第18話 悪役令嬢、国を救う、そして… -1
謁見の間を埋め尽くす歓声と拍手の中、アメリアは呆然と立ち尽くしていた。
謁見の間を出たアメリアに、第一王子エドワード・アストリアが足早に歩み寄った。彼の顔には、熱烈な愛と、そして尋常ではない独占欲が浮かんでいる。
「アメリア!君は、やはり私の唯一無二の存在だ!
この国に必要なのは、君のような才覚を持つ王妃なのだ!」
エドワードはアメリアの手を取り、熱い視線を送った。その瞳は、まるでアメリアを捕食する獣のようにギラギラと輝いている。
(処刑ルートは回避できたけど、まさか結婚するとは……!
いや、結婚するなんてゲームのシナリオにもなかったことなのに!
なんでこうなるの!?もう本当に、誰か私を助けて!)
アメリアは内心で悲鳴を上げた。彼の言葉の熱量が、アメリアの心に重くのしかかる。
「君の冷徹な采配は、この国に必要なものだった。
その全てを受け入れよう。君の知謀も、その歪んだ愛も、全て私だけのものだ!
愛しているよ、アメリア!私の女王!」
(なんか、ものすごく誤解されてるけど、まあいいか……。いや、良くない!
全然良くないわ!私の善行が「冷徹な采配」で「歪んだ愛」とか、もう本当に勘弁してほしいんだけど!? もう何もかもが滅茶苦茶だよぉ!)
アメリアは、もはや現実を受け入れるしかなかった。エドワードの歪んだ愛は、彼女を「影の女王」という檻の中に閉じ込めるかのように感じられた。
「さあ、共にこの国を導こう、私の女王。君は永遠に私の隣にいてくれ!」
アメリアの顔には、どこか遠い目をした、複雑な笑みが浮かんでいた。それは、処刑を免れた安堵と、自由を失った絶望が入り混じった、なんとも言えない表情だった。
エドワード王子とのやり取りを終え、アメリアが立ち尽くしていると、今度は宰相アレクシス・クロフォードが恭しく歩み寄ってきた。彼の口元にはいつもの不敵な笑みが浮かんでいる。
「影の女王アメリア様。このアレクシス、あなたの知謀に心より感服いたしました。まさか、陛下や殿下、さらには貴族たちをも掌中に収めるとは……」
アレクシスは深々と頭を下げ、アメリアを称賛する。その言葉は、アメリアの心をさらに深く抉った。
(宰相にそこまで言われると、逆に怖いんだけど……!
掌中に収める!?いやいや、全然そんなことないから!
全部、あなたの誤解だから!もう本当に、誰か私の真意を理解してぇ!)
アメリアは内心で叫んだ。アレクシスの歪んだ「尊敬」は、アメリアの悪役としての評判をさらに強固なものにしていた。
「この国の改革を、あなたの御心のままに進めてください。
私が、その全てを支えましょう。
あなたの計画は、この国を新たな時代へと導くでしょう。
私は、そのための忠実な手足となることを光栄に思います」
(私の御心のままって言われても……ただの善意が暴走しただけなんだけどな……。計画なんてないって何度言えば分かるの!?
ていうか、忠実な手足とか言ってるけど、一番厄介なのはあなたなんだけどぉぉお!)
アメリアは、もはや反論する気力も失っていた。アレクシスの言葉は、アメリアの「悪役令嬢としてのキャリア」を、国家レベルの「影の支配者」へと昇華させてしまったのだ。
アレクシスとの会話を終えると、今度は第一師団長アーサー・ペンドラゴンが、アメリアの前に跪き、剣を捧げた。彼の金髪は、王宮の光を受けてきらめき、その顔には、一点の曇りもない絶対的な忠誠が宿っている。
「アメリア様。あなたこそ、私の生涯を捧げるにふさわしい主です。あなたの冷徹な正義こそ、この国に必要な光。私は、その剣となり盾となると誓いましょう!」
アーサーの熱烈な誓いの言葉に、アメリアはまたしても頭を抱えたくなった。
(なんか、すごく重い誓いされてるんですけど!?
私、そんなに重いもの背負いたくないんだけど!
ていうか、冷徹な正義って何!?
私、正義とか考えてないし、冷徹でもないんだけどな……)
アメリアは内心で叫んだ。彼の言葉は、アメリアの純粋な善行を、すべて「冷徹な正義」という名の悪役の行動へと変換していた。
「たとえ世界中があなたを悪と呼ぼうとも、私だけはあなたの味方です!アメリア様の御為ならば、この命、喜んで捧げましょう!」
(たとえ世界中が私を悪と呼ぼうともって、あなたも散々私を悪役として盛り立ててきたじゃない!
もう誰も私の真意を理解してない!これはもう、救いようがないわぁ!)
アーサーの忠誠心は、アメリアにとって、もはや喜びではなく、重荷でしかなかった。彼の言葉は、アメリアが「悪役」として生きる運命を、さらに強固なものにしていた。
最後に、メアリーがアメリアの隣に静かに立つ。普段は無表情な彼女だが、その琥珀色の瞳の奥には、微かな満足の色が浮かんでいるようにも見えた。
「アメリア様……さすがでございます。全て、アメリア様の御心のままでございます」
メアリーの囁きに、アメリアは思わず苦笑した。
(メアリー……あなただけは、私の真意を分かってくれる……わけないか。もう諦めたよ、私。あなたの忠誠心、歪みすぎだよ!私の望みは処刑されないことだけだったんだけど、まさかこんなことになるとはね!)
メアリーは、アメリアの「成功」を自分の「忠誠心」の賜物だと感じ、至福に浸っているようだった。彼女の献身が、アメリアを「影の女王」という望まない地位に押し上げた張本人であるにもかかわらず。
「お守りいたします。永遠に」
メアリーの言葉は、アメリアにとって、もはや「呪い」のように聞こえた。彼女の平穏な生活への願いは、メアリーの絶対的な忠誠によって、永遠に打ち砕かれたのだ。アメリアは、深いため息を漏らし、王宮の窓から広がる青空を仰ぎ見た。
(ああ、私の悪役令嬢ライフは、これからも続くのか……。
どこまでも続く、この誤解の連鎖。
誰か、本当に、誰か私を助けてぇぇえええええ!)
彼女の心の叫びは、しかし、青い空の彼方へと吸い込まれていくだけだった。
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