第20話 「北への旅路」
【第1巻のあらすじ】
八意思兼神の案で、神々の力が衰えている原因を探す旅に出た天鈿ひかりと田力力也。
二柱がまずたどり着いたのは「蓬生神社」だった。神気が底をつきかけ、消えそうになっていた少 蓬生を助ける。その時、たまたま通りかかった森の神、久能智 森樹も合流し、一行は最初の目的地、東の山へ到着する。その山は神気を失い黒く変色していた。そこで炭になった山の長、大山津見神を蓬生の調合した生薬で回復させた。回復した長とともに黒くなった原因を探しに成金と化した山麓の村を訪れる。
そこでは、村人を依り代にした香香背男が暗躍し、村人は貪り化していた。香香背男の依り代と潜伏先は、村の宿に来た長の妻、草祖草野姫神も参戦し六柱でなんとか制圧した。ただ、村人の貪り化はどうしようもなかった。そこで、草野姫の古くからの親友である速見 開都に浄化を依頼。開都はその力をふんだんに使い、村全体を一気に浄化させた。
さぁ、いよいよ村を復興させよう——と思っていた矢先、開都の故郷の川から文が届く。
『川が、黒い。早く戻ってきて……』。
こうしてひかりは、力也、蓬生、森樹に開都を加え、五柱で開都の故郷の川へ向かうこととなった。
今回は、その続きのお話―――
開都の故郷へ向かう道中、一行は和気あいあいと話しながら歩んでいた。開都も、東の山を出た時は血の気が引いた顔をしていたが、ひかりたちの雰囲気のおかげで少しずつ元気を取り戻していた。
「ねぇねぇ開都ちゃん、故郷の川ってどんなとこなの?」
「うちが住んでる川……というより川辺の集落なんだけど、ほんとにおうちの真横に川、みたいな立地なのね。それでいて周りは木々が生い茂っていて、春には山菜がたくさん採れるの!川にはお魚が泳いでて、手掴みで捕るんだけど、それを焼いて食べたり、お刺身にして食べたり、煮魚にしたり、保存用で薫製とかにしたり、とにかく美味しいんだぁ〜!」
「あ〜〜〜〜んもう!絶っっっっっっっ対美味しいよそれ!」
ひかりの瞳が輝く。なぜか口元も輝いていた。よだれだ。
「川魚かぁ。久しく食ってねぇな」
「私のいた森は小川だから魚は棲んでなかったなー」
「お魚は"相棒"と旅をしてた時以来食べてないなー。食べたい!」
そんな話をしながら一行は歩く。
のどかだ。
そよ風が吹き、草花は生き生きとしている。開都の故郷はあと半刻もあれば着く距離だ。
「ちょっと疲れてきたねー」
「少し休憩しようよ」
「そうだね」
「近くにお茶屋さんがあるからそこ行こうよ!」
「いいね!行こう行こう!」
四柱は休憩する気満々だったが、一柱はどこか浮かない顔をしていた。
「ねぇねぇ力也?どうしたの?浮かない顔して。いつもの怖い顔がむっちゃ怖くなってるよ?」
「余計なお世話だ。それよりもうずめ、お前、違和感を感じねぇか」
「違和感?うーん、感じないけど……そう言えばお茶屋ってどこ?」
「そう。茶屋と思われる建物が見当たらない」
「君たち〜、うちが"人が営む"お茶屋さんを知ってると思う?」
「その感じだと知らないと思う」
「そう!知らないの!」
「そんな元気良く言うことか」
「いやいや力也くん!人が営むお茶屋さんを知らないだけで、"神様が営む"とか"眷属さんが営む"お茶屋さんを知らないとは言ってないのよ」
「?」
「ねぇ見て!何かある!」
蓬生が指差す方を向くと、そこにはいい感じの大きさの建物が一軒。のれんには「茶」と書かれている。
「あれだよあれ!"おきつね茶"!あそこ美味しいんだよ、お菓子が」
「お菓子ぃ〜!?食べたい!早く行こ〜!」
ひかりと蓬生はそう言って走って向かっていった。
「あ〜!待って〜!そのお茶屋さん、"会員制"だから〜!」
ひかりと蓬生には聞こえていなかった。
二柱は元気よく茶屋の引戸を引いた。
「ごめんくださ〜い!」
「あぁん?会員証は」
「ひぃ!か、か会員証?」
「そうだ」
中から屈強な男が出てきた。とても怖い顔で、力也とは比べ物にならない。
「あ、ま、間違えましたー……」
二柱は何もなかったかのように後ろを向こうとした。その時。
「ちょっとちょっと、白狐ちゃん。お客さんを怖がらせないで」
「?」
屈強な男の後ろに、女性が立っていた。ちょうど力也たちも追いついた。
「あ!霊狐ちゃん!久しぶり!」
「速見さん!お久しぶりですぅ!」
「! 速開都比売神さま!」
「白狐くんも久しぶり〜!元気してた?」
「はい、このようにピンピンと。今、この不届き神を追い出すところです」
「あーごめんごめん!この二柱、うちの友達なの」
「!! それは大変失礼いたしました」
「そんなそんな!頭上げてください!」
なぜかみんな、ひかりには深々と頭を下げる。何かあるのだろうか。
「いやーごめんなさいね」
霊狐が申し訳なさそうに言った。
「ここ会員制にしてて。ちょっと前に中で暴れ回ったやつがいてさ。それから会員制にして、"ちゃんとした"神様だけが入れるようにしたんですよー。ちなみに、入るには会員からの紹介か、一緒にご来店するかの二通りだけです!」
「じゃあ、この神たちも入れるね!」
「えぇもちろん!会員になれます!ささ、中に入ってください!」
ひかりたちは開都と一緒に茶屋へ入った。会員登録を済ませ、いよいよお菓子を頼もうとした時だった。
「すみませ〜ん、お菓子ってありますか?」
「そうそう、あの練り菓子食べたいな〜」
お菓子の注文をした時、霊狐は悲しげな顔をしながら厨房から出てきた。
「うぅ、ごめんなさい。今ね、材料が手に入らないの……」
「? どうして?」
「"北の川辺"が突然"黒く"なって、水も枯れて、材料の木の実も採れなくなっちゃって……」
「北の川辺って……」
「ここから四半刻(今の時間で約30分)、北へ歩いた先の川辺です……」
「!!」
「そこって……!」
「うちの故郷……」
開都の声から、さっきまでの明るさが消えた。
「実はあそこ——」
白狐が、静かに口を開いた。
北の川辺の現状について、話し始めた。
ひかりたちは息を飲んだ。
一行は知る。
あの川の、想像を越える"現状"を——。
―――第21話へ続く。




