第29話 「消えぬ炎の丘」
川辺の集落を後にした一行は、建御雷神の文に書かれていた「鍛冶の丘」を目指して歩みを進めていた。
力也は、歩いているこの瞬間も、とあることを考えていた。天鈿ひかりのこと、そして、かつて天津甕星に攫われたわかなが残した——
『もっともほ』という言葉のことを。
「ねぇ力也?ほんとに今朝からどうしたの?調子悪いの?ずーーーーーっとそんな顔してるけど」
「そうだよ、怖いよ」
「そんなんじゃあ誰とも友人にはなれないよ」
「……そんなことはない」
「何か考え事?それともうちの姉さんがいる場所に心当たりがあるとか?」
「え、力也が開都のお姉さんを攫ったの?」
「なわけねぇだろ!おれはお前とずっと一緒にいたじゃねぇか!」
「冗談、冗談。力也はそんなことしないし、そんなことできない」
「はぁ。なんでいっつもそうやっておれのことを疑おうとするんだ」
「ちょっとチョッカイかけたかった」
「おいおい、困るぞ」
「うずめさんって力也のこと好きなんだ〜」
「はぁ!? ソンナコトナイシ」
ひかりは顔と手を横に振った。
「……速見の姉だが、居場所に関しての心当たりは無いが、おれの知り合いが残したある言葉が妙に引っかかる。もしかしたら、それが何か関係があるのかもしれない」
「ある言葉って?」
「"もっともほ"」
「もっともほ?」
「あぁ。おれの知り合いは天津甕星に攫われた。今回のお前の故郷もそうだが、天津甕星が関わる所は全て"黒い邪気"が出ている。で、おれの知り合いが攫われた時、天津甕星はその邪気を纏ってた」
「じゃあ、姉さんはその天津甕星っていうやつに攫われたっていうの!?」
「可能性は高い」
「もっともほ、か」
ひかりが静かに繰り返した。
「"もっともほのおが燃え盛る場所"、だったら?」
「鍛冶の丘なら炎が燃え盛ってるけど」
「じゃあそこに開都さんのお姉さんと力也の知り合いがいるかもね」
「さぁ、どうだろうな」
力也は、どうも納得していなさそうな雰囲気を醸し出していた。
(あの天津甕星が炎?星なら分かるが。一体どこを本拠地にしてるんだ?)
謎が謎を呼ぶ。そんな状況だった。
それからしばらく歩くと、一行は「鍛冶の丘」手前の小高い山までやってきた。
その丘もまた、黒いもやが出ていた。
「なんか、ここ、煙臭くない?」
「確かに、何か燃やしてる?」
「そんな臭いもするだろうな。あれを見ろ」
力也が指差した方を、一行は見た。
そこは―――
"黒い煙"が辺りを覆い尽くしていた。
この丘は、本当に燃えていたのだ。
橙色の炎が、丘の斜面に沿って広がっている。工房の屋根が崩れ落ち、黒煙が空へと立ち上っていく。水をかけても、風が吹いても、一向に収まる気配がない。まるで、誰かの意志によって燃やされ続けているかのように。
ひかりは、立ち込める黒煙を見つめながら、
"もっともほ"の意味がやはりこれなのではと思った。
"もっともほのおが燃え盛る場所"——。
「……やっぱり、ここに捕らえられているかもしれない」
ひかりの言葉にみんな納得していた。
―――力也以外は。
第2巻「河川の巻」完 。
――第3巻「鍛冶場の巻」(第30話)へ続く。




