男は巻き込まれた。
つたない物書きの書いた話ですが、よろしくお願いします。
大変お待たせしました。2話目になります。
視界いっぱいに広がる白色。ズキズキと痛む頭を少し浮かせれば、どうやらここは病院らしい。はて、自分はなぜこんな所にいるのだろうか。記憶を辿ろうとしても頭の痛みが邪魔をする。ジリリリという目覚まし時計のような音が頭の中で響く。
「津川さん!」
急に後ろから掛けられた声に振り向くと、1人の女性がヒールをカタカタ言わせながら焦った様子で近づいて来ていた。時刻は13時を少し回ったところ。フルメール駅前広場の時計塔の前に13時15分。時間には少し早いが恐らく待ち合わせの相手は彼女で間違い無いはずだ。
「姫野さん。お早いですね。」
「いえ。お待たせしてしまってすみません。」
土曜日だと言うだけあって、駅前は人が多い。私は決して背が高いわけではなく、かと言って低くもなく。服装も極普通のスーツとどこをどう取ってもただのサラリーマンである。この雑踏の中、特に特徴のない私の姿を見つけられるのは流石と言うものだ。
「では、行きましょうか。イタリアンは大丈夫ですか?」
栗色の長い髪にウェーブを入れ、シンプルな明るい色のスーツを着こなした彼女は花が咲くかのような笑顔を浮かべ尋ねた。
あたかも知り合いかのように待ち合わせをした私達だが、実際は全くの赤の他人である。今も食事をしつつ、たわいもない話をしているかのように見えるが実際は違う。この際はっきり言ってしまおう。私は秘密情報工作員、所謂スパイというやつだ。姫野さんは今回の情報提供者。恐らく姫野と言うのは偽名だろう。無論、私の津川というのも偽名である。
「ターゲットは現在佐藤賢治と名乗っています。運送業者に扮しこの街に二日間滞在予定。明日の早朝に出発するでしょう。」
私は手渡された写真を見る。視線があっていないところを見ると恐らく盗撮だ。時計を見ると時刻は13時45分。お互いの仕事上、あまり長時間一緒にいるのも宜しくない。忙しないが用件は済んだのだ。ここいらでお暇しよう。
「ご協力ありがとうございました。」
「いえ、これが仕事ですから。津川さんはこの後どうされるのですか?」
「そうですね。まだ時間はありますし、折角ですからこの街の観光でもしますよ。」
なんて言ったが、そんなことをしている暇はない。ターゲットの確認、監視を始めなければ。店の外は案外人が多い。姫野さんと簡単に別れを済ませた。あ、因みに相手の分を払ったりなんかはしない。こういう些細なことでも貸し借りとして命に関わることもあるからだ。
この街の大きな通りは2つ。サンミラノ通りとルナカルレ通り。身を潜めるなら裏道の方がいいのではないかと思われがちだが、運搬業者のトラックがそんな所に長時間止まっている方が怪しい。恐らく、ターゲットはこのどちらかの通りにトラックを止めているはずだ。
「今いるのはサンミラノ通りの方か。」
さっさと見つけよう。これで人違いだったり、急に姿を眩ましでもされたらたまらない。
見ているフリをしていたスマホをポケットにしまい、歩き出して数歩。ジリリリというけたたましい音と共に体の浮く感覚がした。
「ーーという事故があったんですよ。記憶にありませんか。」
医者と看護士から自分の状態と経緯を事細かに聞いたが全く思い出せない。バスの爆発事故に巻き込まれ、記憶まで失うとは運のない。自分は津川清という名だと言うことが焼け焦げた免許証から辛うじて分かっただけでも幸いか。
でも、きっと心配した家族や友人、仕事仲間が来てくれるに違いない。それまで、ほんの少しの辛抱だ。孤独なのは一瞬だけ。
どこか底知れない不安を抱えつつ、私は枕に頭を落とした。ジリリリという音はまだ、鳴り続けていた。
別れとはいつも辛いものです。
人との別れも、データとの別れも…。
待っている方がいらしゃるかはわかりませんが、大変長らくお待たせしました。
これからもちまちまと更新していこうと思いますので、よろしくお願いします。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。次作も鋭意執筆中ですので、そちらも是非。




