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11話

 仕方なく、とっさに目に入る階段に足を伸ばす。歩道橋だった。これで急いで向こう側に渡ろう。


「ほんと早すぎ」


 しかし考えてみれば、歩道橋なら後からもついてこれるわけで、全然足止めになっていない。


「も~~」


 階段を二段飛ばしで駆け上がり登りきる。クイックターンで左折して橋を渡る。すると、いきなり後ろに引っ張られた。

「ハァ、ハァ……捕まえた」

「は、離してよ」

「いーや、離さない。何で逃げるのさ?」


 顔が近い。わざとなのかと怒りそうになる。けど恥ずかしいのが優先して何も言えなくなる。結局、ヒロ君が教室で紹介されたときに騒いでいた女子と、私は一緒なのかもしれなかった。けど……。


「返事……聞かせてよ」

「そ、そんなの言えるわけない」

「どうして? 僕のこと嫌い?」


 反則だ。こういう訊き方はとてつもなく反則だ。レッドカード退場レベルだ。そんなこと言われたら嫌いなんて言えるわけない。


「嫌い……じゃないけど」

「じゃあ……好き?」

「えと……」


 正直なところ、好きになっちゃのかもしれない。怒ってくれたのも少し嬉しかったし。一緒にいたら……けっこう楽しいし。

 けど、朧気でも昔を覚えているヒロ君を好きと認めるのは何か許せない。


「うん、嫌いじゃない……っ!!?」


 と、誤魔化すつもりだった。けど突然の出来事に戸惑ってしまう。すぐ目の前に、ヒロ君の顔があった。それもかなり近くて、私の唇は何かに触れていた。それがヒロ君の唇だったと気付く頃には、既に事が済んだ後だった。


「……ぁ……」


 指先で自分の唇に触れる。まだ感触がある気がした。それからやっと、事の重大さに気づいて、慌てた。けど、その時にはもうヒロ君の腕に包まれていた。


「僕じゃダメかな?」

「……」


 何だか、かなりしてやられた感がある。実際キスされたわけなんだけど。でも、それが自分でも意外に効果的だったみたいで、陳腐なプライドは消え失せたようだ。


「……ダメかな?」

「……う、うん」


 抱かれたままうつむいていて届かなかったようだ。ヒロ君が訊き直す。


「え!?」


 とても恥ずかしいけど、顔を上げて伝えようとした。


「……だから、よろしくって……」


 するとそこには、ニヤニヤした表情が見えた。聞いた。これは絶対確かに聞いていて、もう一回言わせようとしているに違いない。


「も、もう知らない」

「え、ちょ……!?」


 私は抜け出して一人で歩き始める。後ろからヒロ君もついてきた。


「聞こえなかったんだって。ね、もう一回」


 横に追いついて、手を合わせながらお願いしてきた。けど無視した。懲りずに何回もお願いしてくるもんだから、仕方なくもう一回だけならと思ったんだけど。


「ハルちゃんってさ。押されるとかなり弱くなるよね」


 とか言い出したからもう絶対言わないことにした。ヒロ君のくせに生意気だ。久々にアレでもしてやろうかと思う。


「あ……」


 ふと思い出したことがある。


「何?」

「そうえいば、昔に何の約束してたか聞こうと思ってたんだけど」

「あぁ。あれね。別に気にしなくてもいいよ。もう守ってもらえたし」

「え? 何かそれ、すっごく気になるんだけど!」


 幼馴染のヒロ君は、見た目は昔と変わってるくせに、でもどこか懐かしく思える面影があった。急に遠くへいなくなっちゃって、また急に戻ってきた。あの頃はこうなるとは思わなかったんだけど、今では……一応彼氏になりました。

 いやでも、少し納得しない気持ちが残ってはいる。だから、素直になれそうなのはもう少し先になりそうである。












§





 やっぱり忘れてた。まぁ覚えてる僕の方がどうかしてるのかもしれないけど。


 引越しの日。僕は幼いながらもハルちゃんが大好きだった。初恋に類すると思う。これで会えなくなると思うと、とても寂しくて、勇気を振り絞って好きだって言った。


「うん。私も好きだよ」


 必死で耐えてたみたいだけど、少し泣いてるのが僕にも分かった。でも、僕が言いたいことと、ハルちゃんの言ってる意味は全然違った。


「そうじゃなくて……僕は、その」

「ヒロ君のくせに生意気。……せめて私より背が高くて、ヒロ君からキスできるくらいになれたなら付き合ってあげてもいいよ」

「分かった。約束だよ」

「うん。約束」


 今思えば随分とマセた約束だった。けど、会ってみたらハルちゃんは随分と背がちっちゃくて、僕は少し焦ってしまった。ほとんどの男が候補に入るんじゃないかと。それはやはり杞憂だったけど、付き合ってる奴がいたと分かってまた胸がざわついた。


「ちょっと歩くの速い」


 後ろから小走りでハルちゃんが駆けて来る。背はこんなに小さいのに、足は速いから兎のようにも思える。こんなことを言ったら、また怒られそうだ。


「じゃあ、運んであげようか」

「……いいよそんなの」


 顔を赤くしてしまった。どういう運ばれ方を想像したのか知らないけど、かなり押しに弱くなっちゃたなと思った。でも可愛いのでもうしばらく楽しもう。

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