになじみ深い魔法文字に近い。特に古英語とかいうやつには共通点が多かった。
もしかしたらその昔、イングランドとティルナノーグの魔術師とは、交流があったのかもしれない。
そう思うと、神秘的なものを感じてしまう。
最近の私は、考え方が変わってきた。
この世界は魔術師には暮らしづらいというだけで、とてもいい世界だ。興味深いものもたくさんある。
転生にしたって、別に急ぐことはない。落ち着いたら、世界を回る旅に出てみようか。
そんなことを思いつつ、うつらうつらしていると、何を勘違いしたのか蛍が声をかけてきた。
「青海ー、部活なんにするか迷ってるの? 一緒にいくつか回ってあげようか?」
ぶ・か・つ? 私は蛍の目線の先を追う。
私の手に握られているのは、魔法陣をぐるぐるぐると書きなぐったプリント。ああ、今度カエルでもぶちこんで試してみようかと思ったやつだ。
私は目をこすりつつ、プリントを裏返す。……うむ、確かに『部活動紹介』と書かれているな。
「そういえば、何でもいいから入れと先生が言っていたな」
「そうやねー。何か興味ないの?」
「うーん、剣道とやらが気にはなるが……」
私の言葉に、蛍は変な声を出す。
「は? え? なんで今になって剣道? 前から私が誘ってるときは、やらなかったのに?」
「え? 誘った?」
「……忘れたわけじゃないよね。私、小学生のときから、ずっと剣道してるんだけど」
「……もちろんだ、覚えている」
しまった。墓穴を掘ってしまったようだ。蛍のジト目が痛い。
「……実は蛍に負けるのが嫌で、隠れて修行していたんだ」
修行していたのは本当だ。魔法だけだと戦いの幅が狭くなるしな。身長の関係で、使用していたのは短めの剣やナイフが主だったけれど、そこらの剣士をあしらえる程度の腕はあるはずだ。
「あ、もしかして、私が高校じゃ剣道しないって言ったから?」
「ん、辞めるのか? もったいない」
はー。蛍は深いため息を吐いて、あきらめたように言った。
「もういいわ、行こうよ」
こうしてやってきたのが、体育館裏にある武術道場とかいう場所だ。見学だと言えば、喜んで奥へ通してくれた。
蛍は顔見知りもいるらしく、向こうで上級生らと語り合っている。
奥の方では畳という伝統的な床材の上で、組手を研究している者たちがいた。徒手での戦いは専門外だが、どちらにしても、これは――
私は思わずつぶやいていた。
「これが剣術か? レベルが低いんだな」